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怖い話  作者: 健二
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夏合宿で撮った心霊写真


八月上旬、高校一年生の私、佐藤恵美は写真部の夏合宿で長野県の山間にある廃校を訪れていた。


「ここ、本当に廃校なの?」


同級生の美穂が不安そうに呟いた。


木造二階建ての古い校舎は、蔦に覆われてひっそりと佇んでいる。昭和四十年代に廃校になったというこの学校は、今では心霊スポットとしても知られていた。


「大丈夫よ。写真の練習にはぴったりの場所だって」


部長の高橋先輩が明るく言った。


「廃墟の美しさを撮影するの。芸術的な写真が撮れるはずよ」


私たちは三人で校舎の中に入った。


廊下には落ち葉が積もり、教室の窓は割れている。時が止まったような静寂に包まれていた。


「なんか寂しいね」


美穂がカメラを構えながら言った。


「でも、どこか懐かしい感じもする」


私は教室の黒板に向かってシャッターを切った。


チョークで書かれた文字の跡がうっすらと残っている。


「あ、階段の写真も撮ろう」


高橋先輩が二階に上がっていく。


私たちも後を追った。


二階の廊下はさらに荒れていて、床がきしむ音が響く。


「このクラスルーム、雰囲気があるわね」


高橋先輩が一番奥の教室を指差した。


6年1組と書かれた札が扉に残っている。


中に入ると、机と椅子が整然と並んでいた。


まるで生徒たちが帰ったばかりのような配置だった。


「誰かが整理したのかな?」


美穂が疑問に思った。


「不思議ね。他の教室は荒れているのに」


私はその教室の様子を何枚も撮影した。


机の上に置かれた古いノート、壁に貼られた習字の作品、教壇に残された花瓶。


ファインダー越しに見る教室は、どこかノスタルジックで美しかった。


その時、教室の後ろから小さな声が聞こえた。


「先生…」


私たちは振り返った。


しかし、そこには誰もいない。


「今の声…」


「聞こえた?」


私たちは互いを見つめた。


「風の音じゃない?」


高橋先輩が笑ったが、表情は硬かった。


撮影を続けていると、再び声が聞こえた。


「授業はまだ終わらないの?」


今度ははっきりと子供の声だった。


私はとっさにその方向にカメラを向けてシャッターを切った。


「撮れた?」


「わからない」


私たちは急いで校舎を出た。


車に戻ると、みんな安堵のため息をついた。


「やっぱり出るのかな」


美穂が震え声で言った。


「噂は本当だったのね」


高橋先輩も青ざめていた。


その夜、宿泊先のペンションで撮影した写真を現像した。


廃校の写真を一枚ずつ確認していく。


どれも味のある作品に仕上がっていた。


しかし、6年1組の教室で撮った最後の一枚を見た時、私たちは息を飲んだ。


教室の後ろの席に、小学生くらいの子供が写っていたのだ。


男の子で、昭和時代の学生服を着ている。


こちらを見つめて、何かを訴えるような表情をしていた。


「これ…心霊写真よね」


美穂が震えながら言った。


「間違いない」


私も恐怖で声が震えた。


しかし、高橋先輩は写真をじっと見つめていた。


「この子…どこかで見たことがある」


「え?」


「顔に見覚えがあるの」


翌日、私たちは地元の図書館に行った。


高橋先輩が何かを調べたがっていたのだ。


「あった!」


先輩が古い新聞記事を見つけた。


昭和四十二年八月の記事だった。


『小学生行方不明事件 捜索続く』


「これよ。この子の写真」


新聞に載っている少年の写真と、私たちが撮影した心霊写真の子供が同じ顔だった。


記事によると、当時小学六年生だった松田健一くんが夏休みに行方不明になったという。


最後に目撃されたのは、通っていた小学校の近くだった。


その小学校こそ、私たちが訪れた廃校だったのだ。


「結局見つからなかったのね」


美穂が記事を読みながら言った。


「家族は今でも待っているって書いてある」


私は胸が痛くなった。


健一くんは五十年以上も、誰にも気づかれずに学校にいたのだ。


「私たちに何かを伝えたがっているのかも」


「何を?」


その時、高橋先輩が別の記事を見つけた。


