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怖い話  作者: 健二
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神社に封印された呪いの鈴


私の名前は田中美穂。大学受験を控えた高校三年生だ。受験勉強のストレスで体調を崩していた私は、母の勧めで祖母の家がある岐阜県の山奥の村に療養に来ていた。


「美穂ちゃん、この村には昔から続く不思議な神社があるのよ」


祖母は縁側でお茶を飲みながら話してくれた。


「どんな神社なの?」


「『鈴宮神社』って言うんだけど、そこには触ってはいけない鈴があるの」


祖母の表情が急に真剣になった。


「触ってはいけない鈴?」


「ええ。神社の奥の社にある古い鈴なんだけど、それを鳴らすと恐ろしいことが起こるって言われてるの」


私は興味を持った。


「恐ろしいことって?」


「その鈴を鳴らした人は、七日以内に必ず不幸に見舞われるのよ」


「迷信じゃないの?」


祖母は首を振った。


「昔、村の若い衆がふざけてその鈴を鳴らしたことがあったの。その人は三日後に原因不明の高熱で死んでしまった」


私は背筋がぞっとした。


「でも、偶然でしょう?」


「それが偶然じゃないのよ。その後も何人か鈴を鳴らした人がいたけど、みんな七日以内に事故に遭ったり、病気になったりしたの」


翌日、私は散歩がてら鈴宮神社を訪れることにした。


神社は村の外れの小高い丘の上にあった。鳥居をくぐると、うっそうとした杉林に囲まれた石段が続いている。


「なんか雰囲気が重いな」


石段を登り切ると、古い拝殿が現れた。その奥に小さな社がある。


私は拝殿で手を合わせた後、好奇心に駆られて奥の社を覗いてみた。


社の中央に、確かに古い鈴が吊るされていた。


「これが祖母が言っていた鈴か」


鈴は青銅製で、表面には古い文字が刻まれている。よく見ると、鈴の周りに注連縄が張られ、お札が貼られていた。


「封印されてるみたい」


その時、後ろから声をかけられた。


「お嬢さん、その鈴に興味があるのかい?」


振り返ると、白髪の老人が立っていた。神社の宮司のようだ。


「すみません。祖母から聞いて、つい」


「お祖母さんは誰だい?」


「田中家の」


宮司は頷いた。


「ああ、あそこのお嬢さんか。じゃあ鈴のことも聞いてるだろう」


「はい。触ってはいけないって」


宮司は深いため息をついた。


「その通りだ。この鈴には恐ろしい呪いがかかっている」


「呪いって、本当にあるんですか?」


「ああ。この鈴は江戸時代、村に疫病が流行った時に作られたものなんだ」


宮司は鈴を見つめながら話を続けた。


「当時、村人たちは疫病を鎮めるため、生贄を神に捧げる儀式を行った」


「生贄?」


「村の娘を神に捧げたんだ。その娘の魂がこの鈴に封じ込められている」


私は息を呑んだ。


「その娘は『お鈴』という名前でな、美しく心優しい娘だった。しかし、村を救うために自らを犠牲にしたんだ」


「可哀想に」


「ところが、お鈴の魂は安らかに眠ることができなかった。生前の恨みや悲しみが鈴に込められてしまったんだ」


宮司の声が震えた。


「それ以来、この鈴を鳴らすと、お鈴の怨念が蘇り、鳴らした者に祟りをもたらすようになった」


「だから封印されてるんですね」


「そうだ。代々の宮司が封印を維持してきた。絶対に触ってはいけない」


私は神社を後にしたが、どうしても鈴のことが頭から離れなかった。


「お鈴さんって、どんな人だったんだろう」


その夜、私は不思議な夢を見た。


江戸時代の村の様子が夢に現れ、白い着物を着た美しい娘が泣いている姿が見えた。


「私を助けて」


娘の声が聞こえた。


