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怖い話  作者: 健二
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天の川に映る影


七夕の夜、私は高校の天文部の友人たちと星空観測に出かけていた。私たち三人—私、幼なじみの健太、同級生の美月—は町はずれの小さな川のほとりで天体望遠鏡を設置していた。


「今夜は天の川がよく見えるはずだよ」健太が空を見上げながら言った。「織姫と彦星が出会う夜だからね」


田舎町の澄んだ空には、無数の星が煌めいていた。特に天の川は、乳白色の帯となって夜空を横切っていた。その景色は息をのむほど美しかった。


「天の川って、昔の人は死者の道だと思っていたんだって」美月が突然言った。「七夕の夜は特別で、あの世とこの世の境目が薄くなるんだって」


「また怖い話?」健太は苦笑した。「美月はオカルト好きだよね」


私たちは観測を続けながら、織姫星ベガ彦星星アルタイルを見つけ、写真に収めた。夜も更け、周囲は静まり返っていた。そんな中、美月が小川の方を指差した。


「ねえ、見て。水面に映る星がきれい」


確かに、静かな川の水面には夜空の星々が鏡のように映っていた。特に天の川の反射が神秘的だった。三人で川辺に座り、水に映る天の川を見つめていると、不思議なことに気づいた。


「あれ?水に映ってる星の配置、空と違わない?」健太が首を傾げた。


よく見ると、川に映る星空は実際の空とは少し異なっていた。水面の天の川はより明るく、星の数も多いようだ。


「気のせいじゃない?」私は言ったが、違和感は増すばかりだった。


そして、さらに奇妙なことが起きた。水面に人影が映ったのだ。空を見上げても誰もいないのに、川には着物姿の女性が映っている。長い黒髪を持ち、悲しげな表情で何かを見つめている。


「あれ、誰?」私が指差すと、美月が息を呑んだ。


「誰もいないよ...」


しかし私にははっきり見えた。女性は次第に鮮明になり、やがて振り向いて私たちを見た。その目は深い悲しみに満ちていた。


「お願い...彼に伝えて...」かすかな声が聞こえた。「七夕の約束...守れなくてごめんなさい...」


恐怖で体が凍りついた。健太と美月は何も聞こえていないようだった。女性の姿は次第に薄れ、やがて消えていった。しかし、その直後、川の水面が波打ち始めた。風もないのに、水面が揺れ、まるで何かが中から出てくるかのようだった。


「やばい、帰ろう!」健太が叫んだ。


急いで機材を片付け、その場を離れようとした時、背後から「待って」という声が聞こえた。振り返ると、川の中に若い男性が立っていた。濡れた着物姿で、顔は青白く、目は虚ろだった。


「ついに会えた...」男性は私に向かって手を伸ばした。「織姫...」


その瞬間、私の頭に激しい痛みが走り、目の前が真っ白になった。断片的な映像が浮かんでは消えた。着物姿の女性と男性が川辺で会う姿。二人が手を取り合い、星空の下で誓いを交わす場面。そして、増水した川に流される女性の姿...


「由香!しっかりして!」


気がつくと、健太が私の肩を揺さぶっていた。男性の姿はなく、川も元の静けさを取り戻していた。


「大丈夫?急に倒れたから心配したよ」美月が心配そうに言った。


「あの...川に男の人いなかった?」


二人は首を振った。「誰もいなかったよ」


その夜、私は激しい頭痛と共に奇妙な夢を見た。明治時代らしき村の風景。川辺で出会った男女が恋に落ち、七夕の夜に駆け落ちを約束する。しかし女性は約束の日、突然の豪雨で川が増水し、対岸に渡れなくなる。男性を待たせまいと無理に川を渡ろうとした女性は、流されて命を落とす。男性は恋人を探し続け、ついには自らも同じ川で命を絶つ...


翌朝、私は地元の古老を訪ね、昨夜の出来事を話した。古老は深刻な表情で頷いた。


「その話は知っておる。明治三十年頃の実話じゃ。あの川で七夕の夜に命を落とした恋人たちの話じゃ」


古老の話によると、男性は「星見の丘」と呼ばれるその場所で恋人を待ち続け、彼女が川に流されたことを知ると、悲しみのあまり同じ川に身を投げたという。


「それからというもの、七夕の夜にあの川を訪れると、二人の姿が見えることがあるという。特に織姫に似た女性がおると、男の亡霊が現れるという話じゃ」


そう言って古老は私をじっと見た。「あんたは、その女性にそっくりなんじゃよ」


その言葉に背筋が寒くなった。昨夜見た夢は、単なる夢ではなかったのかもしれない。


帰り道、川のほとりを通りかかると、水面に映る自分の顔が、昨夜見た着物姿の女性の顔と重なって見えた気がした。そして遠くから、かすかに「七夕の約束、今年こそ」という囁きが聞こえた気がした。


その日から、私は七夕の夜に川辺に行くのをやめた。でも毎年、その日が近づくと、誰かが私の名前を呼ぶ気がする。そして、夜空の天の川が、あの世とこの世をつなぐ道に見えてならない。


---


日本各地の河川には、七夕にまつわる悲しい伝説が残されています。特に、恋人同士が川を挟んで別れ別れになったり、七夕の夜に川で命を落としたりした話は、実際の事件に基づいているものも少なくありません。


2013年、岩手県のある小さな川で、地元の高校生グループが七夕の夜に不思議な体験をしたという報告があります。星空観測のために訪れた川で、水面に映る星の配置が実際の空と異なっていることに気づき、さらに水面に現代の服装ではない人影が映り込んでいたというのです。


調査の結果、その場所では明治時代に実際に若い男女が事故で命を落としていたことが判明しました。地元の古文書には、七夕の夜に約束をして会えなかった二人の悲恋が記録されていたのです。


また、2017年には宮城県の天文愛好家グループが、七夕の夜に撮影した川の写真に、説明のつかない人影が写り込んでいたという事例も報告されています。写真には着物姿の人物が水中に立っているように見えましたが、撮影時にはそのような人物はいなかったといいます。


民俗学的には、七夕の夜は「天の川」が天と地をつなぐ特別な時間とされ、普段は会えない存在と出会える可能性があると考えられてきました。日本各地の七夕行事では、「天の川」を模した川や水路を設けて祀る風習も残っています。


科学的な説明としては、夏の夜の気温差による蜃気楼のような現象や、暗闇での錯覚という可能性も指摘されています。しかし、複数の人が同時に体験したり、写真に残されたりする現象については、完全な説明がつかないケースも少なくありません。


七夕の夜、静かな川のほとりで星空を見上げるとき、水面に映るのは本当に天の星だけでしょうか。もしかしたら、何百年もの時を超えて、今もなお逢瀬を求める魂の姿が映り込んでいるのかもしれません。

七夕には、天の川を挟んで年に一度だけ会える織姫と彦星の物語がありますが、

この「天の川」は日本の古い信仰では

「死者の道」や「異界への道」とも考えられていました。

このことから、七夕の夜は通常とは異なる別の側面である

「天の川」と「織姫と彦星の伝説」の霊的な現象が起きるとされています。

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