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全ての生きる人へ

作者: Iki

 第1章:全ての生きる人へ


 これは私(五十嵐美咲)がまだ一端の捜査一課の刑事であった頃のこと。

 

 都会の騒音がかすかに聞こえる中、私は息を詰め、手元のスマートフォンを確認する。数日前に届いた奇妙なメッセージが頭を離れない。


「全ての生きる人へ、選ばれた者のみが知る死がある。」

 謎の言葉。発信者は不明。しかし、私にはある確信があった——これは単なる悪戯ではない、と。

 

 仕事の相棒である藤井真也がはなしかけてきた。

 

「美咲、何か進展はあったか?」


「ううん、でもこのメッセージ、どうしても気になるの。偶然とは思えない。」

 

 藤井は苦笑した。

「あまり深く考えすぎるなよ。ネットのいたずらだってこともありえるだろ?」


「そうかもだけど……。」


 その瞬間、会話を裂くように電話がかかってきた。


「五十嵐刑事、今すぐ来てください。殺人事件が発生しました。」


 第2章: 不可解な死


 現場に到着した私たちは静かな住宅地の一角にたどり着いた。そこの一軒のモダンな家の前には、警察のバリケードが張られ、何人かの警官が忙しそうに動いている。


 息を吸い込み、慎重に家の中へと足を踏み入れた。玄関を抜け、リビングルームに到着した時、私たちの目に飛び込んできたのは、床に倒れている男性の遺体だった。


「被害者はこの家の持ち主でIT関連の会社経営者の篠原智久さん、42歳です。」と、若い警察官が現場の説明を始めた。


 周囲に一礼し、慎重に歩を進める。被害者の姿勢から判断して、争った形跡はない。胸にはナイフが深々と突き刺さっており、即死だったことが一目で分かった。


「殺人現場にしては、あまりにも静かすぎるわね。」


「そうだな。強盗の線も薄い。現金や貴重品も手つかずだし、侵入の形跡もない。」と相棒。


「一体、誰がこんな……?」


 その時、スマホに再びメッセージ。


「全ての生きる人へ。1/2」


「これって……」


「また来たのか?そのメッセージ」と藤井が怪訝そうに聞く。

 


「ええ、しかもこのタイミングで。」


 眉をひそめた。このメッセージと篠原の死に関連があると直感した。


 第3章: 完璧なアリバイ


 変な話だが、被害者には死亡推定時刻アリバイがあった。自宅でオンラインミーティングに参加していたのだ。実際、そのミーティングの映像記録が残っており、事件の時刻と重なっている。しかし、映像の中の篠原は至って普通に見える。


「彼は自宅にいたって証拠があるじゃないか?死亡推定時刻がミスってたか?」藤井が疑念を口にした。


「そうね、でも何かが引っかかる……」


 私は映像の中で、篠原が時折目を伏せていたことが気になっていた。まるで何かを気にしているように、目の前にあるものを隠しているかのような仕草だ。


「この映像、どこかおかしくない?」再生を止める。


「どういうことだ?」


「彼がずっとこの位置にいるのは不自然よ。まるで動かないし、タイミングが異常に完璧すぎる。何かトリックがあるようなそんな気が……」


 脳裏に1つの可能性が浮かんだ。それは、オンライン映像ではなく、事前に録画されたものである、というものだった。そして、その映像を流している間、篠原は別の場所にいた——殺された場所に。


「それならばアリバイを崩せるわ……篠原は自分の死を偽装した」


「待てよ、どうやってそんなことが可能なんだ?篠原は自分を殺せるわけがないだろ?」相棒が眉をひそめた。


「そう、それが謎よ。だからこそ、誰か別の人間がこのトリックに関与している可能性が高い。」


 第4章: 疑念の影


 捜査を進める中で、篠原のビジネスパートナーである木村洋介が捜査線上に上がった。彼は篠原の死後、会社のNo.2を引き継ぐ予定だった。彼の行動を洗うと、事件の当日に篠原の家の近くで目撃されていたことが分かった。


 私たちは、木村を事情聴取するために呼び出した。


「木村さん、事件当日のアリバイについてお聞きしたいのですが……」美咲が尋ねると、木村は冷静に答えた。


「その日、私はオフィスにいました。証拠もあります。監視カメラの映像を確認していただければ分かります。」


 その映像にも疑念は抱かれた。映像は確かに木村がオフィスにいることを示していた。が、その動きが不自然だった。篠原の映像と同じようなもどこかぎこちなさが……


「また映像、か……」小声で呟く。


 2つのアリバイ映像に共通するのは時間操作だ。そんな気がしてならなかった。篠原と木村が共謀しており、お互いのアリバイを作り出すために映像を仕組んだのではないか、と。篠原は自らの死を偽装し、木村がその後の処理を担う計画だったのではないか。しかし、何かが狂った——それが篠原の「本当の死」だ。


 第6章: 本当の死


 私は映像トリックを確認するために専門家を呼び、両者の映像を解析した。——推測通りだった。映像は事前に録画され、篠原と木村は犯行時刻に別の場所にいたことが判明した。しかし、篠原は何者かによってそのタイミングで本当に殺されてしまったのだ。


「つまり、計画は逆手に取られた……ってことか?」


 黒幕は篠原と木村が仕組んだ映像トリックを知り、彼らの計画を利用して篠原を殺害した。その人物は篠原の死後も木村がトリックを続けていることを知っており、二人のアリバイを利用して完璧な犯罪を成立させようとした。とまぁ、こうなる。


 しばらく考えているとまたもやメッセージが来ていた。


「全ての生きる人へ、君もその一部だ。」


 犯人はまだ自由の身なのだ。

 次なる一手を考え始めねば……とより一層気をひきしめた。


 第6章: 利用


 私は犯人がまだ行動を続けているという恐怖を感じつつも操作を進めた。篠原と木村のアリバイトリックは、犯人に利用された。

 ——しかし一体誰がなんのために———?


