第7話 はじめてのお出かけ③
「ずるずるずる…ん〜♡おいしいです♪」
そう笑ってラーメンをすするシロネコ。人間化したとはいえ、猫がラーメン食べるってのは中々な状況だと思うが…
「やっぱりズガキヤのラーメンは美味しいね!」
満足そうに莉子もラーメンをすする。
「初めて食べたわ。あっさりしていておいしいわね」
堅そうな表情を少し崩す呼続。コイツは高校入学前にこっちに転校してきたらしく、この店の存在を知らなかったようだ。ズガキヤはこの地方のローカルなラーメン店だ。
そして俺も温泉卵入りのズガキヤラーメンをすすっている。たまに食うとうまいんだよな、これ。
「そういえばさ、呼続は今日はどうしてここに?」
「私も服を買いにきたの。そうしたら女性服をじっくり覗き込むクラスメイトがいるもの、気にならないわけないわ」
「翔…もっと普通に服を見た方が良かったわね」
呼続と莉子に指摘されちゃ、誰から見ても不審者になっていたんだろう。
「ああ、じっくりとイトに似合う服を探していたら気付かぬうちに覗き込んでいた」
ラーメンをすするシロネコの猫耳がニットの上からでもわかるくらいにピンと反応した。イトって言うたびにシロネコが不機嫌になる気がする…あまり使わないようにはしているんだがな。
「あんな姿、学校のほかの子に見せたら噂になってたかもね。私でよかったわね」
「は、はあ…誰にも言うなよ?」
呼続はさらに堅い顔を崩し、
「もちろんよ」
ちょっと微笑みながら言う。機嫌がよさそうだ。さっきシロネコを自分の意のままに着せ替えしたからだろうか。いつもの学校じゃあまり見せない顔をしている。こんな表情を見せるんだな、こいつは。
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「翔お兄ちゃん!おいしかったです~♪」
なんだかんだ楽しい昼食になった。いつもはお堅い呼続も楽しそうに話に入って楽しんでいた。
「そうそう、デザートにソフトクリーム食うか?」
「食べる―!」
莉子は即座に反応したが、
「「ソフトクリーム?」」
シロネコと呼続が首をかしげて同時に反応する。
「そう。二人は遠いところから来たからわからんと思うが、このズガキヤはラーメンだけじゃなくてソフトクリームも有名なんだよ」
「そう…小さいころからずっとあの味でおいしいのよね~」
ソウルフードと謳われるだけある。俺も莉子も、フードコートでズガキヤがあるときは食後に必ずソフトクリームを食べるんだよな。
「へえ…ラーメンとソフトクリーム、面白い組み合わせね…食べてみようかしら」
「私もたべますっ!」
呼続もシロネコも食べるようだ。
「よし…注文してくる。手が足りないから莉子もついてきてくれ」
「あいあいさー」
俺と莉子は席を立ちあがって店へ向かう。
ズガキヤの店員さんは注文を受けるとすぐに目にもとまらぬ速さでソフトクリームを4つ分作る。いつも思うけどすごい技術だよなこれ…
ちょこんとしたソフトクリームのツノが4つそろった。
俺と莉子で2つずつ受け取り、そして席に持っていく。
「わあ~っ♡」
莉子から渡されたソフトクリームを見てシロネコが目を輝かせている。
「ほら、呼続も」
「いくらだった?」
呼続が財布を出そうとする。
「奢りだ。今日はシロネコのコーデに付き合ってくれたしな」
俺はソフトクリームを差し出して早く受け取るよう催促する。
「そんな、申し訳ないわ」
「溶けるから早く食ってくれ」
「わかったわ…ありがたくいただく」
しぶしぶとした動作で受け取る呼続だが、ソフトクリームを食べた瞬間に呼続の顔はほころんだ。そう、それでいいんだ。
今日はシロネコのために時間を削ってまでコーデを考えてくれたしな。これくらいはさせてくれ。
