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怖い話  作者: 健二
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午後3時10分の教室


高校2年の夏休み。僕、佐藤雄一は補習のため、誰もいないはずの学校に足を運んでいた。


「くそっ、なんで夏休みに数学の課題テストなんてあるんだよ…」


ぼやきながら校門をくぐると、不思議な静寂が僕を包み込んだ。普段は生徒であふれる校庭も、部活動の声も一切ない。真夏の強い日差しの中、学校全体が眠りについているかのようだった。


「おっ、雄一!」

校舎の入り口で同じく補習組の友人、田中が手を振っていた。


「お前も来てたのか」

「まあな。俺が来なかったら誰が松本先生を起こすんだよ」


二人で笑いながら、僕たちは薄暗い校舎に足を踏み入れた。


廊下は妙に涼しく、冷房が効いているはずもないのに、まるで誰かが氷のような視線を送っているような寒気があった。


「なんか変な感じがしないか?」

「ん?何が?」

「いや…なんでもない」


3階の教室へ向かう階段を上がっていると、どこからか微かな話し声が聞こえた。


「誰かいるのか?」

「たぶん他のクラスの補習じゃない?」


しかし、今日の補習は僕たちのクラスだけのはずだった。


3階の廊下に出ると、その声はより明確になった。女子生徒の笑い声と、何かを動かす音。その音は美術室から聞こえていた。


「見てみようぜ」

田中が扉を開けると、室内は無人だった。ただ、窓際の机の上にはまだ湿った絵の具と、誰かが描きかけの絵が置かれていた。


「さっきまで誰かいたのか?」

「…窓から出たとか?」


しかし、3階の窓から飛び降りるはずがない。二人とも薄気味悪くなって、美術室を後にした。


僕たちの教室に入ると、松本先生はまだ来ていなかった。時計を見ると、2時50分。あと20分ほど早く着いてしまったようだ。


「先生、遅刻じゃん」

田中がため息をつきながら席に着いた。


教室には僕たちだけ。他の補習組はまだ来ていないようだ。外は蝉の声だけが響き、校舎内は妙に静まり返っていた。


「あれ?」

教室の黒板に目をやると、そこには既に何かが書かれていた。


『午後3時10分』


「これ、誰が書いたんだ?」

「さあ…。消しとこうぜ」


田中が黒板消しを取り、文字を消そうとすると、突然電気が消えた。真夏の昼間なのに、教室全体が薄暗くなる。


「停電か?」

「いや、外は明るいのに…」


その瞬間、廊下からドスドスという重い足音が聞こえ始めた。誰かが走っているような、でも人間のものとは思えない不規則な足音。それが徐々に近づいてくる。


「誰だよ!」

田中が声を張り上げたが、返事はない。ただ足音が近づいてくるだけ。


僕たちは恐怖で固まっていた。足音は教室の前で止まり、ドアがゆっくりと開く音がした。


しかし、ドアの向こうには誰もいなかった。


「何なんだよ、これ…」

田中の声が震えていた。


そのとき、黒板を見ると、先ほど消したはずの文字がくっきりと再び浮かび上がっていた。


『午後3時10分 始業』


時計を見ると、3時5分。


「出よう、ここ」

僕は田中の袖を引っ張ったが、彼は動かなかった。


「あいつだ…」

田中は窓の外を指さした。校庭に一人の女子生徒が立っていた。長い黒髪を背中に垂らし、夏服の制服を着ている。彼女は動かず、ただ僕たちの教室を見上げていた。


「誰だよ、あれ…」


その時、廊下から鈴の音が聞こえた。チャイムではなく、小さな鈴を振るような、カランカランという音。


「行こう!」

僕は田中を引っ張って教室を出ようとした瞬間、教室中のイスが一斉に動き始めた。まるで誰かが座っているかのように、ギギギと音を立てながら動く。


「何だよこれ!」

田中が叫んだその時、教室のドアが大きな音を立てて閉まった。


僕たちは恐怖に震えながら、なおも動くイスを見つめていた。そして、黒板の前に立つ人影が見えた。背の高い、痩せた男性の姿。振り返ると、それは人の顔ではなかった。顔のない教師が、黒板に文字を書き始める。


