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怖い話  作者: 健二
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深夜の映写室


「あの映写室、昔から変なんだよね」


文化祭の準備をしていた時、映画研究部の先輩が小声で呟いた。私は県立桜台高校の二年生、田村奈々。映画研究部で毎年行っている自主制作映画の撮影を手伝っていた。


「変って、どんなふうにですか?」


同級生の佐藤くんが興味深そうに尋ねた。


「夜中に一人で編集作業してると、誰もいないはずなのに後ろに人の気配を感じるんだ」


先輩の山田さんは振り返りながら話した。


「それに、古いフィルムから変な音が聞こえることもある」


映写室は体育館の二階にある小さな部屋で、昔は映画鑑賞や講演会で使われていた。今では映画研究部が機材を置いて、編集作業に使っている。


「どんな音ですか?」


私が質問すると、山田さんは困ったような顔をした。


「うーん、説明が難しいけど...女の人の泣き声みたいな」


「泣き声?」


「でも、風の音かもしれないし、古いフィルムが擦れる音かもしれない」


山田さんは曖昧に答えた。


「気のせいだと思うんだけどね」


その日の放課後、私と佐藤くんは映写室で編集作業をしていた。夏の日が長いとはいえ、午後七時を過ぎると薄暗くなってくる。


「奈々、この場面のカットどう思う?」


佐藤くんがパソコンの画面を指差した。


「もう少し短くした方がいいかも」


私が答えた時、天井の方から小さな音が聞こえた。


「今の聞こえた?」


「ネズミじゃない?古い建物だし」


佐藤くんは気にしていない様子だった。


しかし、その後も定期的に音が聞こえてくる。まるで誰かが歩き回っているような足音だった。


「やっぱり変だよ、この音」


私が不安になった時、パソコンの画面が突然フリーズした。


「えっ?」


佐藤くんがキーボードを叩いたが、反応しない。


「再起動するしかないな」


パソコンを再起動している間、私たちは机の上にあった古いフィルム缶を見つけた。


「これ、何のフィルムだろう?」


缶には「1995年度 学園祭記録」と書かれている。


「二十年以上前のフィルムだね」


佐藤くんが缶を開けると、古いフィルムが巻かれていた。


「見てみる?」


私たちは古いフィルム映写機にフィルムをセットした。この映写機は今でも動く貴重なもので、山田さんが大切にメンテナンスしている。


フィルムが回り始めると、1995年の学園祭の様子が映し出された。懐かしい校舎や、若い先生たち、制服のデザインも少し違う。


「みんな楽しそう」


私が微笑んでいると、画面に一人の女子生徒が大きく映った。


長い黒髪の美しい生徒で、笑顔で手を振っている。しかし、その直後に画面が激しく揺れて、フィルムが途切れた。


「あれ?」


佐藤くんがフィルムを確認すると、その部分だけ焼けて切れていた。


「事故で切れちゃったのかな」


その時、映写機から妙な音が聞こえ始めた。「あ、あ...」という、か細い女性の声のような音だった。


「今の聞こえた?」


私が震え声で尋ねると、佐藤くんも青ざめていた。


「聞こえた...」


映写機を止めようとした時、突然部屋の電気が消えた。


真っ暗闇の中で、映写機だけが回り続けている。そして、スクリーンには何も映っていないはずなのに、ぼんやりと人影が見えた。


「奈々、見える?」


「見える...女の人の影」


人影はスクリーンの中で手を振っていた。さっきフィルムで見た女子生徒と同じような動作だった。


しかし、その手の動きが段々と激しくなり、まるで助けを求めているような仕草に変わった。


「助けて...」


微かに声が聞こえた。


「助けて...誰か...」


私たちは恐怖で動けなくなった。


その時、ドアが開いて山田さんが入ってきた。


「おーい、まだいたの?電気が...」


山田さんが電気をつけると、映写機は止まり、スクリーンには何も映っていなかった。


「大丈夫?二人とも顔が真っ青だけど」


私たちは震え声で今の出来事を話した。


「そのフィルム...」


山田さんの表情が急に曇った。


「それ、触っちゃダメなやつだ」


「えっ?」


「先輩から聞いたことがあるんだ。そのフィルムには、1995年に亡くなった生徒が映ってるって」


山田さんは重い口調で話し始めた。


「その年の学園祭の直後に、一年生の女子生徒が事故で亡くなったんだ」


「事故?」


佐藤くんが尋ねた。


「体育館から落ちたんだって。このフィルムは、彼女が映った最後の映像なんだ」


私の背筋が凍った。


「それ以来、このフィルムを見ると変な現象が起きるって言われてる」


「どんな現象ですか?」


「彼女が助けを求めて現れるんだ。でも、もう手遅れだから、誰も助けることができない」


山田さんはフィルム缶を慎重に片付けた。


「だから普段は触らないようにしてるんだ」


「その生徒さん、どうして体育館から落ちたんですか?」


私が尋ねると、山田さんは困ったような顔をした。


「詳しいことは分からない。でも、学園祭で何かトラブルがあったらしい」


翌日、私は図書館で1995年の学校新聞を調べてみた。


「学園祭終了後の悲劇」という見出しで、小さな記事を見つけた。


『1995年11月3日、本校一年生の佐々木美咲さん(16)が体育館二階から転落し、搬送先の病院で死亡が確認された。佐々木さんは学園祭実行委員として活動しており、祭り終了後の片付け作業中の事故とみられる』