 警察署に戻り、捜査本部で情報を整理することにした。


「篠原と木村の計画は、あまりにうまくいきすぎた。だが、その完璧さゆえに逆に利用されたのかもしれない。誰かがその隙を突いたってことなのかな。」


 ホワイトボードに事件の関係図を書き出す。


「篠原は自分の死を偽装しようとしたが、実際に殺された。木村にはアリバイがあるように見えるが、そのアリバイも映像トリックで偽装されていた。問題は、篠原と木村のトリックを知っていた人物だ。誰がこの計画を知っていたのか?」


 藤井は腕を組んで考え込む。「確かに、その通りだ。篠原と木村以外に、この計画を知る人物がいたはずだ。そうでなければ、トリックを逆手に取って殺すなんてことはできない。」


「そう、だからそいつを探す必要がある。そして、その鍵は木村……。」


 第7章: 計画


 私たちは木村に再度事情聴取を行うことにした。捜査室に呼ばれた木村は、表情にやや不安の色を浮かべていた。鋭い目つきで彼を見据え、問い詰める。


「木村さん、あなたに提出していただいたオフィスの映像ですが鑑識に回したところ加工の跡が見つかりました。そろそろ本当のことをお話頂けますか?」


 木村は顔を曇らせ沈黙した。しばらくして観念したかのように口を開いた。


「……バレてしまいましたか。。ええ。私にはアリバイはありません。ですがそれは篠原ではなくやつを殺そうとしていたためです。篠原とふたりで。私たちは、やつを殺し行方をくらますつもりだったんです。自分の死を偽装してね。私もその計画に乗っていました。二人がいなくなれば、私は経営を引き継ぎ、すべてがうまくいくはずだった。篠原も自分自身の生命保険で一生遊んで暮らせる。」


「ほぉ?」


 木村は深く息をついて答えた。「計画通りに行くはずだったんです。あの日、篠原は自宅で偽装のために録画を準備していました。私も会社にいたふりをして、アリバイを作っていた。でも……彼は本当に殺された。俺たちの計画を知っていてやつは先に動いたんです。」


「その、、『やつ』とは?」


 木村は空を見つめた。「やつの名は、、」


 第8章: 影の人物

 

 山本達也。彼は篠原の会社の元技術責任者であり、数か月前に突然会社のNo.2として任命されていた。篠原と木村の技術的なトリックを見抜ける知識を持っていた可能性が高い。


 私たちは山本の自宅を訪れたが彼はすでに姿を消していた。部屋は散らかっていた。しかし、一枚のメモのみコルクボードにしっかりと刺さっていた。


「次はお前だ。」


 メモの言葉に、薄ら寒いものを感じた。


 第9章: 罠と対決


 私たちは山本が犯人であるという確信を強めていた。彼は篠原に狙われたことに恐怖を抱き、復讐を果たした。

 

 次の標的は木村に違いない。

 

 そう考えた捜査一課は木村の警護を強化しつつ、山本を捕らえるための罠を張ることにした。


 木村を囮にし山本をおびき寄せる作戦を敢行することとした。木村は警察の保護下に置かれ、完全に監視された状態で動いていたが、それでも彼には不安があった。


「本当に大丈夫なんですか?俺が標的にされるなんて……」木村は震える声で言った。


「心配しない。私たちは命を脅かされた人の味方。だからあなたは味方であり敵になりかけた人でもある。」藤井が睨むと木村は申し訳なさそうにしていた。


 作戦決行の日、木村は会社の会議室で待機していた。周囲は厳重に警戒されていたが、やがて一人の男が建物に忍び込む姿が監視カメラに捉えられた。


「来た……!」

 

 思わず緊張した声を上げた。

 山本達也である。やはり木村へ復讐しようと現れたが、そこに二人の刑事が現れ、彼を取り押さえた。

「やはり、お前だったんだな、山本!」

 「俺はただ、復讐しただけだ……こいつらは俺を殺そうとしたんだ……!」山本は怒りと悔しさをにじませながら叫んだ。


 第10章: 全ての生きる人へ


 事件は解決した。二人が仕組んだトリックは、山本によって暴かれ、利用され。。そして篠原はその復讐の犠牲となった。山本は捕らえられ、捨て台詞を吐き連行されて行った。


「全ての生きる人へ、俺のようなものはまだまだいる。俺がどうしてお前の連絡先を知っていたと思う?お前たちは全てを守れると思うな……」


「全ての生きる人へ……か。」


 山本は刑に服している。山本は復讐せず私たち警察に届けてさえいれば……。そう考えると山本だけが悪いような気はしなかった。

 

 私はこの事件を終え捜査一課長にまで登り詰めた。


 気になることが1つある。


 木村が証拠不十分にて無罪放免になった。


 それが何を意味するかは後になってわかることであろう。

 ——終——

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