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怖い話  作者: 健二
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夜の水辺


蝉の声が耳をつんざく8月の夕暮れ、大学三年生の真琴は帰省先の田舎町で旧友たちと再会していた。かつての中学校の同級生5人が集まり、懐かしい話に花を咲かせる中、自然と話題は町の怪談へと移っていった。


「この町の貯水池、知ってるだろ?あそこで泳いではいけないって言われてたの覚えてる?」と、幼なじみの健太が切り出した。


全員が頷く。町外れにある古い貯水池は、地元の子供たちにとって禁断の遊び場だった。立入禁止の看板が立っているにもかかわらず、夏になると冒険好きな子供たちが忍び込むことで有名だった。


「実は俺の従兄弟、あそこで変なものを見たんだ」健太は声を潜めた。「夕暮れ時、水面に女の人が立っていたって。足が水に浸かっていないのに、水面の上に立っていたらしい」


「嘘だろ」真琴は笑おうとしたが、健太の真剣な表情に言葉を飲み込んだ。


「従兄弟は走って逃げたんだけど、その夜から高熱を出して、一週間寝込んだんだ。それから貯水池には近づかなくなった」


話を聞いた5人は、半信半疑ながらも背筋に冷たいものを感じていた。そのとき、ひとりがふと言った。


「今から見に行ってみない?」


誰も反対できなかった。かつての冒険心が蘇ったのか、それとも集団の中での弱みを見せたくなかったのか。5人は自転車に飛び乗り、夕闇が深まる貯水池へと向かった。


貯水池は町から少し離れた山の麓にあった。道は舗装されておらず、懐中電灯の光だけが彼らの行く手を照らしていた。


到着すると、予想通り人気はなかった。立入禁止の看板がかすかに風に揺れ、鉄柵のゲートは半ば錆びていた。


「誰も来てないな」真琴は安堵の息を吐いた。


5人は懐中電灯を手に、周囲を確認しながらゲートを乗り越えた。貯水池は想像以上に広く、夏の夜風で水面が小さく波打っていた。


「何も出ないじゃん」誰かが笑った。


その瞬間だった。


貯水池の中央付近で、水面に何かが映った。月明かりに照らされた人影のようなものが、静かに佇んでいる。


「あれ…」真琴の言葉が途切れた。


影は徐々に彼らの方向を向き、そして、水面を歩くように岸へと近づいてきた。


「逃げろ!」


叫び声と共に5人は一斉に走り出した。真琴は振り返る勇気もなく、ただひたすら自転車に向かって走った。背後からは水が跳ねる音が聞こえてくるようで、恐怖で足がもつれそうになった。


なんとか自転車にたどり着き、5人は息も絶え絶えに町へと戻った。途中、誰一人として後ろを振り返ることはなかった。


翌朝、真琴は高熱で目覚めた。他の4人も同様だったという連絡が入った。熱は一週間続き、原因不明のまま自然と下がった。


それから10年経った今でも、彼らは貯水池には近づかない。そして、この話を誰かに語ることもなかった。


---


この話の元となったのは、1973年に長野県のある山間部の町で起きた出来事である。当時、町の貯水池で遊んでいた子供たちが次々と原因不明の高熱を発症し、地元では「貯水池の祟り」として語り継がれた。後に調査が行われ、貯水池の水質に問題があったことが判明したが、それでも水面に人影を見たという目撃談は複数報告されており、真相は今も明らかになっていない。

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