記事にはそれ以上の詳細は書かれていなかった。


放課後、私は再び映写室を訪れた。今度は一人で。


「佐々木美咲さん」


私は静かに呼びかけた。


「もしここにいるなら、話を聞かせてください」


しばらく静寂が続いた後、机の上のペンが一人でに動いた。


紙にゆっくりと文字が書かれていく。


『たすけて』


『だれも しんじてくれない』


『じこじゃない』


私の心臓が激しく鼓動した。事故じゃない?


『おしえて』


『なにがあったの?』


私がペンで書くと、再び文字が現れた。


『おしつけられた』


『ひとりで』


『だれかが』


内容が理解できないまま、さらに文字が続いた。


『うらぎられた』


『しんじてたのに』


『くやしい』


私は理解し始めた。佐々木美咲さんは事故で死んだのではない。誰かに押されて落ちたのだ。


『だれに?』


私が書くと、ペンが激しく震え始めた。そして、大きく一つの文字を書いた。


『せんぱい』


その瞬間、ドアが勢いよく開いた。


「何してるんだ?」


振り返ると、見知らぬ中年男性が立っていた。この学校の関係者のようだが、見たことがない。


「す、すみません」


私が謝ろうとすると、男性の顔が青ざめた。紙に書かれた文字を見ているのだ。


「その紙...」


男性が近づいてきた時、急に映写機が勝手に動き始めた。


スクリーンに1995年のフィルムが映し出される。学園祭の楽しそうな場面から、佐々木美咲さんが手を振る場面へ。


そして、今まで見えなかった続きの場面が映った。


美咲さんが体育館の二階にいる。そして、後ろから男性が近づいてくる。その男性は...


「やめろ!」


目の前の男性が映写機に飛びかかったが、フィルムは最後まで映し出された。


男性が美咲さんを押している場面。美咲さんが手摺りを越えて落ちていく場面。


「違う!あれは事故だったんだ!」


男性が叫んだ。


「彼女が勝手に...」


その時、スクリーンに美咲さんの顔が大きく映った。今度は笑顔ではなく、深い悲しみと怒りの表情で。


「嘘つき」


スクリーンから声が聞こえた。


「私を殺したくせに」


男性は恐怖で震えていた。


「違う...あの時は...君が先輩のことを告発するって言うから...」


「だから殺したのね」


美咲さんの声が部屋に響く。


「学園祭の準備金を横領していたこと、バレるのが怖かったのね」


男性の顔が完全に青ざめた。


「でも、もう終わり。真実が明らかになった」


スクリーンの美咲さんが微笑んだ。今度は安らかな笑顔だった。


「ありがとう、田村さん」


私の名前を呼ばれて驚いた。


「やっと、誰かが真実を知ってくれた」


映写機が止まり、部屋は静寂に包まれた。男性はその場に座り込んで泣いていた。


「すみませんでした...すみませんでした...」


後日、この男性は元生徒会の会計担当で、現在は事務員として学校に勤務していることが判明した。1995年の学園祭準備金横領事件の隠蔽のため、それを知った佐々木美咲さんを殺害していたのだ。


男性は警察に自首し、二十年以上隠されていた真実がついに明らかになった。


それ以来、映写室で奇怪な現象は起きなくなった。たまに優しい女性の笑い声が聞こえることがあるが、それは美咲さんがようやく安らぎを得た証なのだろう。


映写室の机の上には、美咲さんからのお礼のメッセージが残されていた。


『ありがとう。やっと眠れます』


現在もその紙は、映画研究部の大切な思い出として保管されている。


――――


この物語は、2019年に埼玉県内の公立高校で発生した実際の事件を基にしている。当時の映画研究部部員の証言によると、学校の映写室で「古いフィルムを再生中に異常な現象が発生し、それが過去の未解決事件の真相解明につながった」とされている。


1995年11月、同校で実際に一年生女子生徒の転落死事故が発生していた。当時は事故として処理されたが、2019年7月に元職員の男性(当時49歳)が警察に出頭し、殺人容疑で逮捕されている。


男性は1995年当時、生徒会の指導教員として学園祭の予算管理を担当していたが、準備金約30万円を横領していた。被害生徒がこの不正を発見し、告発をほのめかしたため、口封じとして体育館二階から突き落としたと供述している。


映写室での超常現象については科学的検証は行われていないが、複数の生徒が「古いフィルムの再生時に異常な映像や音声が記録された」と証言している。また、事件解決後にこれらの現象は完全に停止したという報告もある。


この事件は「時効のない殺人事件」として大きく報道され、長期間隠蔽されていた学校内部の不正が明るみに出たケースとしても注目された。

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