「うーん♡おいしいですう~」
猫耳がリラックスしている。シロネコはご満悦の様子だ。
「やっぱりここのソフトクリームはいいねえ~冬場だけどあえて食べたくなっちゃう味なんだよね~」
莉子は食べ慣れているため、割とガツガツと食べる。
「そうなんだよな。無性に食いたくなる味だよなこれ」
みんなの顔が幸せになる。やっぱりソフトクリームの力は偉大だなあ。
そんなことを考えつつ、クリームが溶ける前に食べ進めるのであった。
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その後、莉子の部活の時間が迫っているから家に帰ることにした。呼続はこのまま当初の予定だった買い物を続けるらしい。別れ際、またシロネコの服を買うときに呼んでほしいと堅さを崩した顔で言った。
そして家までの帰り道を今は進んでいる。
「今日は楽しかったですね、翔お兄ちゃん!」
シロネコがまだお兄ちゃん呼びになっている。
そういや、まだ良いとは言ってなかったな。
「シロネコ、もういいぞ」
そう言うと、シロネコは「ふう~」と一息ついて…
「ご主人さま!…ご主人さま、やっぱりこの呼び方がわたしはすきです!」
「ふふ、やっぱりシーちゃんはずっと我慢してたよね」
「はい…本当はずっとそう呼びたかったのですが、ご主人さまの言うことなので…」
俺は演技が上手いとは思うだけだったが…莉子はシロネコの我慢を見透かしていたようだ。
「すまんな…だが、おまえが元々猫だったことを明かさないためだったんだ」
「それはわかっていますが…わたしがまだ納得いっていないのがあの名前ですっ!…おうちに帰ったらたくさんシロネコって呼んでくださいっ!」
シロネコがニットの猫耳をつんつんさせて言う。
俺が与えたシロネコっていう名前もだいぶ安直だったんだが…かなり誇りを持っていたようだな。
「ああ、もちろんだシロネコ。だがまたアイツのような奴にあったときにはあれで呼ぶかもしれん」
「それはもう仕方なく割り切るとします…」
ちょっとしょんぼりした顔で答える。
「翔、今度はもう少し遠くのショッピングモールに行きましょ」
「そうだな、今日はちょっと近かったかな」
呼続のおかげで服はちゃんと決まったが、その呼続との出会い、呼続のような学校の人がいるかもしれない場所での買い物はシロネコにとっては危ない瞬間にもなりえた。それが反省点だ。
「んじゃ翔、私はこのまま学校に行くわね」
莉子は用意をもってきていたのでそのまま午後錬に行くようだ。
「ああ、頑張ってくれ」
「頑張ってください!お姉様!」
莉子は交差点を左に曲がる。俺とシロネコは右に曲がろうとした―
「―ご主人さま、ちょっと待ってください」
急にシロネコが冷静な声で制止する。
「ん?どうしたんだシロネコ?」
シロネコはいつもは見せない真剣な顔をしている。なんだ、どうしたんだ?
「…この先から嫌な気配がします。こっちには行きたくないのです」
冬の日の入りの早さから斜陽になっている。その光がシロネコの真剣な顔をスポットライトのように照らす。俺は少し驚いた。
「…特にいつもと変わったところはないように見えるが」
目を細めて色々なところに着目しても、特に目立ったところはない。いつもの北風が音を立てて通る住宅街の道な気がする。よく見ると黒猫のような猫が奥にいるような気がするが…
「まあいいか。別に右に曲がらなくとも、まっすぐ行っても家には着くわけだし」
「ご主人さま、ありがとうございます。わたしの気にしすぎかもしれないですが」
「全然いいよ。行きたくない道をわざわざ進む必要はないわけだし」
突然のシロネコの態度の変化には少し困惑したが、そのまままっすぐ進んでしばらくすると元に戻って、無事に家にたどり着くのであった。




