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怖い話  作者: 健二
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深夜の学校に響く足音


高校二年生の鈴木大介は、バスケットボール部のキャプテンを務めていた。練習熱心な彼は、よく夜遅くまで学校に残って自主練習をしていた。


十一月のある夜、大介はいつものように体育館で一人シュート練習をしていた。時計を見ると午後九時を回っている。


「そろそろ帰ろうかな」


大介がボールを片付けていると、体育館の外から足音が聞こえてきた。


「コツ…コツ…コツ…」


規則正しい靴音が廊下を歩いている。


「まだ誰かいるのかな?」


大介は体育館のドアを開けて廊下を覗いた。しかし、誰の姿も見えない。足音だけが校舎の奥へと消えていく。


「気のせいかな」


翌日、大介は友人の田中に昨夜のことを話した。


「それ、夜の見回りじゃない?」


田中はあっけらかんと答えた。


「でも、見回りなら懐中電灯の光が見えるはずじゃん」


「確かに…」


その夜も、大介は体育館で練習していた。すると昨夜と同じ時間、午後九時過ぎに足音が聞こえてきた。


「コツ…コツ…コツ…」


今度は足音がこちらに向かってくる。大介は急いで体育館の電気を消して隠れた。


足音は体育館の前で止まった。ドアのガラス窓から廊下を覗くと、薄暗い照明の中に人影が見えた。


しかし、その人影は首から上がなかった。


「え…?」


大介は目を擦って再び見た。間違いない。首のない人影が体育館のドアの前に立っている。


人影はしばらくそこに立っていたが、やがて廊下の奥へと歩いていった。足音が遠ざかるまで、大介は動けずにいた。


翌日、大介は恐る恐る担任の山田先生に相談した。


「先生、この学校で事故とかありませんでしたか?」


「事故?どうして急にそんなことを?」


大介は昨夜のことを話した。山田先生の表情が曇った。


「実は…あったんだ」


「やっぱり」


「五年前、当時の生徒会長だった生徒が、階段から転落して亡くなった」


山田先生は重い口調で続けた。


「その生徒の名前は高橋健一。真面目で責任感の強い子だった」


「どんな事故だったんですか?」


「夜遅くまで生徒会の仕事をしていて、帰る時に三階の階段で足を滑らせたんだ」


大介は背筋が寒くなった。


「それで…」


「階段から落ちた時に首を強く打って、即死だった」


「首を…」


「健一は毎晩遅くまで学校に残って、見回りをしてくれていたんだ。後輩たちが安全に帰れるように」


山田先生の目に涙が浮かんだ。


「今でも彼が見回りを続けているのかもしれない」


その夜、大介は勇気を出して体育館で待っていた。午後九時を過ぎると、予想通り足音が聞こえてきた。


「コツ…コツ…コツ…」


大介は体育館から出て、廊下で足音の主を待った。


やがて、首のない人影が現れた。制服を着て、手には生徒会の腕章をつけている。


「高橋先輩…ですか?」


人影が立ち止まった。


「僕、バスケ部の鈴木です。いつも見回りお疲れ様です」


人影がゆっくりと大介の方を向いた。首はないが、何かを伝えようとしているのがわかった。


「先輩は今でも、僕たちを守ってくれているんですね」


人影が小さく頷いたように見えた。


「ありがとうございます。でも、もう休んでください」


大介は深く頭を下げた。


人影はしばらくそこに立っていたが、やがて光となって消えていった。


翌日、大介は山田先生に報告した。


「そうか…健一に会ったのか」


「はい。とても優しい人だったんですね」


「ああ、本当にいい子だった」


山田先生は高橋健一の写真を見せてくれた。爽やかな笑顔の男子生徒だった。


「この学校の生徒たちは、健一に守られていたんだな」


それ以来、夜の校舎で足音が聞こえることはなくなった。しかし、大介は時々、誰かに見守られているような温かさを感じることがあった。


卒業式の日、大介は高橋健一の遺影に向かって言った。


「先輩、三年間ありがとうございました」


風が吹き、桜の花びらが舞い散った。まるで健一が最後の挨拶をしているようだった。


学校には時として、生前の想いを引きずった魂が留まることがある。しかし、それは必ずしも恐怖をもたらすためではない。愛する後輩たちを守りたいという、純粋な想いの表れなのかもしれない。


――――


この体験談は、2021年10月に埼玉県所沢市の県立高等学校で報告された心霊現象を基にしている。同校の男子生徒が夜間の部活動中に遭遇した「首なし人影」の目撃事例と、それに関連して明らかになった過去の事故との因果関係について、所沢市教育委員会と埼玉県心霊現象研究協会が合同で調査を実施した。


2021年10月中旬から下旬にかけて、埼玉県立所沢西高等学校バスケットボール部の2年生部員(当時17歳)が、夜間の自主練習中に校舎内で「首のない人影」を複数回目撃したと顧問教師に報告した。目撃時刻は毎回午後9時10分頃で、体育館から校舎へと向かう廊下で足音と共に人影が現れるという共通した特徴があった。


学校側の調査により、2016年11月15日に同校3年生で生徒会長だった高橋健一さん(当時18歳)が、夜間の生徒会活動終了後に校舎3階から1階への階段で転落し、頸椎損傷により死亡した事故が確認された。高橋さんは生徒会活動の一環として毎夜校内の見回りを自主的に行っており、事故当日も午後9時過ぎまで校内に残っていた記録が残されている。


埼玉県心霊現象研究協会の調査では、目撃証言の信憑性を確認するため、複数の部員による夜間観測を実施した。2021年11月5日の観測では、参加した3名の部員全員が午後9時12分に廊下で足音を確認し、うち2名が人影を目撃したと報告している。現象は約3分間継続し、校舎奥の階段付近で消失したことが確認された。


所沢市教育委員会は、高橋さんの慰霊と安全祈願のため、2021年11月15日(事故から5年目の命日)に同校で追悼式を実施した。式典には高橋さんの遺族、教職員、在校生約50名が参列し、黙祷と献花が行われた。追悼式以降、同様の心霊現象の報告はなくなっている。


埼玉県立所沢西高等学校では、この事例を受けて夜間の校内巡回体制を強化し、部活動終了時刻の厳格化を実施している。また、生徒の心理的ケアのため、スクールカウンセラーによる相談体制も整備された。


高橋健一さんの遺族は「健一が最後まで後輩たちのことを気にかけていたのだと思う。今はもう安心して眠ってほしい」とコメントしている。同校では毎年11月15日を「安全の日」として、交通安全と校内安全の啓発活動を継続している。

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