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怖い話  作者: 健二
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古墳の夜語り


「古墳には決して日が沈んでから近づいてはならない」


考古学部の顧問・佐藤先生はそう言って、夏休みの部活動フィールドワークを締めくくった。私たち高校二年生の三人は、地元に点在する古墳群の調査を任されていた。


「なぜですか?」と尋ねる幼なじみの美咲に、先生は少し困ったような表情を浮かべた。


「古代の人々の眠る場所だからね。特に夏は、あの世とこの世の境界が薄くなる時期だ」


「迷信ですよ」と考古学マニアの健太が笑う。「古墳は歴史的遺跡であって、怪談の舞台じゃありません」


先生は微笑んだが、その目は真剣だった。「君たちの世代にはそう見えるだろうね。でも古墳は単なる墓ではない。古代の祭祀場でもあり、神聖な空間なんだ」


その日の調査を終え、私たちは自転車で帰路についた。夕暮れが近づき、山際に沈みかける太陽が辺りを赤く染めていた。


「ねえ、ちょっと寄り道しない?」突然、健太が提案した。「あの前方後円墳、中に入ったことないんだよね」


彼が指さしたのは、丘の上に佇む大きな古墳だった。この地域最大の前方後円墳で、六世紀頃の豪族の墓と言われている。「鏡塚古墳」と呼ばれるその場所は、立入禁止のロープが張られているだけで、実際には簡単に入れる状態だった。


「だめだよ!先生が言ってたじゃん」美咲が反対する。


「考古学部なのに、ちゃんと見ないなんておかしいでしょ」健太は熱心に言った。「ほら、明日の発表資料にも使えるよ」


私は迷ったが、健太の熱意に負けて同意した。美咲も渋々ついてくることになった。


古墳に到着すると、太陽はすでに山の向こうに沈みかけていた。健太はスマホのライトを点け、ロープをくぐって中に入った。私と美咲も後に続く。


「すごい…」


石室の入口は想像以上に立派だった。縦に積まれた巨石が、千年以上の時を超えて今も堂々と立っている。


「中に入ってみよう」健太は躊躇なく石室に足を踏み入れた。


内部は予想以上に広く、立って歩けるほどの高さがある。壁には苔が生え、かすかに湿った土の匂いがした。奥に進むと、石棺が置かれた主室があった。


「これが埋葬されていた場所か」健太が興奮した声で言う。「でも石棺の蓋がない…」


確かに石棺は空っぽで、蓋は横に倒れていた。盗掘されたのだろうか。


「帰ろうよ…」美咲が不安そうに言った。「暗くなってきた」


その時、外から風が吹き込んできた。と同時に、私たちのスマホのライトが突然消えた。


「なんだ?」健太が慌ててスマホを操作する。「バッテリーはまだあるのに…」


私も美咲も同じ状況だった。三台同時に電源が落ちるなんて、偶然にしては出来すぎている。


暗闇の中、かすかに光るものが目に入った。石棺の底に、丸い何かが置かれている。


「あれは…鏡?」


健太が近づいて手を伸ばそうとした時、突然石室内の温度が急激に下がった。真夏の夜なのに、息が白く見えるほどの冷気が流れ込んできた。


「健太、触らないで!」私は叫んだが、彼はすでに鏡を手に取っていた。


その瞬間、石室内に風が渦巻き始めた。閉鎖空間なのに、どこからか強い風が吹き込み、土埃が舞い上がる。


「何これ…」美咲が震える声で言った。


風の中から、かすかに声が聞こえてきた。


「我が宝…返せ…」


声は男のものではなく女のもの。古代の言葉のようでありながら、不思議と意味が理解できた。


「健太、鏡を戻して!」


しかし健太は動かなかった。彼の目は鏡に吸い込まれるように見つめていた。よく見ると、鏡の表面に映るのは私たちではなく、古代の衣装を着た女性の姿だった。


「彼女が…呼んでいる…」健太の声は遠くから聞こえるようだった。


突然、彼の体が宙に浮き上がり、石室の奥へと引きずられていく。


「健太!」


私と美咲は必死に彼の足を掴んだが、見えない力に引っ張られて手が離れてしまった。健太は石棺の方へと吸い込まれていく。


その時、外から光が差し込んできた。誰かが懐中電灯を持って石室に入ってきたのだ。


「出なさい!早く!」


佐藤先生の声だった。彼は何かを唱えながら、手に持った木の札を石室内に投げ入れた。


「厄神退散!」


札が空中で燃え上がり、風が急に収まった。健太の体も地面に落ち、彼は鏡を手放した。鏡は床に落ち、かすかな音を立てて割れた。


「先生…どうして?」


「君たちが古墳に向かうのを見たんだ。そして思い出したよ…今日が古墳祭りの日だということを」


先生の説明によると、かつてこの地域では旧暦の七月七日に「古墳祭り」が行われていた。古墳に眠る古代の豪族を慰める儀式だ。しかし、戦後に途絶えてしまったという。


「特にこの鏡塚古墳は注意が必要だ。ここに葬られているのは豪族の娘で、彼女は生前、中国から伝わった宝鏡を大切にしていたと伝えられている」


「あの鏡は…」


「おそらく本物の副葬品だ。盗掘を免れたんだろう。その鏡には彼女の魂が宿っているとも言われている」


帰り道、健太は鏡を見た時の体験を語った。


「鏡の中に別の世界が見えたんだ。古代の宮殿のような場所で、美しい女性が私に手を差し伸べていた。彼女は何かを伝えようとしていたけど…理解できなかった」


翌日、私たちは先生と共に地元の神社を訪れ、古墳の祭祀について調べた。神社の古文書によると、鏡塚古墳の主は「鏡姫」と呼ばれる巫女のような存在で、彼女の鏡には人の運命を映し出す力があったという。


また、旧暦の七月七日、つまり七夕の夜には、彼女の魂が現世に戻ってくるとされていた。そして、彼女の鏡に触れた者は、自分の過去世や未来を見ることができるという。


「じゃあ健太が見たのは…」


「過去か未来の自分自身かもしれないね」先生は静かに言った。


その夏休みの終わり、私たちは先生の指導のもと、地元の人々と協力して古墳祭りを復活させた。古墳の前で、古代の作法に基づいて祈りを捧げ、お供え物をした。


祭りの最中、不思議なことに風がないのに、供えた花が揺れ動いた。そして参加者の何人かは、古墳の上に立つ白い装束の女性を見たという。


それ以来、地域では毎年七夕の夜に古墳祭りが行われるようになった。また、鏡塚古墳からは数々の遺物が発掘され、地元の博物館に展示されている。


しかし、あの割れた鏡だけは誰も見つけることができなかった。健太は時々、鏡の中の女性の夢を見るという。彼女は微笑みながら何かを語りかけてくるが、目覚めると内容を思い出せないそうだ。


私たちが卒業する頃、健太は考古学を専攻する大学に進学することを決めた。「あの日、鏡の中で見た自分の姿が、古代の遺跡で働いていたんだ」と彼は言う。


今でも夏の夕暮れ、鏡塚古墳の前を通りかかると、かすかな風鈴のような音が聞こえることがある。それは鏡姫が私たちを見守っている証なのかもしれない。


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日本各地には古墳にまつわる不思議な話が数多く伝えられています。特に注目すべきは、茨城県の「虎塚古墳」での出来事です。


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