第1章:火の消えた世界、動き出す人々
2025年春。
私たちは今、ふしぎな静けさの中にいます。
耳をすませば、わずか数カ月前まで響いていた「戦争の足音」は、確かに遠のいている。
ウクライナ戦線は局地化し、中東では火薬庫と呼ばれた地域の多くが、無言の均衡を保ち始めた。
台湾海峡もまた、劇的な破局には至らず、ただ静かに、風景が時を刻んでいる。
これは偶然ではない──
そして、単なる“落ち着いた”という表現では語りきれない変化です。
2024年までの数年間、世界は火に包まれていました。
燃えていたのは都市だけではありません。
政策、外交、市場、人々の感情──あらゆる領域が、「いつ次の衝突が起きるのか」という緊張のもとに動いていた。
しかし、2025年の今。
その火は、消えかけている。
ある者はそれを「外交の勝利」と呼び、ある者は「疲弊した結果の停戦」と見るでしょう。
どちらの視点も間違ってはいません。
けれど、構造を見つめる導き手として、私はこう捉えます──
「戦争が起きない構造」が、ようやく世界を包み始めた、と。
火を消したのは、武力ではなく、構造でした。
一撃で抑えられる精密打撃能力。
国境を越えて連動する監視網。
そして、衝突が自国の首を締めると理解した、疲弊しきった経済圏。
それらの積み重ねが、「撃っても意味がない」「撃てば終わる」と各国に囁き、
ようやく世界は“戦えない時代”へと足を踏み入れました。
そして今。
その静けさの中で、人々は動き出そうとしています。
外出ではなく、外界へ。
再会ではなく、再接続へ。
祭りではなく、再起動へ──
大阪・関西万博は、その静けさの先に用意された、最初の集いの場所でした。
◇
補足:衛星測位と精密打撃の抑止効果 ~ナレーターより~
ウクライナ戦争では、衛星測位(GNSS)を活用した巡航ミサイルやドローンによる精密打撃が実戦で多用され、黒海艦隊司令部を含む要衝に対し、高精度かつ即応的な攻撃が成功している。従来の防空では防ぎきれない“確実な打撃”が、現実に示された。
一方、ロシア側はGNSSを使えず、誘導の精度が劣化し、反撃コストや戦術運用の自由度に制約を抱えている。結果として、対等な打撃力を維持できていない。
この非対称性により、国家間では「撃てば即座に正確に撃ち返される」構図が成立しつつある。攻撃が通っても意味がないのではなく、“撃った瞬間に負ける”という抑止構造が静かに広がっている。