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怖い話  作者: 健二
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廃校の肝試し


夏休み初日の夕方、私たち高校生四人は迷っていた。例年なら海や山へ行くはずだったが、今年は天候不順で予定が狂っていた。


「ねえ、肝試しでもする?」友人の健太が突然言い出した。「あの廃校、行ったことある?」


健太が指差した先には、丘の上に建つ古い校舎が見えた。三年前に統廃合で閉校になった旧青葉中学校だ。地元では「幽霊が出る」と噂されていた。


「マジかよ...」友人の翔太が顔をしかめた。「あそこって、事故があった学校だろ?」


「だからこそ行こうぜ」健太は興奮気味だった。「せっかくの夏なんだから、怖い思いもしてみようよ」


結局、好奇心に負けた私たち—私、健太、翔太、そして唯一の女子・美咲の四人は、日が沈みかけた頃、廃校に忍び込むことにした。


青葉中学校は1960年代に建てられた三階建ての古い校舎で、窓ガラスの多くは割れ、壁には落書きがあった。正門には「立入禁止」の看板があったが、フェンスの一部が壊れており、そこから簡単に侵入できた。


「ちょっと、本当に大丈夫?」美咲が不安そうに言った。「もし見つかったら怒られるよ」


「大丈夫、こんな時間に見回りなんて来ないって」健太は懐中電灯を取り出した。「さあ、行こう」


校舎の入り口は鎖で施錠されていたが、横の窓が割れており、そこから内部に入ることができた。中は驚くほど静かで、懐中電灯の光が廊下に不気味な影を作り出していた。埃と湿気の匂いが鼻をつく。


「ルールを決めよう」健太が言った。「みんなでばらばらに行動して、各自写真を一枚撮ってくる。一番怖いものを撮った奴が勝ち」


「冗談だろ?」翔太が抗議した。「一人で行動なんて怖すぎるって」


「それが肝試しだろ」健太は笑った。「怖くなったら校庭に集合。三十分後にみんなで出て行こう」


私は渋々同意した。くじ引きの結果、私は三階を担当することになった。古い階段を上がりながら、後悔の念が湧いてきた。


三階の廊下は一階よりさらに暗く、窓から差し込む月明かりだけが頼りだった。懐中電灯を照らしながら、おそるおそる進む。両側には教室が並び、黒板や壊れた机がそのまま残されていた。


端の教室に入ると、そこは理科室だった。実験台の上には試験管や顕微鏡が埃をかぶったまま置かれている。写真を撮るために携帯を取り出したその時、背後で何かが動いた音がした。


振り返ると、誰もいない。「気のせいだ」と自分に言い聞かせ、再び実験台に向き直った。すると、試験管立てが倒れ、ガラスが床に散らばる音が響いた。


「誰かいるの?」声が震えていた。「健太?翔太?」


返事はない。急に寒気を感じた。夏の夜なのに、部屋の温度が下がったような気がする。そして、黒板の方から、チョークで何かを書く音が聞こえてきた。


恐る恐る黒板に懐中電灯を向けると、そこには何も見えなかった。しかし、よく見ると、黒板消しの下に白い粉が落ちている。まるで、誰かが何かを書いて消したばかりのようだ。


「冗談はよして...」


その時、廊下から足音が聞こえてきた。重い足音がゆっくりと近づいてくる。ドアに向かって逃げようとした私の足が、何かにつまずいた。見ると、それは古い名簿だった。衝撃で開いたページには、赤い丸で囲まれた名前があった。


