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怖い話  作者: 健二
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残照の間


蝉の声が耳を刺すような暑さだった。私は実家のある山形の古い家に帰省していた。都会の喧騒から離れ、静かな田舎で過ごす夏の数日間。それは束の間の安らぎのはずだった。


祖母は三年前に他界し、家は父が時々訪れる程度で、ほとんど無人だった。到着した日の夕方、私は二階の祖母の部屋を片付けていた。埃をかぶった古い箪笥の中から、見覚えのない古い写真が出てきた。


モノクロの写真には、祖母と見知らぬ女性が並んで写っていた。裏には「昭和28年 夏 涼子と」と記されている。祖母に涼子という名の姉妹がいたという話は聞いたことがなかった。


「この人、誰だろう」


父に聞いてみると、彼は写真を見て顔色を変えた。


「どこで見つけた?」


「祖母の部屋の箪笥から」


父は沈黙した後、重い口調で語り始めた。


「涼子さんは、祖母の幼馴染だ。夏の終わりに、この家の裏手の川で亡くなった。祖母はその話をしたがらなかった」


その夜、私は祖母の部屋で寝ることにした。真夏だというのに、部屋だけが異様に冷たかった。夜中、私は誰かが部屋に入ってくる気配で目を覚ました。かすかな足音。廊下から差し込む月明かりに照らされて、ドアが静かに開いていく。


「誰?」


返事はない。しかし確かに、誰かがそこにいた。


次の日、近所に住む父の幼馴染の吉田さんに、涼子さんについて尋ねてみた。


「あぁ、涼子さんね。綺麗な人だったよ。でも、あんな最期で...」


「どんな最期だったんですか?」


「川で溺れたんじゃなかったんだよ。あの日、涼子さんは祖母さんと喧嘩したらしい。その夜、誰かに川に突き落とされたって噂だった。村中が騒然としたよ」


私は背筋が凍った。帰り道、裏手の川に足を運んだ。今はコンクリートで整備され、水量も少ない。しかし、かつては深く、流れの速い川だったという。


その夜も、私は同じ気配を感じた。今度は確かに、部屋の隅に人影が立っていた。月明かりに照らされた顔は、写真の涼子さんにそっくりだった。


「祖母はどこ?」


かすかな声が聞こえた気がした。


翌朝、私は父に昨夜のことを話した。父は黙って聞いていたが、突然「この家には、もう来ない方がいい」と言った。


その日の夕方、私は古い神社で地元の年配の女性と出会った。話しているうちに、祖母と涼子さんの話になった。


「あの二人は仲が良かったんだけどね、同じ人を好きになってしまって...」


女性は昔を思い出すように言った。


「涼子さんが亡くなった日、彼女と最後に会ったのは祖母さんだったんですよ。村の人は何も言わなかったけど、皆、薄々感づいていた。祖母さんが晩年、あの部屋から出なくなったのも、きっと罪悪感からでしょうね」


その夜、私は決意して祖母の部屋に入った。写真を手に取り、静かに話しかけた。


「涼子さん、もう十分です。祖母はもういません。許してあげてください」


窓から入る風が、突然強くなった。カーテンが大きく揺れ、写真が手から滑り落ちた。拾い上げると、写真には祖母一人だけが写っていた。


翌朝、父に写真を見せると、彼は驚いた顔をした。


「ずっとこの写真だったよ。涼子さんが写っているなんて、お前が言うまで気づかなかった」


私は最後の夜、もう一度祖母の部屋で過ごした。しかし、あの冷たさも気配も感じなかった。


---


日本の各地で報告されている「怨念」現象。特に、昭和初期から中期にかけて、山間部の集落では不審な溺死事故が少なからず報告されており、後に人間関係のもつれが原因ではないかと噂されたケースが実際にありました。また、故人の持ち物や写真に関連して、写っている人物の姿が変化したり、消えたりするという現象も、心理学的には「選択的注意」や「記憶の再構成」として説明されることがありますが、科学では説明しきれない体験として多くの人に報告されています。夏の終わりは「お盆」など、霊的な存在が現世に戻ってくるとされる時期であり、このような不思議な体験が特に多く報告される時期でもあるのです。

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