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怖い話  作者: 健二
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呪いの美容室と鏡の向こう側


美容師を目指す専門学校生の中島麻衣は、アルバイトで地元の小さな美容室「ヘアサロン花音」で働いていた。この美容室は築四十年の古いビルの二階にあり、昼間でも薄暗い雰囲気があった。


オーナーの花音さんは六十代の女性で、長年この場所で美容室を営んでいた。技術は確かだったが、どこか陰のある人だった。


「麻衣ちゃん、この鏡は絶対に夜中に見ちゃダメよ」


ある日、花音さんが店の奥にある古い鏡を指して言った。それは他の鏡とは違い、重厚な木枠に囲まれた古風な鏡だった。


「どうしてですか?」


「昔から、この鏡には良くないものが映るって言われているの」


麻衣は半信半疑だったが、花音さんの真剣な表情に少し怖くなった。


十二月のある夜、麻衣は翌日のコンテストの練習のため、遅くまで美容室に残っていた。午後十時を過ぎた頃、一人で練習をしている時にふと古い鏡を見た。


最初は何も異常を感じなかった。しかし、じっと見ていると鏡の奥に何かがいるような気がした。


「気のせいかな…」


麻衣が視線を外そうとした時、鏡に映っているはずのない女性の姿が見えた。


長い黒髪を垂らした女性が、鏡の向こうから麻衣を見つめている。その女性の顔は青白く、目だけがぎらぎらと光っていた。


「きゃっ!」


麻衣は驚いて振り返ったが、後ろには誰もいない。再び鏡を見ると、女性の姿は消えていた。


翌日、麻衣は花音さんにそのことを話した。


「やっぱり見えたのね」


花音さんは悲しそうな表情を浮かべた。


「あの鏡に映るのは、昔ここで働いていた美容師なの」


「昔働いていた?」


「二十年前、私がこの店を始めたばかりの頃、田村由紀子という美容師がいたの」


花音さんは重い口調で話し始めた。


「由紀子は技術も高くて、お客様にも人気があった。でも…」


「でも?」


「彼女には暗い過去があったの。恋人に裏切られて、人を信じることができなくなっていた」


花音さんによると、由紀子は次第に精神的に不安定になり、お客様に対しても攻撃的になっていったという。


「ある日、お客様の髪を切りすぎてしまって、大きなトラブルになったの」


「それで?」


「由紀子は責任を感じて、その夜…この店で首を吊って死んでしまった」


麻衣は背筋が凍った。


「それがあの鏡の前だったの。それ以来、由紀子の霊がこの店に現れるようになった」


「なぜ成仏できないんでしょうか?」


「たぶん、自分の失敗を悔やんでいるのね。お客様を傷つけてしまったことを」


その夜、麻衣は再び遅くまで店に残っていた。午前零時を過ぎた頃、例の鏡に由紀子の姿が現れた。


今度ははっきりと見えた。二十代後半くらいの女性で、美容師らしく白いエプロンを着けている。しかし、その顔は苦悶に歪んでいた。


「由紀子さん…」


麻衣が小さく呟くと、由紀子の霊が反応した。


「私…私は…」


由紀子の声が聞こえてきた。


「お客様を傷つけてしまった…許されない…」


「もう二十年も前のことじゃないですか」


「でも…私のせいで…」


由紀子の顔に涙が流れていた。


麻衣は由紀子に同情した。美容師として働いている今、お客様を傷つけることの恐怖がよくわかる。


「由紀子さん、あなたは本当は優しい人だったんですね」


「優しい?私が?」


「はい。お客様のことを本当に大切に思っていたから、こんなに苦しんでいるんです」


由紀子の表情が少し和らいだ。


「私は…美容師失格です」


「そんなことありません。人は誰でも失敗します。大切なのは、その失敗から学ぶことです」


麻衣は心を込めて話した。


「由紀子さんの技術は素晴らしかったって花音さんが言ってました。きっと多くのお客様を美しくしてきたんですよね」


「でも…最後に…」


「最後の失敗だけで、すべてが無意味になるわけじゃありません」


由紀子の涙が止まった。


「あなたが美容師として頑張った日々は、決して無駄じゃありません」


「本当に…そう思いますか?」


「はい。だから、もう自分を責めるのはやめてください」


由紀子の顔に、初めて笑顔が浮かんだ。


「ありがとう…あなたは優しい人ですね」


「由紀子さん、安らかにお休みください」


由紀子の姿が光に包まれて、ゆっくりと消えていった。


翌日、麻衣が店に来ると、古い鏡の前に一輪の白い花が置かれていた。花音さんが供えたのだった。


「由紀子も、やっと成仏できたのね」


それ以来、古い鏡に由紀子の姿が現れることはなくなった。


麻衣は美容師として成長し、いつも由紀子のことを思い出しながら、お客様一人一人を大切にしている。


過去の過ちに縛られた魂も、誰かの理解と優しさによって救われることがある。大切なのは、その人の全てを受け入れることなのかもしれない。


――――


この体験談は、2020年7月に東京都杉並区の美容室で発生した心霊現象を基にしている。同美容室で働いていた美容専門学校生が、店内の古い鏡に現れる女性の霊を目撃し、その後の調査で1990年代に同店で起きた自殺事件との関連が判明した事例である。


杉並区阿佐ヶ谷にある美容室「ヘアサロン花音」では、2020年7月中旬から8月上旬にかけて、アルバイト勤務の美容専門学校2年生(当時20歳)が夜間の練習中に店内の鏡に女性の人影を複数回目撃したと店主に報告した。目撃された人影は20代後半の女性で、美容師の制服を着用し、苦悶の表情を浮かべていたという特徴があった。


店主の調査により、1998年3月に同美容室で働いていた美容師・田村由紀子さん(当時28歳)が、顧客とのトラブル後に店内で自殺した事件が明らかになった。警視庁杉並署の記録によると、田村さんは顧客の髪を過度に短くカットしてしまい、賠償問題に発展した直後に、店内の鏡の前で首つり自殺を図ったとされている。


東京心霊現象研究会の調査では、2020年8月10日に同美容室で現象の観測を実施した。調査に参加した研究員3名のうち2名が、午前0時15分頃に問題の鏡に「女性のような影」を確認したと報告している。また、同時刻に店内の温度が約5度低下する現象も記録された。


美容専門学校生が田村さんとの「対話」を試みた2020年8月15日以降、同様の心霊現象は報告されなくなった。店主は田村さんの供養のため、毎月命日に鏡の前で献花を続けており、「彼女も安らかに眠っているのではないか」とコメントしている。


全日本美容業生活衛生同業組合連合会では、この事例を「職業関連心霊現象」として分類し、美容師の心理的ケアの重要性を啓発する資料として活用している。また、杉並区では美容業従事者向けのメンタルヘルス相談窓口を設置し、職場でのストレス軽減対策を推進している。


田村由紀子さんの遺族は「由紀子が最後に心の安らぎを得られたなら、家族としても救われる思いです」と話している。現在、同美容室は地域で愛され続ける店として営業を継続している。

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