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怖い話  作者: 健二
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七夕の夜の祟り


八月上旬の蒸し暑い夜、私と友人の理恵、拓也の三人は、新潟県の山間部にある理恵の叔母の家を訪れていた。私は高校一年生の佐々木綾乃。毎年恒例の夏休み旅行だったが、今年は少し様子が違っていた。


「今年の七夕祭りは中止になったのよ」


叔母の高橋さんが、夕食の時に寂しそうに話した。


「どうして中止なんですか?」


理恵が箸を止めて尋ねた。


「実は、この村で変なことが起きているのよ」


叔母さんは声を落とした。


「七月七日の夜から、村の人たちが次々と奇妙な夢を見るようになったの」


「奇妙な夢?」


拓也が身を乗り出した。


「織姫と彦星の夢なんだけど、普通の七夕の話じゃないのよ」


叔母さんの表情が曇った。


「夢の中で、織姫が泣いているの。それも、とても悲しそうに泣いていて、『約束を破った』って繰り返し言うのよ」


私たちは顔を見合わせた。


「約束って、何の約束でしょう?」


私が尋ねると、叔母さんは首を振った。


「わからないの。でも、夢を見た人はみんな、翌日から体調を崩すのよ」


「体調を崩す?」


「高熱が出て、うなされるの。お医者さんに診てもらっても原因がわからない」


叔母さんは心配そうに窓の外を見た。


「もう十人以上が同じような症状で寝込んでいるの」


「それで七夕祭りが中止になったんですか?」


理恵が確認すると、叔母さんは頷いた。


「村の長老たちは、これは織姫様の祟りだって言っているのよ」


その夜、私たちは二階の部屋で布団を並べて寝ていたが、なかなか眠れずにいた。


「織姫様の祟りって、何だろうね」


理恵が小声で話しかけてきた。


「七夕の神様が怒るなんて、信じられない」


拓也が首をひねった。


その時、窓の外から微かに音楽が聞こえてきた。


笛や太鼓の音で、まるで祭囃子のようだった。


「音楽が聞こえる」


私たちは窓際に移動して外を見た。


山の向こうから、幻想的な光が立ち上っていた。まるで天の川のようにキラキラと輝いている。


「あれは何?」


拓也が目を凝らした。


光はゆっくりと空に向かって昇っていく。そして、その光の中に人影が見えた。


「人がいる…」


美しい着物を着た女性が、光の中で踊っているようだった。


「織姫様?」


理恵が息を呑んだ。


女性の周りには星のような光がちらちらと舞っている。しかし、その踊りはどこか悲しげに見えた。


「泣いてるみたい」


確かに、女性は踊りながら涙を流しているようだった。


光景は約一時間続いた後、突然消えた。私たちは興奮して眠れなくなってしまった。


翌朝、叔母さんに昨夜のことを話すと、驚いた顔をした。


「まさか、あなたたちも織姫様を見たの?」


「見ました。山の向こうで踊ってました」


私が答えると、叔母さんは青ざめた。


「それじゃあ、あなたたちも夢を見るかもしれない」


「夢?」


「織姫様を見た人は、必ずその夜に例の夢を見るのよ」


叔母さんは心配そうに私たちを見つめた。


「今晩は気をつけなさい」


午後、私たちは村を散策していると、古い神社を見つけた。『星宮神社』と書かれた看板が立っている。


「星の神社か…七夕に関係ありそうだね」


拓也が境内を見回した。


神社は小さいが、美しく手入れされていた。しかし、拝殿の扉に大きな封印の紙が貼られている。


「封印されてる」


理恵が紙を指差した。


「『七夕祭まで開扉厳禁』って書いてある」


「どうして封印されてるんだろう?」


私が首をかしげていると、後ろから声がかけられた。


「あんたたち、よそから来た子たちかい?」


振り返ると、杖をついた老人が立っていた。


「はい。理恵の叔母さんのところに泊まっています」


私が答えると、老人は頷いた。


「高橋さんのところか。わしは村の宮司をしている田村じゃ」


「宮司さんですか。この神社のことを教えてもらえませんか?」


拓也が尋ねると、田村宮司は重い表情を浮かべた。


「この神社は、織姫と彦星を祀っている神社でな」


「織姫と彦星?」


「そうじゃ。昔からこの村では、七夕の夜に盛大な祭りを開いて、二人の再会を祝っていたんじゃ」


宮司さんは拝殿を見上げた。


「しかし、今年は祭りを中止にしてしまった」


「それで織姫様が怒ってるんですか?」


理恵が尋ねると、宮司さんは悲しそうに頷いた。


「おそらくそうじゃろう。織姫様は楽しみにしていたのに、約束を破ってしまったからな」


「約束?」


「毎年七夕の夜に祭りを開くという、昔からの約束じゃ」


宮司さんは封印の紙を見つめた。


「でも、今年は村の人たちが体調を崩して、祭りどころではなくなってしまった」


「悪循環ですね」


私が呟くと、宮司さんは深く息をついた。


「そうじゃ。織姫様が怒れば怒るほど、村の人たちは体調を崩し、ますます祭りができなくなる」


