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怖い話  作者: 健二
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国道沿いの石仏


残暑が厳しい九月初旬、仕事で香川県に出張した私は、高松から小豆島へ向かう途中で奇妙な体験をした。


私は東京の出版社で歴史書の編集を担当している。瀬戸内の古墳や遺跡についての取材のため、レンタカーで県内を回っていた。


取材を終え、日が傾きかけた午後六時頃、高松市郊外の国道を走っていた。カーナビでは「十五分後に宿泊先到着」と表示されていた。


窓の外では、蝉の声が耳をつんざくように響いていた。九月だというのに、まだこんなに蝉が鳴いているのかと不思議に思った。


国道沿いに小さな石仏が見えた。道路拡張工事の際も残されたのだろう、新しいガードレールのすぐ脇に立っていた。何気なく見ていると、石仏の前に白い服を着た少年が立っているのが見えた。


「危ないな…」


車を減速させながら思った瞬間、少年はこちらを振り向いた。その顔は青白く、目が異様に大きかった。


驚いて目を離した一瞬の後、再び見ると少年の姿はなかった。幻だったのか、そう思いながら走り続けた。


その時、カーナビが突然「経路を再検索します」と告げ、地図表示が消えた。スマホも圏外になっていた。


困惑しながらも、記憶を頼りに走り続けた。日はすっかり落ち、辺りは闇に包まれていた。見覚えのある風景のはずなのに、どこか違和感があった。


二十分ほど走った頃、前方に同じ石仏が見えた。「さっきの場所に戻ってきた?」そんな筈はないと思ったが、確かに同じ石仏だった。


今度はそこに老婆が立っていた。白髪の老婆は、石仏に向かって深々と頭を下げていた。時刻は午後七時半。こんな時間に老婆一人が道端にいるのは不自然だった。


その老婆を過ぎた直後、フロントガラスに何かが当たった。一瞬、人の顔が張り付いたように見えた。反射的にブレーキを踏んだ私は、そのまま路肩に車を停めた。


震える手でライトを点け、車の前を確認したが、何もなかった。ただ、アスファルトに薄く水たまりがあるように見えた。


再び車に乗り込んだ時、後部座席から「気をつけて」と囁く声が聞こえた。振り返ると、そこには誰もいなかった。


恐怖で震えながらも、宿に早く着きたい一心で再び走り出した。すると突然、前方から強烈なライトが迫ってきた。大型トラックが中央線をはみ出して猛スピードで向かってくる。


とっさにハンドルを切った私の車は、路肩を越えて田んぼに転落した。頭を強く打ち、意識が遠のく中、誰かが車のドアを開ける音が聞こえた。


「大丈夫ですか!」


気がつくと、地元の警察官が私を救出していた。幸い大きな怪我はなかった。


「運がよかったですね。この辺りは事故が多いんです」


警察官の話によると、この道は「七曲がりの悪路」と呼ばれる事故多発地点だった。特に夏の終わりから秋にかけて、毎年のように重大事故が起きているという。


「あの石仏は、事故で亡くなった子供のために建てられたものです。地元では『見えたら危ない』と言われています」


翌日、私は事故現場に戻った。日中の明るい道路は、昨夜とはまるで違う印象だった。石仏の前には新しい花が供えられていた。


地元の古老に話を聞くと、この道では昭和四十年代、下校途中の小学生が事故で亡くなったという。以来、夏の終わりになると、石仏の前に少年の姿が現れるという噂があった。


「見た人は事故に遭う」という言い伝えもあったが、「その子は事故を防ごうとしている」という話もあった。


古老は言った。「石仏の前で一礼して通れば安全だが、見て見ぬふりをすると危ない。あの子は認められたいんだよ」


その話を聞いて、私は石仏の前で深々と頭を下げた。その瞬間、どこからか「ありがとう」という声が聞こえた気がした。


東京に戻った後、地元の歴史を調べていると、驚くべき事実が分かった。私が事故を起こした「七曲がりの悪路」は、かつて「七人首切り坂」と呼ばれていた。江戸時代、この地で処刑された七人の罪人の祟りを鎮めるため、石仏が建てられたという。


さらに、私が事故に遭った九月二日は、小学生が亡くなった日でもあった。毎年その日には、地元の人々が石仏に花を供え、「交通安全」を祈願していたのだ。


先日、会社の同僚が香川出張に行くと聞いて、私はその石仏のことを話した。すると同僚は驚いた顔で言った。


「それって、都市伝説じゃないの?そんな石仏、今はないよ。三十年前の道路拡張工事で撤去されたって聞いたけど」


---


香川県高松市郊外の国道11号線沿いに実在した「七曲がりの石仏」と呼ばれる場所での不可解な事故多発現象。この区間では1970年代から1990年代にかけて、統計的に説明のつかない交通事故が多発し、特に夏の終わりから秋にかけての事故率が異常に高いことが警察の記録に残されています。


石仏についての記録は確かに存在し、1974年に交通事故で亡くなった小学生の慰霊のために建てられたという資料がある一方で、江戸時代からあったという言い伝えも存在します。興味深いことに、1992年の道路拡張工事で石仏は移設されたはずですが、工事関係者と地元住民の間で「石仏の行方」について食い違う証言があります。


さらに不思議なのは、石仏が「見えた」という証言が今も報告されていることです。特に事故を起こした運転者の多くが「石仏の前に人影を見た」と証言しており、警察の事故調書にもそうした記録が複数残されています。


交通事故と霊的現象の関連については、心理学的には「事故現場に対する不安や恐怖が幻覚を引き起こす」と説明されることもありますが、特定の場所で同様の体験が繰り返し報告される現象は、完全には解明されていません。同様の「事故多発地点での不可思議な目撃例」は全国各地から報告されており、特に古くから「曲がり」「峠」「坂」と呼ばれる場所に集中していることが、民俗学的調査で明らかになっています。

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