『欠席者は誰ですか』


僕は震える声で田中に囁いた。

「あれ、前に噂になってた…」


この学校には都市伝説があった。30年前、補習中に倒れた数学教師の霊が、今でも補習をしようとするという話だ。そして、出席を取った後、欠席者を連れに行くという…。


時計は3時10分を指していた。


黒板に書かれた文字が、血のように赤く滲み始める。窓の外を見ると、校庭にいた女子生徒が消えていた。そして、背後から声が聞こえた。


「先生、欠席者は山田と鈴木です」


振り返ると、教室の後ろの席に、あの女子生徒が座っていた。彼女の顔は青白く、目は虚ろだった。


その瞬間、教室中の電気が一斉に明るく灯り、イスの動く音も、黒板の前の人影も消えた。教室は元の静かな状態に戻っていた。


「何だったんだ、今の…」

田中が震える声で言った時、教室のドアが開き、松本先生が入ってきた。


「おっ、二人とも早いな。山田と鈴木はまだか?」


僕と田中は顔を見合わせた。山田と鈴木は僕たちのクラスメイトで、今日の補習メンバーだった。


「先生、今何時ですか?」僕は震える声で尋ねた。

「ん?3時だよ。定刻通り」


先生の腕時計は確かに3時を指していた。しかし、教室の時計は3時10分で止まったままだった。


「先生、この学校で30年前に亡くなった先生の話って本当ですか?」

田中が急に尋ねた。


松本先生は一瞬、表情を曇らせた。

「そういう噂は聞くな。確か補習中に倒れた先生がいたらしい。でも、そんな昔の話…」


その時、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。山田と鈴木が駆け込んできた。


「すいません、遅れました!」

「何があったんだ?」先生が尋ねる。

「いや、校門で女子生徒に呼び止められて…何か午後3時10分には教室に入るなって」


僕と田中は再び顔を見合わせた。


その日の補習は何事もなく終わった。しかし、帰り道、僕たちは美術室に立ち寄った。あの描きかけの絵が気になったからだ。


絵は完成していた。そこには僕たち4人と松本先生が教室で勉強している姿が描かれていた。そして絵の隅には小さく署名があった。


『久美子 1993年8月15日』


今日の日付だが、1993年―30年前の日付だった。


その夜、僕は山田から電話を受けた。彼は興奮した様子で話した。

「あの女子生徒のこと、図書室で調べてみたんだ。1993年の校内新聞に載ってた。佐藤久美子、美術部員。夏休みの補習の日に行方不明になって、その後見つからなかったんだ」


電話を切った後、窓の外を見ると、校舎方向から小さな光が見えた。誰かが校舎の窓から、こちらを見ているかのようだった。


翌日、学校に行くと、美術室は施錠されていた。用務員さんによれば、「夏休み中は使用禁止になっている」とのこと。そして、あの絵も消えていた。


あれから何年経った今でも、夏休みの午後3時10分になると、僕は不思議な寒気を感じる。そして、誰かが僕の名前を呼ぶような気がするのだ…。


---


日本の学校にまつわる怪談や不思議な体験は数多く報告されています。特に夏休み中の学校は、霊的現象が起きやすいと言われています。


2004年、埼玉県のある高校で実際に起きた出来事として記録されているのは、夏季補習期間中に起きた不思議な現象です。当時の教師と生徒の証言によれば、使用していないはずの3階の美術室から、夕方になると明かりと人の気配が感じられたといいます。しかし、確認に行くと部屋は空で、誰もいなかったとのこと。


調査の結果、その美術室は1970年代に美術教師が亡くなった場所であることが判明しました。この教師は生前、夏休みも熱心に生徒を指導していたといいます。


また、2015年に東京都内の高校で行われた心霊現象の調査では、夏休み中の午後3時頃に校内の温度が局所的に下がる現象が計測されました。専門家は「建物の構造による空気の流れ」と説明していますが、この時間帯は戦前の学校では終業時刻であり、霊的な視点から見れば「過去の時間の重なり」とも解釈できるそうです。


校内時計が特定の時間で止まる現象も各地で報告されており、2010年の全国学校怪談収集プロジェクトでは、約120校から同様の報告があったといいます。


現代科学では説明できないこれらの現象ですが、学校という場所には多くの人々の強い思いが残るため、何らかのエネルギーが蓄積されるという説もあります。特に日本の学校では、終戦直後に校舎が病院として使用されたケースも多く、そうした歴史的背景が怪談を生み出す土壌になっているのかもしれません。


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