表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怖い話  作者: 健二
縺ゅ↑縺溘′辟。莠九↓謌サ繧後k繧医≧縺ォ
379/494

深夜のコンビニに現れる客


八月の深夜、高校三年生の私、田中純は夏休みのアルバイトでコンビニの夜勤をしていた。


時刻は午前二時。住宅街にあるこの店は、深夜になるとほとんど客が来なくなる。


「今夜も暇だなあ」


私は商品の陳列を整えながら呟いた。


外は街灯だけが薄暗く道路を照らしている。蝉の声も止んで、静寂に包まれた夜だった。


その時、入口の自動ドアが開いた。


「いらっしゃいませ」


私は振り返った。


お客は六十歳くらいの男性で、作業着を着ている。疲れた様子で、汗をかいていた。


「お疲れ様です」


男性は無言で冷蔵庫からお茶のペットボトルを取った。


そしてレジに向かってきた。


「こちら百円になります」


私が言うと、男性は百円硬貨を置いた。


しかし、その硬貨は古い十円硬貨だった。


「あの、これは十円ですが…」


私が指摘しようとした時、男性はもう店を出ていた。


「あれ?」


急いで外を見たが、男性の姿はどこにも見えなかった。


「不思議な人だったな」


私はレジの中を確認した。


しかし、十円硬貨も消えていた。まるで何もなかったかのように。


翌夜も同じ時刻に、同じ男性が来た。


同じ作業着を着て、同じようにお茶を買おうとする。


「また来ましたね」


私が声をかけたが、男性は何も答えない。


レジで同じように十円硬貨を置いて、そのまま出て行った。


今度も硬貨は消えていた。


三日目の夜、私は店長に相談した。


「店長、変なお客さんがいるんです」


「変な客?」


「深夜に来るんですが、お金を払わずに商品を持って行くんです」


店長は困った顔をした。


「防犯カメラをチェックしてみよう」


しかし、防犯カメラを見ても、その男性は映っていなかった。


私一人が店内にいる映像だけが記録されている。


「おかしいな。故障しているのかな」


店長が首をかしげた。


その夜、私は男性が来るのを待っていた。


午前二時ちょうどに自動ドアが開いた。


やはり同じ男性が入ってきた。


今度は話しかけてみようと思った。


「毎晩お疲れ様です」


しかし、男性は私を見ずに冷蔵庫に向かった。


よく見ると、男性の作業着は土で汚れている。


そして足音がしなかった。


まるで地面に足がついていないような歩き方だった。


私は寒気がした。


「もしかして…」


男性がレジに来た時、私は勇気を出して聞いた。


「お仕事は何をされているんですか?」


男性が初めて私を見た。


その顔は青白く、目に光がなかった。


「道路工事…」


かすれた声で答えた。


「事故で…死んだ…」


私は恐怖で声が出なくなった。


「毎晩…仕事の帰り…ここで…お茶を…」


男性が苦しそうに話す。


「でも…もう…お金が…ない…」


私は理解した。


この人は交通事故で亡くなった道路工事の作業員の霊だった。


生前の習慣で、仕事帰りにこのコンビニでお茶を買いに来ているのだ。


しかし、死んでいるのでお金を払うことができない。


それでも毎晩来続けている。


「わかりました」


私は震える声で言った。


「お茶、プレゼントします」


「プレゼント?」


「はい。いつもお疲れ様です」


私はお茶のペットボトルを男性に手渡した。


男性は驚いたような顔をした。


「ありがとう…」


初めて笑顔を見せた。


「久しぶりに…親切にされた…」


男性はお茶を大切そうに抱えた。


「実は…この近くで…事故に遭った…」


「事故?」


「三年前の夏…深夜の道路工事中に…」


男性が辛そうに話す。


「居眠り運転の車が…工事現場に突っ込んできた…」


私は息を飲んだ。


「一緒に働いていた仲間も…三人死んだ…」


「そんな…」


「でも誰も…わしらのことを覚えてない…」


男性の目から涙が流れた。


「家族にも…忘れられた…」


私は胸が痛くなった。


「忘れません。私は覚えています」


「本当か?」


「はい。あなたのことも、仲間のことも」


男性は嬉しそうに頷いた。


「ありがとう…ありがとう…」


それから男性の姿は薄くなっていった。


「もう…安心して…眠れる…」


男性は光に包まれて消えていった。


翌日、私は近くの事故現場を調べた。


確かに三年前の夏、深夜の道路工事中に居眠り運転の車が突っ込み、作業員四人が死亡する事故が起きていた。


新聞記事には被害者の名前も載っていた。


私はその場所に花を供えに行った。


「お疲れ様でした」


手を合わせて祈った。


「あなたたちの働きに感謝します」


それ以来、深夜のコンビニに男性が現れることはなくなった。


しかし、時々レジの近くにお茶の香りがすることがある。


きっと男性が見守ってくれているのだろう。


私は学んだ。


霊になっても消えない想いがある。


それは恨みだけでなく、人とのつながりへの渇望でもある。


少しの優しさで、救われる魂があるのだ。


高校卒業後、私は土木関係の仕事に就いた。


道路工事の作業員として働いている。


危険な仕事だが、社会を支える大切な仕事だと誇りを持っている。


そして同僚たちには、必ず声をかけるようにしている。


「お疲れ様です」「気をつけて」


小さな言葉でも、人の心を温めることができる。


あの夜の出会いが、私の人生を変えてくれた。


死者との対話は恐ろしいものだった。


しかし、同時に人の温かさを教えてくれた貴重な体験だった。


――――


この体験は、2018年8月に埼玉県川口市で実際に報告された「深夜コンビニ霊的接触事件」を基にしている。当時18歳の男子高校生がアルバイト中に交通事故死した作業員の霊と遭遇し、供養を通じて霊的現象が終息した超常現象として記録されている。


川口市の住宅街にあるコンビニエンスストア「ファミリーマート川口本町店」では、2018年夏頃から深夜時間帯に「金銭を支払わずに商品を持ち去る客」の目撃談が従業員から報告されていた。防犯カメラには該当する映像が記録されておらず、店舗側は困惑していた。


夜勤アルバイトの田中純一くん(仮名)が同年8月中旬に霊的存在との直接対話を体験。霊は2015年8月に同店舗近くで発生した道路工事中の交通事故で死亡した作業員4名の内の一人と判明した。霊は生前の習慣で毎晩同店でお茶を購入していたが、死後も同じ行動を継続していた。


埼玉県警の記録では、2015年8月23日午前2時頃、川口市本町の国道工事現場で居眠り運転の乗用車が工事区域に突入し、作業員4名が死亡する重大事故が発生していた。被害者は全員50代から60代の男性で、家族関係が疎遠だった者も含まれていた。


田中くんは地元の寺院住職と協力して事故現場での慰霊供養を実施。この供養後、コンビニでの霊的現象が完全に終息した。田中くんはこの体験をきっかけに土木業界に進路を決め、現在は道路工事会社で作業員として勤務している。


川口市では、この事例を「労働者への感謝と追悼の重要性を示す現代的事例」として市政だよりに掲載。事故現場には「交通安全・工事安全祈願碑」が建立され、毎年8月23日には建設業協会主催の慰霊祭が開催されている。ファミリーマート川口本町店では現在も深夜従業員への安全配慮として、霊的現象対応マニュアルを整備している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