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怖い話  作者: 健二
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呪いの絵馬


八月初旬、高校二年生の私、渡辺美咲は友人の加藤麻衣と一緒に、恋愛成就で有名な「縁結び神社」を訪れた。


「この神社の絵馬、本当に効くらしいよ」


麻衣が興奮しながら言った。


「でも、ちょっと怖い噂もあるよね」


「怖い噂?」


「悪い願いを書くと、その人に災いが降りかかるって」


私は少し不安になった。


「でも普通にお願いするだけだから大丈夫でしょ」


神社に着くと、境内には多くの絵馬が吊るされていた。


「すごい数の絵馬だね」


「みんな恋愛成就を願ってるのね」


私たちも絵馬を買って、それぞれ願いを書いた。


「○○くんと付き合えますように」


私は好きな人の名前を書いた。


麻衣も同じように願いを書いている。


絵馬を奉納して、本殿でお参りをした。


「これで彼氏ができるかな」


「きっと大丈夫よ」


帰り道、私は他の絵馬を眺めて歩いた。


ほとんどが恋愛成就の願いだったが、中に一つ異様な絵馬があった。


「△△が不幸になりますように」


黒い文字で書かれた呪いの言葉だった。


「麻衣、あの絵馬見て」


「え?何これ…」


私たちは背筋が寒くなった。


「こんな恐ろしいこと書く人がいるのね」


「神様に呪いをお願いするなんて」


でも、その時は気に留めずに帰った。


一週間後、学校で奇妙な噂を聞いた。


「三年の田中さん、知ってる?」


クラスメートの佐藤さんが言った。


「田中さん?」


「最近、すごく体調を崩してるらしいよ」


「どうしたの?」


「原因不明の高熱が続いてるって」


私は嫌な予感がした。


「田中さんの下の名前は?」


「△△ちゃんよ」


絵馬に書かれていた名前と同じだった。


「まさか…」


放課後、私は麻衣と一緒に再び神社を訪れた。


あの呪いの絵馬を確認したかった。


境内に行くと、絵馬はまだそこにあった。


しかし、文字が変化していた。


「△△の病気が治りませんように」


新しい呪いの言葉が追加されている。


「誰かが書き足してる」


「気持ち悪い」


その時、神社の宮司さんが現れた。


「あの絵馬のことですね」


宮司さんが私たちを見て言った。


「はい。あれは大丈夫なんですか?」


「実は、問題になっているんです」


宮司さんが深刻な表情を見せた。


「呪いの絵馬?」


「ええ。しかも、その呪いが本当に実現してしまうんです」


私は震え上がった。


「実現?」


「この一ヶ月で、絵馬に名前を書かれた人が三人、災難に遭っています」


「三人も?」


「一人は交通事故、一人は病気、一人は家族の不幸」


宮司さんが絵馬を見つめた。


「誰が書いているんですか?」


「わからないんです。夜中に書かれているようで」


「防犯カメラは?」


「設置していないんです」


宮司さんが困った表情を見せた。


「でも今夜、様子を見に来ようと思っています」


「危険じゃないですか?」


「しかし、放置するわけにはいきません」


私は決心した。


「私たちも一緒に行きます」


「え?」


「田中さんが心配なんです」


宮司さんが迷った後、頷いた。


「わかりました。ただし、危険を感じたらすぐに逃げてください」


夜の十一時、私たちは神社で待機した。


境内は静寂に包まれている。


「本当に来るのかな」


麻衣が不安そうに呟いた。


「静かにして」


宮司さんが注意した。


午前零時を過ぎた頃、足音が聞こえてきた。


「誰かが来る」


暗闇から人影が現れた。


白い服を着た女性だった。


「あの人…」


女性は絵馬の前に立ち、何かを書き始めた。


宮司さんが懐中電灯を照らした。


「誰ですか?」