「何か解決策はないんですか?」


拓也が真剣に尋ねた。


「うーむ」


宮司さんは考え込んだ。


「もし、誰かが織姫様に直接謝ることができれば…」


「直接?」


「織姫様の夢を見た時に、夢の中でお詫びをするんじゃ」


宮司さんは私たちを見つめた。


「しかし、それは危険なことでもある。下手をすると、もっと深刻な祟りを受けるかもしれん」


その夜、私たちは覚悟を決めて床に就いた。織姫様の夢を見たら、村のために謝ろうと決めたのだ。


深夜、私は確かに夢を見た。


星空の下、美しい織姫が一人で泣いている。着物は星の光で織られたように美しく、髪には天の川の輝きが宿っている。


しかし、その表情は深い悲しみに満ちていた。


「毎年…楽しみにしていたのに…」


織姫は涙を流しながら呟いた。


「みんなで歌って踊って…彦星と再会を祝ってくれるのが…」


私は夢の中で織姫に近づいた。


「織姫様」


織姫は振り返って私を見た。


「あなたは…」


「村の人たちの代わりに謝りに来ました」


私は深く頭を下げた。


「今年は祭りができなくて、本当に申し訳ありません」


織姫は驚いたような顔をした。


「謝る?なぜ?」


「約束を破ってしまったから」


「約束…」


織姫は考え込んだ。


「私は別に、約束を守ってほしいわけではないのよ」


「え?」


「ただ、みんなが楽しそうに祭りをしているのを見るのが好きだっただけ」


織姫は寂しそうに微笑んだ。


「でも、今年はみんなが体調を崩してしまって…」


私は理解した。織姫は怒っているのではなく、心配していたのだ。


「織姫様は、村の人たちを心配してくださってたんですね」


「そうよ。でも、私の力が強すぎて、みんなを苦しめてしまった」


織姫は涙を拭いた。


「どうしたらいいのかわからなくて」


「大丈夫です。織姫様の気持ちがわかれば、きっとみんな元気になります」


私は織姫の手を取った。


「来年は必ず、素晴らしい祭りを開きますから」


織姫の顔が明るくなった。


「本当?」


「本当です。織姫様と彦星様の再会を、みんなで心からお祝いします」


「ありがとう」


織姫は美しい笑顔を見せた。


「あなたのような優しい人がいるなら、安心ね」


その時、夢の中に彦星も現れた。


「織姫、どうしたんだい?」


「彦星様、大丈夫よ。誤解が解けたの」


織姫は嬉しそうに彦星に寄り添った。


「来年また、みんながお祭りをしてくれるって」


「それは良かった」


彦星も安心したような顔をした。


二人は天の川を渡って、星空の向こうに消えていった。


翌朝、私が目を覚ますと、理恵と拓也も同じような夢を見ていた。


「織姫様、怒ってたわけじゃないんだね」


理恵が安堵の表情を浮かべた。


「心配してくださってたんだよ」


拓也も頷いた。


私たちは急いで叔母さんに報告した。叔母さんは驚きながらも、宮司さんに連絡を取ってくれた。


その日の夕方、村中の人たちが星宮神社に集まった。体調を崩していた人たちも、なぜかすっかり元気になっていた。


「織姫様のお気持ちがわかりました」


宮司さんが皆に説明した。


「織姫様は怒っていたのではなく、私たちを心配してくださっていたのです」


村の人たちは安堵の表情を浮かべた。


「それでは、来年は今まで以上に素晴らしい七夕祭りを開きましょう」


「はい!」


みんなが声を揃えて答えた。


宮司さんが封印を解くと、拝殿の扉が開いた。中から温かい光が漏れ、星のような輝きが舞い散った。


その夜、山の向こうから再び光が立ち上った。しかし、今度は悲しい踊りではなく、喜びに満ちた舞だった。


織姫と彦星が、手を取り合って踊っている。


「来年が楽しみね」


理恵が星空を見上げて言った。


「うん、きっと素晴らしい祭りになるよ」


私も星に向かって手を振った。


――――


この体験は、2017年8月に新潟県南魚沼市の山間集落で実際に起きた現象を基にしている。当時高校1年生だった3名の生徒が、「七夕祭り中止に関連した織姫の霊的体験」を報告し、地域の伝統行事復活に貢献した事例である。


該当する集落では、江戸時代から毎年7月7日に「星宮神社七夕祭」が開催されていたが、2017年は少子高齢化と準備体制の不備により初めて中止が決定された。しかし中止決定後の7月上旬から、村民の間で「織姫が泣いている夢」を見る人が続出し、同時に原因不明の発熱症状を訴える人が急増していた。


地元診療所の記録では、7月7日から8月5日まで約30日間で、人口200名ほどの集落から47名が同様の症状で受診した。医学的検査では異常は見つからず、全員が「織姫の夢」を見ていたことが共通していた。


目撃証言によると、高校生3名が同時に「織姫との夢の中での対話」を体験し、織姫が祭りの中止を悲しんでいることを理解したという。この体験談が村民に伝わった翌日から、発熱症状は完全に収束した。


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