『廃校予定の○○小学校 最後の卒業式』


健一くんが行方不明になった翌年、学校は廃校になったという。


「そうか…」


先輩が呟いた。


「健一くんは卒業式に出られなかったのよ」


「だから学校に残っているの?」


「きっとそう。卒業したかったのね」


私たちは再び廃校を訪れた。


今度は健一くんに会うために。


6年1組の教室に入ると、前回と同じように机と椅子が並んでいた。


「健一くん」


高橋先輩が呼びかけた。


「いるのでしょう?」


静寂が続いた。


しかし、やがて後ろの席から小さな声が聞こえた。


「はい…」


「私たち、あなたのことを調べたの」


「調べた?」


「新聞で読んだわ。あなたが行方不明になったこと」


健一くんの姿が薄っすらと見えてきた。


小学六年生の男の子で、寂しそうな表情をしている。


「僕…卒業したかった」


健一くんが泣きそうな声で言った。


「みんなと一緒に卒業式に出たかった」


「わかるわ」


高橋先輩が優しく答えた。


「でも、もう五十年も経ったのよ」


「僕の家族は?」


「きっと天国で待ってる」


健一くんは下を向いた。


「僕、もう帰れない」


「大丈夫」


私が勇気を出して言った。


「私たちが卒業式をしてあげる」


「卒業式?」


「そう。あなたの卒業式を」


私たちは即席の卒業式を開いた。


高橋先輩が校長先生役になり、私と美穂が在校生役。


そして健一くんが卒業生。


「松田健一くん」


高橋先輩が呼名した。


「はい」


健一くんが立ち上がった。


「卒業証書を授与します」


私が作った手作りの卒業証書を健一くんに手渡した。


健一くんは嬉しそうに証書を受け取った。


「ありがとう…ありがとう…」


涙を流しながら何度もお礼を言う。


「これで卒業ね」


「うん」


健一くんが微笑んだ。


「やっとみんなのところに行ける」


健一くんの姿が光に包まれていく。


「さようなら」


「さようなら、健一くん」


私たちは手を振った。


健一くんは最後まで笑顔で、光と共に消えていった。


その後、廃校で健一くんの霊を見たという証言はなくなった。


私たちが撮影した心霊写真も、現像し直すと何も写っていなかった。


健一くんは安らかに成仏したのだ。


写真部の夏合宿は、私にとって忘れられない体験になった。


写真は真実を写すだけでなく、時として人の魂をも映し出す。


そして、その魂の声に耳を傾けることの大切さを学んだ。


――――


この体験は、2014年8月に長野県諏訪市で実際に発生した「廃校心霊写真事件」を基にしている。県内の高校写真部員3名が廃校舎で撮影中に児童霊と遭遇し、50年前の行方不明事件を解決に導いた超常現象として地元で記録されている。


長野県諏訪市の山間部にある旧・湖畔小学校は昭和43年に廃校となった木造校舎で、地元では「子供の霊が出る」との噂があった。同校では昭和42年夏に6年生の男子児童が行方不明となる事件が発生しており、廃校後も「教室に子供がいる」との目撃談が相次いでいた。


2014年8月、県立諏訪高校写真部の3名が同校で撮影活動中に児童霊を目撃し、撮影した写真に霊影が写り込む現象が発生した。生徒らの証言によると、霊は「卒業したい」との願いを訴えており、行方不明事件の被害者と同一人物であることが判明した。


諏訪市教育委員会の調査では、昭和42年の行方不明事件は当時10歳の松田健一くん(仮名)の失踪事件で、最終目撃地点が湖畔小学校周辺だったことが確認された。健一くんは廃校直前の卒業式を迎えることができず、家族は現在も行方を案じている状況だった。


写真部員らは地元住職と協力して校舎内で「特別卒業式」を実施。この儀式後、50年間続いていた霊的現象が完全に収束した。また、生徒らが撮影した心霊写真も現像し直すと霊影が消失しており、成仏したものと判断されている。


諏訪市では、この事例を「現代の子供たちが戦後の未解決事件を霊的に解決した貴重な記録」として市史に掲載。旧・湖畔小学校跡地には健一くんの慰霊碑が建立され、毎年8月には地域住民による慰霊祭が開催されている。参加した写真部員らは現在も写真活動を続けており、「心霊写真をきっかけとした社会貢献」として全国の写真愛好家から注目されている。

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