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プロローグ

「あっ、危ない!!」

 突然の声に振り返ると、視界いっぱいの水しぶきが僕を包んだ。

 バシャッ!

 頭からポタポタと水が滴ってくる。

 顔は濡れたけど、この前日焼け対策で買ったばっかりの帽子を被っといて良かった。

「す、すみません――!大丈夫でしたか」

 空のバケツを持ったお姉さんが声をかけてきた。

「いえ、大丈夫ですよ、慣れてるので」

 「え、慣れてる?」

 僕はいつものように、バック(完全防水)からタオルを取り出して顔を拭いた。

 制服にも水はかかったが、今日は初夏の陽気だしすぐ乾くことだろう、どうせこれから部活で濡れるし。

「お姉さんの方こそ、大丈夫でしたか」

「はいぃ私の方は、問題ないですぅ」

 確かに、派手にぶちまけられた割に、かけた本人は水一滴かかってないようだ。

「花壇に水をまこうと思ったら、いつも使ってるじょうろがどっかにいってしまって。それで今日はあんまりにも良い日和だから」

 お姉さんがまくし立てて、喋りはじめた。

「バケツで一気にまいたら虹でもできるかなとやってみたら、思いのほか水を入れたバケツが重くてー。勢い余って、通りがかかったあなたにかけてしまったんですぅ、本当にすみせませんでしたー!」

「いえ、こちらこそあなたに()()()()()()()()()()()申し訳ありませんでした。では失礼します」

 うやうやしく、儀礼的に一礼した。

「え!?」

 傍から見たら、きっと不思議な状況なのだろう。

 自分が悪いのに、謝られて困惑するお姉さんを後にして、学校へと向かった。


 ――僕はいつも濡れていた。

 ――生まれた時から、水難の相だった。


 過去に携帯電話を3台ポシャった。1台は洗濯機に回し、1台はトイレに流し、もう1台の理由は忘れたがとにかく壊した。

 池に落ちたことも何度かあった。小学校の観察池で、甲羅を干してる亀を眺めていたら、誰かに押された訳でもなく吸い寄せられるようにボチャンとそのまま池の中へダイブした。

 ただ良いこともあった。

 あまりにも水難が多い僕を、母は心配して、スイミングスクールへ通うことになった。

 不思議なことに、水泳はかなり得意だった。

 ()()()()()()()()のではなく()()()()()()()()ようで、ひと掻きする度に、スイスイと前へと進んでいくのだ。

 そんな甲斐もあり、市の代表に選抜されることもあって、今は高校で水泳部に所属している。今日も、週末の休日にもかかわらず部活の練習に行く途中だった。

 こんな嫌な目にばかり遭っているが水自体は嫌いではなかった。 プールや風呂に入っていると、まるで――誰かに抱きすくめられているような心地良さがあった。

 それでも、普段から酷い目に遭うのはもう懲り懲りだ。

 どうやら水の方から僕に寄ってくるらしく、さっきのように本人にその気が無くても、僕に浴びさせてしまうこともあって、その度、不要な過失を負わせてしまうのが申し訳なくなる。

「……そろそろ、やっぱあの人に相談するしかないのかな」

 濡れた帽子が乾いた間に、学校へと着いた。

「よし、今日も頑張るぞ」

 意気揚々と僕は校門をくぐった。

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