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怖い話  作者: 健二
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空き家の呼び声


真夏の夕暮れ時、照りつける日差しが徐々に和らぎ始めた頃、私は祖父から譲り受けた田舎の古民家に到着した。福島県の山間にあるその家は、祖父の死後十年間、誰も住んでいなかった。


相続の手続きをするため、一週間ほど滞在する予定だった。蔦や雑草に覆われた家屋は、かつての面影はほとんどなかった。


「津波さん、お帰りなさい」


家の前で荷物を下ろしていると、向かいの家から老婆が声をかけてきた。


「あなたがお孫さんね。聞いていたよ。でも、一人で大丈夫かい?あの家、ずっと空いていたからね」


私は笑顔で答えた。「大丈夫です。掃除して住めるようにします」


老婆は少し不安そうな表情で言った。「そう…気をつけてね。変なものを見ても、話しかけちゃダメだよ」


その言葉の意味を尋ねる間もなく、老婆は自分の家に戻っていった。


家の中は想像以上に荒れていた。埃と蜘蛛の巣が至る所にあり、畳は湿気でふやけていた。それでも、最低限の掃除を済ませ、寝る場所だけ確保した。


日が完全に落ちると、家の中は闇に包まれた。電気は通っていたが、あちこちの電球が切れていた。懐中電灯を頼りに二階の祖父の部屋を見て回っていると、押し入れの奥から古い写真アルバムが出てきた。


ページをめくると、若かりし頃の祖父母の写真、父が子供だった頃の写真、そして見知らぬ子供たちの写真があった。裏には「1970年 夏 隣家の子供たち」と書かれていた。


その夜、蒸し暑さで眠れずにいると、外から子供の声が聞こえてきた。


「あそぼ〜」


時計を見ると午前二時を回っていた。こんな時間に子供が外で遊んでいるはずがない。声は家の裏手から聞こえてきた。


「あそぼ〜、こっちだよ〜」


窓から外を覗くと、月明かりに照らされた庭に、幼い子供の姿があった。それは庭の端にある古い井戸の方を指さしていた。


次の日、私は向かいの老婆の家を訪ねた。


「昨夜、子供の声が聞こえたんですが、この辺りに子供はいますか?」


老婆は箸を落とした。


「何時頃だい?」


「午前二時くらいです」


老婆は深刻な表情になった。


「見えたのかい?」


「はい、庭に子供がいて、井戸の方を指さしていました」


老婆は震える手でお茶を飲み、ゆっくりと話し始めた。


「五十年前、この村で子供が三人、行方不明になったんだよ。あなたの祖父の家に住んでいた一家の子供と、隣の家の子供たち。最後に見かけたのは、あなたの家の裏手だった」


私は息を呑んだ。


「村中で必死に探したが、見つからなかった。でも、三日後、あの井戸から子供の泣き声がしたという者がいてね。調べてみたが、井戸の中には何もなかった」


老婆は続けた。


「それからというもの、夏になると、特に暑い夜には、子供の声が聞こえるという噂が絶えなかった。あなたの祖父は、その噂を打ち消そうと必死だった。『うちの家は何も問題ない』と。でも…」


その日の夜も、同じ時間に子供の声が聞こえた。今度は家の中から。二階の廊下から、かすかな足音と笑い声。恐る恐る廊下に出ると、薄暗い先に小さな影が動いた。


「こっちだよ、見つけたんだ」


それは階段を下りていった。恐怖と好奇心が入り混じる中、私はその後を追った。影は台所を通り、裏口から外へ出た。月明かりの下、それは確かに子供の姿だった。振り返り、私を見つめる顔は、あのアルバムの中の子供と同じだった。


子供は井戸の方へと歩いていった。私はその場に立ち尽くした。


翌朝、私は決意して井戸を調べてみることにした。長年使われていない井戸は、雑草に覆われていた。蓋を開けると、中は暗く、底が見えない。


村の駐在所に相談すると、警察が調査に来た。井戸の中を調べると、底から人骨が三体見つかった。法医学的調査により、それは五十年前に失踪した子供たちの遺骨と確認された。


後日、老婆から聞いた話によると、当時、祖父は村で新しく井戸を掘る工事を請け負っていたという。しかし、工事中の事故で子供たちが亡くなり、祖父はそれを隠したのではないかという噂があったという。


「だから、あなたの祖父は最後まで、あの家に住み続けたんだよ。きっと、あの子たちを見守るためにね」


その後、私は祖父の遺品を整理していて、古い日記を見つけた。最後のページには、こう書かれていた。


「あの日のことは、一生背負っていく。子供たちがいつか見つかり、正しく葬られることを祈る。それまで、私はこの家を離れない」


---


1960年代から70年代にかけて日本各地で実際に起きた子供の失踪事件と、2011年の東日本大震災後に福島県の古い家屋の調査中に発見された井戸内の遺骨事件。震災による地盤変動で、長年隠されていたものが表面化するケースが複数報告されました。


特に昭和時代の農村では、事故や事件が地域社会内で処理され、公的記録に残らないまま封印されることがありました。また、古い家屋で報告される「子供の霊」の目撃談は現代でも珍しくなく、霊感が強いとされる子供や若い女性がそれを感じ取るケースが多いとされています。


日本の夏は古来より「魂の季節」とされ、特に盂蘭盆会(お盆)の期間は、故人の魂が現世に戻ってくるとされてきました。そして現代の心理学では、高温多湿の環境が人間の感覚を鋭敏にし、通常なら気づかない微細な音や気配を感じ取りやすくなると説明されています。しかし、それでも説明のつかない体験談は、今なお各地から報告され続けているのです。

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