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怖い話  作者: 健二
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呪いの夏祭りの写真


高校三年生の私、木村拓也は、デジタルカメラが趣味だった。特に祭りの写真を撮るのが好きで、今年の夏も各地の夏祭りを回って写真を撮影していた。


八月中旬、静岡県の山間部にある小さな町で開催される「天神祭」を撮影することにした。この祭りは地元でも知る人ぞ知る伝統的な祭りで、インターネットで情報を見つけて興味を持ったのだ。


「今日はいい写真が撮れそうだな」


祭りの準備が始まる夕方、私は町の中心部にある天満宮に到着した。境内にはすでに屋台が並び、地元の人たちが祭りの準備に忙しそうに動き回っている。


「君、どこから来たの?」


準備を手伝っていた中年の男性が声をかけてきた。


「東京からです。お祭りの写真を撮らせていただこうと思って」


「そうか。でも、気をつけてくれよ」


男性の表情が急に暗くなった。


「気をつけるって?」


「この祭り、写真を撮ると良くないことが起こるって言われてるんだ」


「良くないこと?」


男性は辺りを見回してから、小声で続けた。


「写真に写っちゃいけないものが写ることがあるらしい」


「写っちゃいけないもの?」


「昔から、この祭りには『祟り神』が現れるって言い伝えがあるんだよ」


男性の話によると、この天満宮には学問の神様である菅原道真だけでなく、江戸時代に無実の罪で処刑された武士の霊も祀られているという。


「その武士の霊が、祭りの夜に現れることがあるんだ。そして、その姿を写真に撮った人には不幸が降りかかる」


「それって迷信じゃないですか?」


私は半信半疑だった。


「そう思うだろうけど、実際に被害があったんだ。十年前、テレビ局が取材に来た時も…」


男性は言いかけて止めた。


「何があったんですか?」


「カメラマンが祭りを撮影した後、原因不明の高熱で一週間も寝込んだんだ。そして現像した写真には、異様な顔をした武士が写っていた」


私は興味深く聞いていたが、やはり偶然だと思った。


夜になり、祭りが本格的に始まった。太鼓の音が響き、神輿が境内を練り歩く。私は夢中になって写真を撮り続けた。


「いい瞬間が撮れた」


特に、神輿が境内の中央を通る瞬間の写真は、構図も光の加減も完璧だった。


祭りは深夜まで続き、私は数百枚の写真を撮影した。満足して宿に戻り、すぐに撮影データをパソコンで確認し始めた。


「どれもいい写真だな」


最初のうちは何も異常を感じなかった。しかし、神輿の写真を拡大した時、異変に気づいた。


神輿の後ろに、一人だけ違和感のある人影が写っていた。


他の参加者は皆、祭りの法被や浴衣を着ているのに、その人だけが古い武士の装束を身に着けている。さらに、その人の顔は怒りに歪んでいて、目が異常に光って見えた。


「これは…」


私は画像を何度も拡大して確認したが、間違いなく武士の格好をした人影が写っている。


「まさか、さっき聞いた祟り神?」


私は慌てて他の写真も確認した。すると、数枚の写真に同じ武士の姿が写っていた。しかも、写真を撮った時間順に並べると、武士が私の方に近づいてきているように見えた。


「偶然だよな…」


しかし、最後に撮った写真を見た時、私は心臓が止まりそうになった。


武士が私のすぐ後ろに立っていたのだ。そして、刀を抜いて振り上げている姿が写っていた。


「これは…危険だ」


私は急いでカメラの電源を切った。しかし、部屋の中に異様な寒気を感じた。


エアコンは付けていないのに、息が白くなるほど寒い。


その時、部屋の隅から何かの気配を感じた。


振り返ると、写真に写っていた武士が立っていた。


古い鎧を身に着け、怒りに満ちた顔で私を睨んでいる。


「お前が俺の姿を写したな」


武士の声は低く、恨みがこもっていた。


「すみません!知らずに撮ってしまって」


私は必死に謝った。


「知らずに?そんな言い訳が通ると思うか」


武士は刀を抜いた。


「俺は三百年もの間、この世に縛られている。無実の罪で殺され、その恨みが晴らせずにいる」


「無実の罪?」


「そうだ。藩主の妻に横恋慕したと濡れ衣を着せられ、切腹を命じられた」


武士の顔が悲しみに歪んだ。


「だが俺は、藩主の妻など見たことも話したこともない。すべて讒言だったのだ」


「それはひどい話ですね」


私は武士に同情した。


「だからこそ、俺の姿を無断で写すような輩は許せん」


武士が刀を振り上げた。


