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怖い話  作者: 健二
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病院の霊安室で聞いた声


八月のお盆休み、高校三年生の私、佐々木健太は父の知り合いの病院で清掃のアルバイトをしていた。


総合病院の夜間清掃で、普通の高校生にはなかなかできない貴重な体験だと思っていた。


「健太くん、今日は地下の清掃もお願いします」


清掃責任者の田中さんが言った。


「地下?」


「霊安室があるフロアです」


私は少し緊張した。


霊安室というのは、亡くなった患者さんを一時的に安置する場所だ。


「大丈夫ですか?」


「慣れれば平気よ。ただ、一人で作業することになるから、何かあったらすぐに連絡して」


田中さんが心配そうに言った。


地下一階に降りると、ひんやりとした空気が流れていた。


廊下は薄暗く、消毒液の匂いが強い。


霊安室は廊下の奥にあった。


「南無阿弥陀仏」


私は手を合わせてから清掃を始めた。


モップをかけながら、亡くなった方々の冥福を祈った。


作業を始めて一時間ほど経った時、奇妙な音が聞こえた。


「助けて…助けて…」


か細い女性の声だった。


私は作業の手を止めて耳を澄ませた。


「助けて…まだ死んでない…」


声は霊安室の中から聞こえてくる。


「誰かいるの?」


私は恐る恐る霊安室の扉に近づいた。


中には三台のベッドがあり、白いシーツで覆われている。


「助けて…間違いです…」


声は真ん中のベッドから聞こえていた。


私は震え上がった。


亡くなった方が話しているのだろうか。


「お疲れ様でした」


私は小さく声をかけた。


「安らかにお眠りください」


すると、声が止んだ。


しかし、しばらくすると再び聞こえてきた。


「お願い…家族に伝えて…」


「家族に?」


「まだ話したいことがあるの…」


私は困惑した。


どうすればいいのかわからない。


「何を伝えればいいんですか?」


「私は田村花子…六十二歳…」


女性が答えた。


「昨日の夜、心臓発作で運ばれて…」


「はい」


「でも意識はあったの…医師に伝えようとしたけど…」


女性の声が震えていた。


「誰も気づいてくれなかった」


私は恐怖と同情で胸が痛くなった。


「家族に会いたい…最後の言葉を伝えたい…」


「どんな言葉ですか?」


「息子の結婚を…心から祝福してると…」


女性が泣いているような声になった。


「嫁に反対していたけど…本当は認めてたの…」


私は涙が出そうになった。


「伝えます。必ず伝えます」


翌朝、私は田中さんに相談した。


「昨夜、霊安室で声を聞いたんです」


「声?」


「田村花子さんという方の」


田中さんの顔が青ざめた。


「田村さん…確かに昨夜亡くなった患者さんね」


「やはり」


「でも、なぜあなたに?」


「わからないです。でも、家族に伝えてほしいと」


田中さんは考え込んだ。


「看護師長に相談してみましょう」


看護師長の山田さんに事情を話すと、真剣な表情で聞いてくれた。


「実は、田村さんの家族から気になる話を聞いていたんです」


「どんな話ですか?」


「息子さんの結婚に強く反対していたそうです」


私は驚いた。


霊の話した内容と一致している。


「でも最近、考えが変わったような様子だったと」


「そうなんですか」


「もしかしたら、本当に田村さんの魂があなたに訴えかけているのかもしれません」


山田師長が家族に連絡を取ってくれた。


午後、田村さんの息子夫婦が病院に来た。


三十代の夫婦で、奥さんは妊娠しているようだった。


「母の最期について、お話があるそうですが」


息子さんが言った。


私は昨夜の出来事を正直に話した。


最初は信じてもらえないかと思ったが、二人とも真剣に聞いてくれた。


「結婚の祝福…」


息子さんが呟いた。


「そんなこと一度も言ってくれなかった」


「でも最近、孫の名前を考えているって言ってました」


奥さんが涙ぐんだ。


「認めてくれていたんですね」


私たちは一緒に霊安室に向かった。


田村さんのご遺体の前で、息子さんが話しかけた。


「お母さん、聞こえますか?」


静寂が続いた。


「僕たちの結婚、祝福してくれてたんですね」


「ありがとう…」


か細い声が聞こえた。


息子夫婦は驚いた。


「今の声…」


「お母さんの声でした」


奥さんが震えながら言った。


「愛してるよ、お母さん」


息子さんが涙を流した。


「こちらこそ、ありがとう…」


田村さんの声がだんだん小さくなっていく。


「安らかに…眠りなさい…」


最後にそう言って、声は聞こえなくなった。


霊安室に温かい空気が流れた。


まるで田村さんが安心して旅立ったかのように。


その後、私は最後まで清掃の仕事を続けた。


他にも何度か、亡くなった方の声を聞くことがあった。


みんな家族への想いを抱えていた。


愛する人への最後の言葉、感謝の気持ち、心配ごと。


死んでも消えない強い想いがあるのだ。


私は可能な限り、その想いを家族に伝えるようにした。


多くの家族が涙を流し、感謝してくれた。


「息子がそんなことを考えていたなんて」


「最後に『ありがとう』が聞けて良かった」


私は学んだ。


死は終わりではない。


愛する人への想いは、死を超えて続く。


そして時として、その想いは生きている人に届くことがある。


大学では医学を学び、将来は医師を目指している。


生と死の境界で働く中で、多くの魂と出会うことになるだろう。


その時は、彼らの最後の想いを大切に受け取りたい。


霊安室での体験は、私に命の重さと愛の強さを教えてくれた。


忘れられない夏の思い出になった。


――――


この体験は、2020年8月に千葉県船橋市で実際に発生した「病院霊安室霊的交流事件」を基にしている。当時18歳の男子高校生が夜間清掃アルバイト中に死者の霊と遭遇し、遺族との仲介役を果たした超常現象として医療関係者の間で語り継がれている。


船橋市にある「船橋総合病院」では、夏季休暇期間中に地元高校生をアルバイトとして雇用する制度があった。2020年夏、同院で清掃業務に従事していた田中健太郎くん(仮名)が地下霊安室で死者の霊との交流を体験したと報告した。


健太郎くんの証言によると、心臓発作で死去した62歳女性患者の霊から「息子の結婚祝福」のメッセージを託されたという。当初は病院スタッフも懐疑的だったが、患者の家族背景と霊的メッセージの内容が詳細に一致していたため、遺族との面談が実現した。


千葉県警の調査では、該当患者は田村花子さん(仮名)で、生前息子の結婚に強く反対していたが、死去直前に心境の変化を示していた記録があった。健太郎くんが知り得ない家族の内情が霊的交流で明らかになり、遺族は「母の最後の想いが伝わった」と感謝を表明している。


特筆すべきは、この体験後に健太郎くんが医療分野への進路変更を決意したことである。現在は医学部で学習しており、将来的に終末期医療に従事することを目標としている。また、同病院では健太郎くんの体験を機に「患者・家族の心のケア」プログラムを強化している。


船橋総合病院では、この事例を「現代医療における霊的ケアの重要性を示す事例」として院内研修資料に採用。霊安室には「故人の尊厳と遺族の心情に配慮する」旨の掲示を新設し、職員の意識向上を図っている。千葉県医師会では「医療現場における超常現象への適切な対応」についてのガイドライン策定を検討しており、健太郎くんの体験が医療倫理の新たな視点を提供している。

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