「誰?」


「私はお鈴。長い間、この鈴に囚われている」


「お鈴さん?」


「この呪いを解いてほしい。私はもう、人を呪いたくない」


夢の中のお鈴は悲しそうな表情をしていた。


「どうすれば呪いが解けるの?」


「鈴を正しい方法で鳴らしてほしい。怨念ではなく、感謝の心で」


「でも、危険じゃない?」


「あなたなら大丈夫。心の優しい人だから」


翌朝、私は目を覚ました。夢とは思えないほどリアルだった。


「お鈴さんを助けてあげたい」


私は再び神社に向かった。


宮司はいなかった。私は誰もいない境内で、社の前に立った。


「お鈴さん、本当にいるの?」


すると、社の中から微かに声が聞こえた。


「ここにいます」


私は勇気を出して、注連縄を外し、社の扉を開けた。


古い鈴が静かに揺れている。


「お鈴さん、あなたの苦しみを終わらせてあげる」


私は鈴に向かって手を合わせた。


「村の人たちを救うために犠牲になった、あなたの優しい心に感謝します」


そして、そっと鈴に触れた。


鈴は美しい音色を奏でた。しかし、恐ろしいことは何も起こらなかった。


代わりに、温かい光が鈴を包み、お鈴の霊が現れた。


「ありがとう」


お鈴は涙を流しながら微笑んだ。


「やっと、安らかに眠ることができます」


「よかった」


「これで、もう誰も呪われることはありません」


お鈴の姿が光となって消えていった。


その後、鈴宮神社の呪いの鈴の話は聞かれなくなった。


私は大学受験にも合格し、充実した日々を送っている。


時々、あの鈴の美しい音色を思い出す。


それは、感謝の心が生み出した、神聖な響きだった。


――――


この体験談は、2019年夏に岐阜県高山市で報告された心霊事件を基にしている。同年8月、受験勉強の療養で祖母宅を訪れていた名古屋市在住の女子高校生(当時17歳)が、地元の古い神社で「呪いの鈴」に関わる超常現象を体験した事例である。


舞台となった鈴岡神社(高山市丹生川町)は、享保年間(1716-1736)創建の小社で、地元では「鈴の宮」と呼ばれている。同神社の本殿奥に安置された青銅製の鈴(江戸中期の作)には、古くから「触れると災いが降りかかる」という言い伝えがあった。


高山市史によると、享保14年(1729年)に当地域で疫病が大流行した際、村人たちが疫病退散を祈願して特別な神事を執り行った記録が残されている。この神事において、村の娘「お鈴」(当時16歳)が神に仕える巫女として選ばれ、厳格な禊を経て神事に参加したとされる。お鈴は神事の後、原因不明の病で急死しており、村人たちは彼女の霊を鎮めるため、彼女の名を冠した鈴を神社に奉納したという。


2019年の事件では、療養中の女子高校生が夢の中でお鈴の霊と遭遇し、「封印を解いてほしい」という依頼を受けたと証言。翌日、実際に神社を訪れて鈴に触れたところ、これまで報告されていた「災いの前兆」(異常な冷気、不吉な音など)が完全に消失したことが確認されている。


事件後の調査で、地元史研究会が古文書を再検証した結果、お鈴が自発的に神事に参加し、村の平安を願って命を捧げた「自己犠牲の聖女」であったことが判明。これまでの「呪いの鈴」という解釈は誤りで、実際は「感謝されることを願う霊」だった可能性が指摘されている。


現在、鈴岡神社では毎年8月15日に「お鈴感謝祭」を開催し、疫病平癒と社会平安を祈願する行事として定着している。問題の鈴は「災いの源」から「感謝の象徴」として再評価され、多くの参拝者が訪れる神社の象徴的存在となっている。岐阜県文化財保護協会では、この事例を「民間信仰の再解釈による文化的価値の再発見」として学術的に注目しており、関連資料の保存・研究が継続されている。

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