「佐藤美咲」


私の友人と同じ名前だ。心臓が早鐘を打つ中、足音はどんどん近づいてきた。部屋の温度はさらに下がり、息が白くなるほどだ。


そして、ドアが開いた。


「あっ!」悲鳴を上げかけたが、そこに立っていたのは健太だった。


「おい、大丈夫か?」彼は心配そうに尋ねた。「急に冷たくなったから様子を見に来たんだ」


「ああ、ビックリした...」安堵のため息をつく。「なんか変なことが起きて...」


話の途中、突然停電したように懐中電灯が消え、部屋が真っ暗になった。同時に、窓ガラスが激しく振動する音がした。


「出よう、ここから!」健太が叫んだ。


急いで階段を駆け下り、一階に着くと、そこで翔太と出くわした。彼も同じように懐中電灯が消え、奇妙な足音を聞いたという。


「美咲は?」私が尋ねた。


「まだ会ってない」翔太が答えた。「二階を調べてるはずだけど」


三人で二階に向かったが、美咲の姿はなかった。彼女の名前を呼びながら部屋を一つ一つ調べていくと、音楽室から弱々しい返事が聞こえた。


中に入ると、美咲が床に座り込んでいた。彼女の顔は青白く、震えていた。


「美咲、どうしたの?」


「あの子...あの子が...」彼女はうわ言のように繰り返した。


「落ち着いて、何があったの?」


美咲の話によると、彼女が音楽室に入った時、ピアノの前に制服姿の少女が座っていたという。その少女は振り向きもせず、何か悲しげな曲を弾いていた。


「話しかけたんだけど、返事がなくて...近づこうとしたら、急に消えちゃったの」


それを聞いた翔太が、「マジかよ...」と呟いた。「ここで三年前に起きた事故、知ってる?音楽室の窓から女子生徒が転落して...」


「もういい!」健太が遮った。「とにかく出よう、今すぐに」


四人で急いで校舎を出ようとした時、どこからともなくピアノの音が聞こえてきた。美咲の顔から血の気が引いた。


「あの曲...さっき聴いたのと同じ...」


走るように校舎を出て、校庭に出ると、突然風が強まり、砂埃が舞い上がった。その中に、一瞬だけ制服姿の少女が立っているように見えた。


「走れ!」健太の声に従い、私たちは一目散に校門へと駆け出した。


翌日、私たちは図書館で青葉中学校について調べた。三年前、確かに女子生徒が転落事故で亡くなっていた。新聞記事によると、彼女は音楽部のピアニストで、事故当日も放課後に練習していたという。


そして最も衝撃的だったのは、その生徒の名前だった。


「佐藤美咲」


私の友人と同姓同名。しかも、記事の写真の少女は、私たちの美咲とよく似ていた。


美咲は震える手で新聞を置いた。「私...小学校の時に引っ越してきたから、この事故のこと知らなかった」


それから数日後、美咲から連絡があった。彼女の母親に話を聞いたところ、驚くべき事実が判明したという。


美咲には双子の姉がいたが、幼い頃に両親が離婚し、姉は父親と別の土地で暮らすことになった。その姉の名前も美咲だった。そして三年前、姉は転校先の中学校で事故に遭ったという。その学校が、青葉中学校だった。


「あの日ピアノを弾いていたのは...私の姉だったんだ」美咲は涙ながらに言った。「私のことを覚えていてくれたんだね」


その夏、私たちは再び廃校を訪れた。今度は昼間に、花束を持って。音楽室の窓辺に花を供え、美咲は姉に向けて長い間話しかけていた。


帰り際、微かにピアノの音色が聞こえた気がした。悲しい曲ではなく、どこか明るい、希望に満ちた旋律だった。


---


日本各地には廃校となった学校が数多く存在し、心霊スポットとして知られる場所も少なくありません。特に事故や悲しい出来事があった学校には、様々な怪談が伝わっています。


2009年、福島県のある廃校を訪れた大学生グループが不思議な体験をしたという報告があります。夜間に校舎内を探検中、誰もいないはずの音楽室からピアノの音が聞こえ、カメラに制服姿の少女が映り込んだというのです。調査の結果、その学校では十数年前に女子生徒の転落事故があったことが判明しました。


また、2014年には宮城県の廃校で行われた心霊番組の撮影中、使われていないはずのピアノから突然音が鳴り、録音機器にはっきりと記録されたという事例もあります。スタッフが確認したところ、そのピアノは老朽化で鍵盤が動かない状態だったそうです。


こうした現象の多くは、建物の軋みや風の音、あるいは心理的な暗示効果として説明されることが多いですが、一部の事例は合理的な説明が困難なものもあります。心理学者によれば、強い感情や記憶が「場所に刻まれる」という考え方は世界中の文化に見られ、特に若い命が失われた場所には、何らかのエネルギーが残るという信念が根強いといいます。


廃校となった学校が取り壊されるとき、最後の見学会が開かれることがありますが、そこで「懐かしい顔を見た」という証言も少なくありません。それは単なる思い出の投影なのか、それとも本当に魂が場所に結びついているのか—夏の夜、古い校舎を訪れたときに感じる不思議な気配は、私たちにそんな問いを投げかけているのかもしれません。

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