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怖い話  作者: 健二
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廃遊園地のメリーゴーランド


蝉の声が煩い七月下旬、私は大学のサークル仲間と共に栃木県の山奥にある廃遊園地の取材に向かっていた。私たち「都市伝説研究会」の三人は、ウェブマガジンのために心霊スポット特集を企画していたのだ。


「ここが『夢の国ランド』か」


運転していた田中がつぶやいた。1980年代に栄えたというその遊園地は、バブル崩壊と共に経営不振に陥り、1997年に閉園。以来二十年以上、山の中で朽ちるに任されていた。


駐車場跡に車を止め、私たちは廃遊園地の入口に立った。錆びた鉄柵のゲートには「立入禁止」の看板が掛かっているが、既に何者かによって壊されていた。


「じゃあ、計画通り中に入って写真を撮って、日が暮れる前に出るってことでいいよね」


会計の森田が確認する。彼女はこの手の場所が苦手なようだ。


「大丈夫だよ。ほら、松本もカメラ準備してるし」


田中が私の肩を叩く。私は一眼レフのレンズをチェックし、三人で遊園地内に足を踏み入れた。


中は想像以上に荒れていた。雑草が膝丈まで伸び、建物や乗り物は錆と苔に覆われている。観覧車は骨組みだけが残り、ジェットコースターのレールは途中で途切れていた。


「ここの噂って何だっけ?」森田が不安そうに周囲を見回す。


「閉園した日に、迷子になった女の子が見つからなかったんだって」田中が答える。「それから夜になると、メリーゴーランドだけが動き出すという噂があるんだ」


遊園地の中央に位置するメリーゴーランドは、不思議と他の施設より状態が良かった。カラフルな馬や馬車は色褪せてはいるものの、まだ形を保っている。


「なんか...この辺だけ時間が止まってるみたいだな」


私はカメラを構え、メリーゴーランドの写真を撮り始めた。シャッターを切るたび、森の中の静寂が破られる。


突然、私のカメラが機能しなくなった。画面には何も映らず、電源も入らない。


「おかしいな...バッテリーは満タンだったのに」


「スマホで撮ろうよ」森田が提案する。


スマホを取り出した時、不意に鈴の音が聞こえた。三人は顔を見合わせる。


「今の、聞こえた?」


田中が頷く。「鈴の音...どこから?」


その時、メリーゴーランドの一角で、一頭の白い馬が微かに揺れ動いた。風もないのに。


「気のせいだよ...」


言いかけた森田の言葉は、次の瞬間に起きたことで遮られた。メリーゴーランドが、ゆっくりと動き始めたのだ。錆びた金属が軋む音と共に、回転台がきしみながら回り出す。


「嘘だろ...」田中が息を呑む。「電気なんかないはずなのに」


私たちは恐怖で動けなくなった。メリーゴーランドは次第にスピードを上げ、やがて懐かしいオルゴールの音楽が流れ始めた。「ブラームスの子守唄」だ。


そして、馬の一つに少女が乗っているのが見えた。青い夏服を着た、八歳くらいの女の子。長い黒髪が風になびいている。


「あれ...誰?」


少女は私たちを見ると、手を振った。


「いっしょにのりましょう?」


その声は不自然に澄んでいた。まるで遠くから聞こえてくるように。


恐怖で足がすくんだ私たちに、少女は悲しそうな顔をした。


「だれもあそんでくれない...」


突然、空が暗くなり始めた。夕立のような急な雨雲が現れ、瞬く間に辺りは闇に包まれる。


「やばい、戻ろう!」


田中が叫び、私たちは入口へと走り出した。振り返ると、メリーゴーランドは更に速く回っており、少女の姿はもう見えない。代わりに、複数の子供たちの笑い声が聞こえてきた。


急な雨で足元が滑り、森田が転んでしまう。彼女を助け起こそうとした時、私の背後から冷たい手が肩に触れた。


「いかないで...」


振り返ると、少女が立っていた。近くで見ると、彼女の顔は青白く、目の下には大きな隈がある。そして服は雨に濡れているのではなく、最初から濡れていたのだと気づいた。


「一緒に遊びましょう...永遠に...」


悲鳴を上げながら、私たちは全力で走った。入口に辿り着き、駐車場まで逃げ延びると、突然雨が止み、空が明るくなった。


「あれは...なんだったんだ...」


震える手でエンジンをかける田中。バックミラーを見ると、遊園地の入口に少女が立っていた。手を振っている。


その夜、宿に戻った私たちは、カメラのデータを確認した。不思議なことにカメラは正常に動作していた。そして撮影した写真には、メリーゴーランドに乗る少女の姿がはっきりと写っていた。


さらに奇妙なことに、その他のメリーゴーランドの馬にも、薄く透けた子供たちの姿が...


帰京後、私たちはこの遊園地について調査を進めた。すると衝撃的な事実が明らかになった。1997年の閉園日、遊園地のプールで八歳の女の子が溺死する事故が起きていたのだ。さらに遡ると、この遊園地では開園した1983年から閉園までの間に、計七人の子供が様々な事故で命を落としていた。


そして最も恐ろしいことに、その子供たちの最後の目撃場所は、すべてメリーゴーランドだったという。


---


この物語のモチーフとなったのは、栃木県那須郡に実在した「ドリームランド」という遊園地で起きた一連の不可解な出来事です。1983年に開園したこの遊園地は、1997年に経営不振で閉園しましたが、閉園の直接的なきっかけとなったのは、その年の7月に起きた痛ましい事故でした。


地元紙の報道によれば、閉園日の夕方、8歳の女児が遊園地内のプールで溺死。彼女は家族とはぐれた後、一人でプールに入ったとされています。しかし不可解なことに、目撃者の証言では、事故の直前まで彼女はメリーゴーランドに乗っていたとのこと。プールとメリーゴーランドは遊園地の反対側にあり、どのようにしてそこまで移動したのかは謎のままでした。


閉園後、遊園地は放置されましたが、2005年頃から地元の高校生たちの間で「夜になるとメリーゴーランドだけが動き出す」という噂が広まり始めました。2008年には深夜に遊園地を訪れた大学生グループが、「電気もないはずのメリーゴーランドが回転し、子供の笑い声が聞こえた」と証言。彼らが撮影した動画には、確かに何かが回転する音と、かすかな子供の声が記録されていました。


さらに調査が進むと、この遊園地では開園から閉園までの14年間に、計7人の子供が事故で命を落としていたことが判明。奇妙なことに、それらの事故の多くは「子供が家族とはぐれた後」に発生していました。


現在、この遊園地跡は完全に撤去され、跡地は更地になっていますが、毎年7月の終わりになると、近隣住民からは「子供の笑い声」や「メリーゴーランドの音楽」が聞こえるという報告が続いています。霊感の強い人々は「失われた子供たちが、永遠に遊び続けている」と語っています。

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