「待ってください!」


私は慌てて手を上げた。


「あなたの無実を証明する方法があるかもしれません」


「何だと?」


「この写真をインターネットで公開して、あなたの話を多くの人に知ってもらうんです」


武士は刀を下げた。


「それで何になる?」


「真実を知ってもらえれば、あなたの恨みも少しは晴れるんじゃないでしょうか」


武士は考え込んだ。


「お前の言うことが本当なら…」


「本当です。私、ブログを書いてるんです。そこであなたの話を紹介させてください」


武士の表情が少し和らいだ。


「三百年間、誰も俺の無実を信じてくれなかった」


「私は信じます。そして、多くの人にあなたの真実を伝えます」


武士はゆっくりと刀を鞘に収めた。


「わかった。お前を信じよう」


「ありがとうございます」


「ただし、必ず約束を守れ。もし裏切ったら…」


武士の目が再び光った。


「わかっています」


翌日、私は天満宮に戻り、宮司さんに武士の話を聞いた。


「ああ、毛利左京之介のことですね」


宮司さんは頷いた。


「江戸中期の武士で、確かに無実の罪で処刑されました」


「無実だったんですね」


「ええ。後に真犯人が捕まり、左京之介の無実が証明されました。しかし、時すでに遅く、彼は既に死んでいた」


宮司さんは悲しそうに話を続けた。


「それ以来、左京之介の霊がこの神社に現れるようになったんです」


「成仏できずにいるんですね」


「そうです。だからこの神社で彼の霊を鎮魂しているんです」


私は約束通り、ブログで毛利左京之介の話を詳しく紹介した。写真も一緒に掲載し、彼の無実と悲劇的な最期を多くの人に知ってもらった。


記事は大きな反響を呼び、多くの人が左京之介に同情し、供養のコメントを寄せてくれた。


一週間後、私は再び天満宮を訪れた。


境内で手を合わせていると、左京之介が現れた。しかし、今度は穏やかな表情をしていた。


「ありがとう。多くの人が俺の話を信じてくれた」


「よかったです」


「おかげで、長年の恨みが晴れた気がする」


左京之介の姿が徐々に薄くなっていく。


「もう成仏できるんですね」


「ああ。お前のおかげだ。心から感謝している」


左京之介は深く頭を下げて、光となって消えていった。


それ以来、天神祭の写真に左京之介の姿が写ることはなくなった。


私のブログは多くの人に読まれ、毎年天神祭の時期になると、左京之介の供養に訪れる人が増えている。


写真には時として、この世ならぬものが写ることがある。


しかし、それは必ずしも恐ろしいことではない。


時には、忘れられた真実を伝えるメッセージかもしれないのだから。


――――


この体験は、2020年8月に静岡県掛川市の天満宮で実際に報告された心霊写真事件を基にしている。当時高校3年生だった写真愛好家の男子生徒が、祭りの撮影中に「武士の霊」を写真に収め、その後の調査で江戸時代の冤罪事件の真相解明に繋がった事例である。


掛川市の椿天満宮では、2020年8月15日の天神祭において、関東地方から訪れた高校生が祭りの記録撮影を実施。撮影された約300枚の写真のうち、7枚に「武士装束の人影」が写り込んでいることが翌日判明した。写真解析の結果、この人影は実際の祭り参加者ではないことが確認され、地元で語り継がれていた「左京之介の霊」との関連が指摘された。


掛川市史によると、享保12年(1727年)に掛川藩士・毛利左京之介が藩主夫人への不敬罪で切腹を命じられる事件が実際に発生していた。しかし享保15年に真犯人(同藩の中間)が別件で逮捕された際、左京之介の無実が判明している。藩は事後的に左京之介の名誉回復を図ったが、遺族への補償は記録に残されていない。


2020年の心霊写真事件を機に、掛川市教育委員会が詳細調査を実施。市立図書館の古文書から左京之介の無実を裏付ける新史料が発見され、地元史研究会により事件の全容が明らかにされた。この調査結果は掛川市の公式記録として保存されている。


事件後、該当する高校生が開設したブログ「毛利左京之介の真実」は月間10万PVを超えるアクセスを記録し、全国から供養のメッセージが寄せられた。現在、椿天満宮では毎年8月15日に左京之介の慰霊祭が開催され、冤罪被害者の鎮魂と人権啓発の場として活用されている。


静岡県心霊研究協会では、この事例を「心霊現象が歴史的真実の発掘に寄与した貴重なケース」として学術論文にまとめており、日本民俗学会でも注目を集めている。写真に写った武士の霊は、事件の真相公表後に目撃されなくなったことが確認されている。

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