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13.水風呂

 朝から僕は水風呂に浸かっていた。風呂の中で、無心に水の操作をして遊んでいる。最近は、お風呂に入ってる時はいつもこうして試すのが習慣になった。おかげで元々長風呂だったのが、更に長くなったから、僕が最後に入るようにしていた。

 けれど今こうして過ごしているのはいつもの長風呂だからではない。

 今日は大会当日――それを考えないようにしていた。

「湊人よ、そんなにのんびりしててよいのか」

 あまり広くない浴室のすみっこに、浮いている玉津姫が話しかけてくるが聞き流した。

「今日はお主の友が出る()()()()()()の日取りではなかったのか」

「……お風呂入ってるんだから入って来ないでよ」

「ふん、お主の裸など水練で見慣れておるでな、気にならんわ」

 こっちが気になるんだけどなあと思ったが、今の僕には言い返すことも面倒で、これもスルーした。

 ぬかに釘を刺すような気の抜けた態度に、玉津姫も飽きたのか、僕の水を操るさまを眺めていた。水の塊をお手玉のようにぐるぐる回転させたり、水鉄砲のように飛ばしたり、前に比べて多彩になってきた。

「どんどん上達してるのお」

「こんな上手くなっても……水泳が出来ないんじゃ」

「……すまなかったのお湊人よ、わしを助けたばっかりに」

「いや、たまちゃんは悪くないよ!また僕を助けてくれたんだ」

「そう言われるとちっとは浮かばれるの――言わんでおったが、あの時、わしの霊力(ちから)があそこまで先細っていたとは……不覚じゃったわ」

 珍しく、あの玉津姫が陰った表情を見せる。そんなところを見せてしまい、しまったと思ったのか、すぐにいつもの気丈な振る舞いをした。

「まあ、過ぎたことは仕方あるまい!だから、湊人も元気を出すのじゃ」

 励まし方が雑だなあと思った時、ふわぁっと深紅の着物が視界を覆った。生地を透かして赤い光線が目に行き渡る。

「なればこそわしにもわかるぞ――今のお主の心持ち。……悔しかったのお」

 僕は無言でうんと頷ずく。お風呂を出る頃には、身も心もスッキリした心地だった。

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