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怖い話  作者: 健二
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夜鳴き寮の長い廊下


 蒸し暑い夏の夜。大学の合宿所として使われている古い寮に、玲奈と友人たちは宿泊していた。窓からは風がほとんど入らず、重たい空気がまとわりつくように漂っている。昼間のにぎやかな笑い声は闇に吸い込まれ、廊下には物音ひとつせず静まり返っていた。


 玲奈は寝苦しさに耐えきれず、水を飲もうと部屋を出る。夜中に開け放たれた薄暗い廊下を歩きながら、舌の渇きだけでなく、妙な心細さに襲われる。古い蛍光灯がまばらに瞬き、ところどころ天井にしみが浮いていた。


 ふと、背後から足音が聞こえた。スリッパが床をこする乾いた音が、玲奈の耳元でかすかに繰り返される。振り返ると、そこには誰もいない。ただ長い廊下が闇の奥へ伸びるだけ。静寂の中、喉の奥が急にひゅっと締まり、心臓が高鳴る。


 水を飲むために寮の端にある給湯室へと急ぎ足で向かう。すると今度は、廊下の向こう側で扉がきしむような音がした。誰かに呼ばれているなら返事をしなければ、と思いながらも、玲奈は声を出せず足を止められずにいた。無理矢理気を落ち着かせて、実際に音がしたとされるあたりへ行ってみるが、そこも人の気配はない。咄嗟に照明のスイッチを入れてみても、眩しさが広がるだけだった。


 給湯室で何とか冷たい水を口にふくむ。安堵したのもつかの間、暗闇の廊下に戻った瞬間、先ほどよりもはっきりとした足音が、玲奈の斜め後ろから迫ってくるように聞こえた。怖くなって走り出すが、足音はぴったりと同じ速度でついてくる。背後を振り返る前に部屋に飛び込み、ドアを閉めると同時にガタガタと震える手で鍵を掛けた。


 しかし、鍵をかけた扉の向こう側で、誰かがそっとドアを押している気配がする。カタカタ……カタカタ……。わずかに揺れるドアの隙間からは、黴臭い闇と、底知れない恐怖が染み出してくるようだった。玲奈は息を殺し、友人を起こそうとするが声にならない。しばらくすると、足音だけが離れてゆき、静寂が戻ってきた。朝日が差し込むまで、玲奈はドア横で震えて過ごしたのだった。


――――――――――――――――――――――――――――

■実際にあったできごと


 日本各地の大学や高等学校が所有するような古い合宿所や寮では、「夜中に不思議な足音が廊下を往復している」「誰も使っていないはずの部屋のドアが勝手に開閉している」という怪異の報告が複数存在します。特に夏の合宿シーズンは利用者が増えることから、夜間に“誰もいないはずの人影”を見かけるという証言も後を絶ちません。こうした現象は老朽化による建物の軋みや風による作動音だと片付けられる場合もありますが、実際に寮内で昔亡くなった人がいたなどの噂話が重なると、一層不気味な存在感を帯びるようです。真偽は定かではないものの、夏の夜ならではの怪談として語り継がれています。

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