第8話 お出かけのあと
服を買って家に帰ってきた後、服を整理した後に少し早いが風呂に入ることにした。
「ふう~」
北風が俺たちの身体を冷やしてくるが、それで冷えた後の風呂は気持ちがいいなあ。
しかし最近は色々ありすぎだ。目まぐるしく変わる状況の変化に俺は少し対応しきれていないのかもしれない。でも、こうやって一息つくととりあえず落ち着いていられるなあ。
湯船につかってぼーっとしていると元カノとの思い出が出てきそうになる。それをとりあえず振り払った。まだ別れてそこまで経っていないから出てきそうになってしまうのだろう。
「思い出さないようにしないとな…」
そう考えていると…
ドタドタドタドタ!ガラガラ!
「ご主人さま!」
「シ、シロネコっ!?お、おま、なんでここに!?」
ゆっくりしていた俺に突如襲い掛かる猫耳がピンとしたシロネコ。しかもこいつ…
「なんで全裸なんだよ!!」
湯気の奥に見える白くきめ細やかなすべて、ふさふさの猫耳、その奥の脱衣所には散乱したシロネコの服。雑に脱ぎすぎだろ…
「わたし、お祖母さまに髪を洗ってもらっている間に思ったのですが、これをご主人さまにやってほしいしやりたいって!」
目がキラキラし、猫耳はぴょんぴょんしている。
「おいおい…お前は知らないかもしれないが、普通は男女で風呂に入ることはしないんだぞ?」
「えっ?」
ちょっとガーン…とした後に…
「っっっっっっっ〜!!」
気づいたか、羞恥心に。
シロネコの白くてぷにぷにしていそうな顔から猫耳まで真っ赤になる。
「は、はずかしい…です…へくちっ!」
可愛いくしゃみ。そんな寒そうな格好をしているから…
「おい、真冬にそんな格好じゃ風邪引くぞ…もう先出るから、風呂入ったら?」
「わたし…自分で…髪を洗えないんです…」
ちょっと困った顔でシロネコが言う。
おいマジかよ…どうすりゃいい…くそっやるしかないのか俺が!!
「わ、わかった。髪は洗ってやるから…髪を洗ったら俺は出るからな!」
「はい!」
シロネコが入ってくる。恥ずかしいとは言ったが割と堂々としているな…俺が恥ずかしいくらいだ。もしかして常識がわからなくてそれに気づいて恥ずかしいと言っただけなのか?全裸であることの羞恥心はないのか?
まあいい。洗うことにしよう。
脱衣所との折り戸を閉めて、シャワーを出す。
「じゃあ洗うぞ〜目を瞑って」
ジャー!
「ひやっ!」
「お、おい!!」
抱きっ!!すべすべとした肌が密着してくる。
素っ裸の状態で抱きつくな!
…と思ったが本人の猫耳はちょこん…としている。もしかして…
「シロネコ、お前元々は猫だからシャワーを浴びるが苦手なのか」
「は、はい…水を浴びるのはまだまだどうしても慣れなくて…」
話には聞いていたが、本当に苦手だとは思わなかった。
「まあまだ慣れんかもしれんが、そのうち慣れるさ。シロネコの嫌にならないように優しくしてやるから」
「わかりました…続きをお願いします」
ちょっとしょんぼりしてるが、俺に応じて密着状態から離れた。
「じゃあいくぞ」
緩めにレバーを上げて軽く出す。そして軽く髪に当てる。
「ひやっ!!」
「頑張れ。大丈夫だから」
とりあえず下洗いをする。髪が長くて大変だ。昔、莉子と風呂に入っていた時代を思い出す。こうやって髪を洗っていたな。
「とりあえずシャンプーをつけていくな」
莉子がいつも使っていると言うものを拝借させてもらってシロネコの頭につけていく。
シロネコの髪はサラサラで、水に怯えてぴく、ぴく、とした猫耳が可愛い。いつの間にか手が勝手に猫耳へ!
「ひん…そこは…だめです…」
…髪を洗ってるだけ…だよ。
猫耳をシャンプーで優しく洗うと、さらにピクピクしだす。しっぽもピクリとしていて、気持ちがいいのか嫌がってるのかどっちなのか分からない。
前髪も洗う。ちょっと力んでいる感じがする。
髪の先端まで優しく洗って…
「よーしできたぞ〜じゃあ洗い流すぞ〜」
ジャー!
シャワーで全ての泡を洗い流した。シロネコはピクピクしているが、なんとか耐えた。
「よく頑張ったな。とりあえず終わったぞ」
「あ、ありがとうございます…」
「じゃあ俺はもう出るぞ」
俺が折り戸を開けて行こうとすると…
「あ、あの…」
ん?シロネコが何か言いたげにしている。
「なんだ?」
「あの…洗っていただいたお礼に、ご主人さまのお背中を洗いたいんです」
振り向くと、シロネコが上目遣いで俺の背中を洗うと言っている。猫耳も緊張のピンとしている。かなり本気だ。
「シロネコ大丈夫か?お前は水が苦手なんだろ?」
「そうではありますが…いつかは慣れたいと本気で思っているんです。そのために練習したいんです」
「…わかった。一度洗ったしもう上がるから軽くでお願いするな」
シロネコと交代で座る。
人に背中を洗い流してもらうのは小さい頃、母さんにやってもらった以来かもしれない。
「ではご主人さま…やりますね」
ジャー!
シャワーを出した。ちょっと手が震えているらしく定まらないが、だんだんと定まってきた。
一旦シャワーを止め、シロネコがボディソープを身体を洗うためのタオルにつけて優しく背中をさする。
「ご主人さま、痛くはないですか?」
「大丈夫だ」
「ならよかったですっ」
10年以上誰かに体を洗ってもらったことがなかったんだが、こんな感じだったか。ちょっとくすぐったい感じもするな。
「では。洗い流します…ねっ!?」
つるっ!!
そう音がした。床にボディソープの泡があるから滑ったのか!?
「おい大丈夫か?滑ったのか?」
ぎゅっ!シロネコが背中に抱きついてきた。
「はい…大丈夫です。ご主人さまに掴まったおかげで…」
俺は全裸で抱きつかれているが、もっと何か羞恥心がないのかこの子は…まだ猫の気分が抜けていないのか?
「大丈夫ならよかったが…」
とりあえず怪我はなくてよかった。一度俺は銭湯で綺麗にすってんころりんして脳震盪状態になったことがあるから風呂でのスリップはちょっと不安になる。
「うし、じゃあ上がるね」
「はい!次にまたご一緒する機会があったら、今度はわたしが髪をあらいます!」
シロネコは猫耳をちょこんとさせて。しっぽをフリフリしながら言った。
「おう、期待してるぞ」
まあ、流石に次はもう人間の羞恥心に本格的に目覚めて入ってはこないだろう。
俺は立ち上がって折り戸を開けた。
ちょうどその時に—
「翔〜洗濯機使うから入るよ…ってごめん!ちょうど上がるところだった!?ってよく見たらシーちゃん!?ちょっと翔、何してんのよ!?」
部活帰りの莉子とバッタリ。脱衣所に洗濯機があるから、部活の服とかを入れようとしたのだろう。状況的に俺もシロネコも全裸だし…これは嫌な予感が…
「翔がシーちゃんをお風呂に連れ込んだ…!?」
「おいちょっと、誤解だぞそれ!」
この後、莉子の誤解を解くのに一晩中必死になるのであった。