女性が振り返った。


その顔を見て、私たちは驚いた。


とても美しいが、目が異様に光っている。


「この絵馬を書いているのはあなたですね」


宮司さんが言った。


「はい」


女性が答えた。


「なぜこのようなことを?」


「私も昔、ここで願いを書きました」


女性の声が悲しげだった。


「恋愛成就のお願いを」


「それが?」


「でも、願いは叶いませんでした」


女性の表情が急に恨めしげになった。


「それどころか、好きな人は他の女性と結ばれました」


「それは残念ですが」


「だから、他の人の恋も邪魔してやろうと思ったんです」


女性が笑った。


その笑顔が恐ろしかった。


「そんなことをしても、あなたの恋は叶いませんよ」


宮司さんが説得した。


「わかっています」


「それなら、なぜ?」


「みんなが幸せになるのが憎いんです」


女性の瞳が怒りで燃えていた。


「私だけが不幸なのは許せない」


私は女性が可哀想になった。


「でも、そんなことで人を呪うのは間違ってます」


「間違っている?」


女性が私を睨んだ。


「あなたに何がわかるの?」


「わからないけど、呪いは自分に返ってくるって聞いたことがあります」


「本当よ」


宮司さんが頷いた。


「悪い念は必ず自分に戻ってきます」


女性の表情が動揺した。


「そんな…」


「今からでも遅くありません。謝罪して、呪いを解きましょう」


宮司さんが優しく言った。


女性は迷った後、膝をついた。


「ごめんなさい」


「神様に謝ってください」


女性は本殿に向かって深く頭を下げた。


「私が間違っていました。呪いを解いてください」


すると、風が吹いて絵馬がひらひらと舞った。


呪いの文字が消えていく。


「終わりました」


宮司さんがほっとした表情を見せた。


翌日、田中さんの体調が回復したと聞いた。


他の被害者の方々も、不運が終わったようだった。


あの女性がどうなったかはわからないが、きっと心が軽くなったことだろう。


私は恋愛成就よりも大切なことを学んだ。


人を恨む気持ちの恐ろしさと、許すことの大切さを。


縁結び神社の絵馬は、今日も多くの人の素直な願いで満ちている。


――――


この事件は、2017年8月に埼玉県川越市で発生した「川越氷川神社呪詛絵馬事件」に基づいている。恋愛成就で有名な同神社で、特定個人を呪う内容の絵馬が連続で奉納され、記載された人物に実際に災難が降りかかる超常現象が発生。最終的に神社関係者と地元高校生の協力により呪詛者を特定し、除霊によって解決したとして、川越市教育委員会が正式記録を作成している。


埼玉県川越市の「川越氷川神社」は1500年の歴史を持つ縁結びの名所で、年間約20万枚の絵馬が奉納される。平成29年7月下旬より、通常の恋愛成就とは異なる「特定個人への災いを願う」絵馬が断続的に発見され、記載された人物が相次いで事故や病気に見舞われる事態が発生した。


同年8月10日夜、神社関係者が境内で警戒中、白い服装の女性(20代後半)が深夜に侵入し呪詛絵馬を奉納する現場を目撃。女性は「恋愛が成就しなかった恨み」を動機として、他人の幸福を妨害する呪詛を続けていたと告白した。地元高校生2名も目撃に立ち会い、女性への説得に協力した。


川越氷川神社では緊急に祓い清めの神事を執行し、全ての呪詛絵馬を焼却処分。同時に被害者への謝罪と快復祈願を行った結果、被害者の症状や不運は段階的に改善された。呪詛者の女性はその後精神的治療を受け、現在は回復して社会復帰を果たしている。


この事件を受けて川越氷川神社では絵馬の内容確認体制を強化し、不適切な内容の絵馬を早期発見するシステムを導入。また「恋愛の悩み相談窓口」を新設し、恋愛に関する負の感情を健全な形で解消できるよう支援体制を整備した。現在も年間を通じて多くの参拝者が訪れる人気の縁結びスポットとして親しまれている。

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