2.愚答
2.愚答
ヌエが一番に動く。
二人の前に立ち塞がり、罰枝を構える。
「…教会関係者には見えないが、彼女に何用かな? 」
ヌエは背も体格もかなりある。
その上、いつもは少し屈んで二メートル。
両肩が内側に入って、左右二メートル。
その体格が完全に背筋を伸ばし、肩も伸ばせば、巨漢。
壁だ。
「わ、私達は…」
真ん中の小太りが話し出す。
ヌエの顔は黒子の様な布で隠されている。
その顔布の向こうから、ギロリと視線が向けられる。
気圧され、小太りの男は怯みかけて、踏みとどまる。
「私達は“救済の聖女”に用があるのです。あなたでは無い。」
「私は彼女の同行者だ。用件を言え、でなければ此処はどけぬ。」
小太りが返す。
「私達は、“救済”を求めているのです。」
「…治療できぬ病でもあるのか? 」
「そ、そうです!だからこそ“救済”を」
「ならん。」
「な、なんですと? 」
「お前達に“救済”が必要では無い。それほどの病はない。」
「な、なら何だというんだ!現に不調はある!護衛にも何かしらある!」
「ええい、邪魔するな!この僧侶めが!やれ!」
護衛と呼ばれたチンピラモドキが前へ出る。
当然、ヌエは通す気が無い。
しかし、観察は終わっている。
「酒の飲み過ぎ」
肝臓へ一撃。
「不衛生」
強い足払い。
「塩分過多」
胴の中心打ち。
「歯医者の仕事」
顎へ一撃。
そして最後に、小太りの男へ。
「肥満、運動不足」
鳩尾に一撃。
ヌエは振り返り、店主に向き直る。
「…騒がしくしてすまない。こいつ等は詰め所まで連れて行く。」
「いえ、いい物が見れました。お代も貰いましたので、お気になさらず。」
「それに、坊を詰め所に送りました。じきに来てくれます。ささ、お連れさんの方へ。」
「お気遣い、誠に感謝する。」
飯屋の店主は気前が良かった。
ちなみに、立ち塞がった途端に、カエデが多めに支払って、二人は裏口に逃げている。
追手は撒くに限る。
・ ・ ・
先にそそくさと脱出したカエデとアニラは路地裏を抜ける。
「いいんですか? ヌエ殿に任せて!」
「いいのいいの! 立ち塞がった時、後ろ手でサインを出してたでしょ!」
「“救済の聖女”サマに縋りたい馬鹿なら掃いて捨てるほどいるでしょ!」
「…すm」
「謝る必要は無いわよ!可愛い妹弟子に先輩面させなさい!」
結構な速さで逃げたが、さっきの護衛モドキ二人が先回りして来た。
「逃がしゃしねぇよ!この町は俺たちの庭だ!」
黄色い歯で嫌なニヤニヤ笑いを浮かべた護衛モドキはシスターを捕まえようと、手を左右に伸ばしながら立ち塞がる。
「土地勘はそっちが上なのね。アニラ、少し下がってて。」
迷い無くカエデは“酷刀”の鯉口を切る。
しかし、鞘からは抜いていない。
「見逃す気は無いわよね? 」
相手が口を開く前に、カエデは地面を這う様に駆ける。
居合抜き、二閃。
「ぐあっ!? 」
「ごほっ!? 」
“酷刀”は片方の首、片方の胴を駆け抜けた。
しかし、“酷刀”は切断していない。
身体の中を駆け抜けたが、与えたのは激痛のみ。
二人は、それぞれの部位を両断された錯覚を覚え、手で抑えたが、切れてはいない。
カエデは後ろのアニラまで翻り、警告する。
「これが本物の武器なら、貴方達は死んでるわ。まぁ、痛みで暫く動けないでしょうけど。」
二人とも目を白黒させてその辺に転がった。
“酷刀”を納め、アニラの手を取って走り出す。
「このまま、逃げ切るわよ!」
・ ・ ・
「ふむ、カエデ、“酷刀”の扱いが上手くなっているな。」
「あの後、私も頑張ったんですよ!もっと褒めて下さい!」
「よしよし、えらいえらい。」
ヌエに頭を撫でられ、一瞬緩みかけて…
「言葉で褒めて下さい!」
「…以前とは比べてにならん程、扱いに慣れたな。しかし、“袈裟斬り”でも良いのだぞ。そっちの方が広い分痛みは大きくなる。胴切りはいいが、首は咄嗟の混乱で呼吸が止まりかねん。」
「うっ…精進します…」
「さて、先ほどの続きだ。カエデ、“黒具”との接続とはどう言うことか説明してみろ。」
「はい!それぞれの“黒具”と同調し、自らと戦って、自身を理解する事です!」
「…及第点だな。」
「ええー…私の場合はそうでしたよ。」
「正確には、自らの辛苦と向き合い、折り合いをつける事だ。アニラ、お前は“救済の聖女”であった過去の自分と向き合え。」
「“獄鋼”は過去の所業を悔い改めさせる為の物でもある。それに”接続“すれば、乗り越えるべき壁が立ち塞がる。それと対峙し…なんとかせよ」
「なんとかって…」
「カエデは切り倒したが、同化する場合もある。アニラの前に立ち塞がる相手をどうすれば克服できるか、それは個人個人で変化する。しかし、“接続“したままにするのは危険。折り合いが着かなければ、永遠に接続したまま身動きが取れなくなる。故、一定時間の時間制限を設ける。」
「あの原始的な方法ですよね? 」
カエデが一言挟む。
「あれ以外の方法は、私に“黒具“を託して下さった方も、知らないそうだ。」
「余計な邪魔が入るのも良くない。それに延々悩み続けるより、やった方が早い。その方が下手な修行よりもいい。」
「じゃあ、やりますか!この裏の松の木でやれますよね? 」
・ ・ ・
「見つけたぞ肉ダルマ!」
アニラを接続させた後、二人して見守っていた所に、さっきの小太りと制服チンピラがやってきた。
「やれやれ、土地勘で負けているのは分が悪いな。」
「もう一辺ぶちのめしてやります!」
しかし、連中の目線はヌエ達の背後の松の木に向いていた。
「せ、聖女様…貴様らなんて事を…」
そこには眠っている様な表情のアニラと、木の下から“八杖“が心臓を貫いている様だった。
「殺せ!聖女様を殺めた輩に慈悲は要らん!」
制服チンピラ共の装備が良くなっている。
身体強化の防具、武器類。
「殺めてはいないが…邪魔はさせん。」
「そうです!もう一度成敗です!」