最終話
大地が鳴動し始めた。
ザカリー・グラッドストンの死と共に、この巨大な浮遊島、天空帝都も崩壊し始めたのだ。
「みんな、飛行魔法で上に逃げるぞ」
アルフレッドに続いて、みな空へと舞い上がる。戦士たちはそれぞれに感慨を抱いた。
「終わったのね……長かった」
クラリスは言って、兄のエリオットの腕に寄りかかった。エリオットは頷き、妹の頭を撫でてやる。
「終わったんだ。本当に。父上と母上に報告に行かないとな」
「ああ……長かったぜ本当に。」エイブラハムが言った。「これでまた傭兵稼業に戻る日が来るのかね。長い間留守にしていたからな。部下たちはうまくやっているだろうか……」
「俺も故郷に帰る日が来たか……。随分と家族を待たせた」ライオネルは言った。
「私も故郷に良い報告が出来そうだ。闇の脅威は去ったのだからな」
エルフのエスメラルダは帝国騎士団長として、魔物たちを相手に戦ってきたのだ。
スカーレットも興奮気味だった。
「これで旅は終わりですね。法王様も元気になっておられると良いのですが」
「私も魔導士評議会へ帰還する時が来たようだ。戦いは終わったようだ」
マクシミリアンが言うと、コンラッドが頷く。
「どうやら世界中の魔物たちが消え去ったようだな。闇の元凶であるグラッドストンを失ったことで」
コンラッドは携帯端末でネットの情報を確認していた。
「どうやらそのようだな」アビゲイルも携帯を見ていた。「長らく続いた闇との戦いも終焉を迎えるか……」
眼下で天空帝都が崩壊していき、海に残骸が降り注いでいる。星を覆っていた闇の魔法陣も消滅している。
「よしみんな。じゃあ……パーティは解散だな」
アルフレッドが言った。神光の戦士たちは頷き、互いの故郷へと帰還することになる。彼らは短い間であったが、共に死線を突破してきたことは絆として残った。そして、それぞれに別れの言葉を告げ、テレポートで各々故郷へ帰還した。
アビゲイルはラートスヘル王国王都ロストラシアの地を踏んだ。民は彼女を待っていたかのように歓声を上げた。
ジャレッド国王も姿を見せ、アビゲイルの手を取った。
「よくやったな将軍。これで世界は救われた」
「恐れ入ります陛下」
「しばらくは英雄気分を味わうのもいいだろう。ゆっくりと休みなさい」
「はい」
アビゲイルは顔を上げて晴れやかな笑顔を見せた。
コンラッドはドランベルト共和国へ凱旋帰還を果たした。あれから紆余曲折を経て、王国と共和国は平和的解決に辿り着き、戦が起こることは無かったという。
コンラッドはザカリー・グラッドストンの死を公表し、魔物たちが消えた理由を明らかにした。天空帝都の崩壊は人々に驚きを与えたが、世界の平和が取り戻されたことを喜んだ。
マクシミリアンは魔導士評議会に帰還し、聖王レイモンドへの報告を果たすとともに、国民へのメッセージを寄せた。人々は驚きと歓呼の声を以てそれらを受け止めた。
スカーレットは回復した法王ゴドウィンへの報告を済ませた。法王は闇に取り込まれたことをスカーレットに謝罪した。そしてまた光に帰還できたことを喜びに思うと礼を述べたのだった。スカーレットは信じられない体験をしたことを記録に残し、この世界に起きた出来事を後世に伝えるのだった。
エスメラルダはエルフ帝国の騎士団長として再び祖国の地を踏んだ。人々は歓呼の声を以て彼女を迎え、エスメラルダは本当に世界を救ったのだと実感を感じていた。皇帝に謁見し、報告を済ませ、それから帝国騎士団長として記者会見を開き、グラッドストンを打倒したことについて国民に改めて長い旅路について語るのだった。
ライオネルは男爵領へ戻り、家族との再会を果たした。子供は歩けるようになっていた。イザベルは愛する夫を抱きしめた。
「よく無事で帰って来たわねあなた……。あなたの戦いはネットやテレビで見ていたのよ。放映されていたから」
「だが俺は無事に戻ってきた。今はそれでいいだろう」
そうして一夜明けて、ライオネルは国王のもとへ赴き、事の次第を報告したのだった。
エイブ ラハムがいない間、傭兵組織は四人の団長が議員を務める合議制によって稼働していた。だが、エイブラハムは帰ってきた。誰しもがエイブラハムの傭兵王復帰の声を上げた。
「さて……またこの席に座ることになるとはな。傭兵王か」
エイブラハムは郷愁を覚えた。さして席を開けていたわけでもないのに。
かくして、エイブラハムは傭兵王に復帰した。
クラリスとエリオットはの凱旋帰還は国民を熱狂させた。元々人気の高い王子と王女である。民衆は歓呼の声を上げた。王子殿下万歳! 王女殿下万歳!
そして父と母にザカリー・グラッドストン討伐の知らせを報告する。長い旅路と、天空帝都に至る戦いの物語を。出会った仲間たちのこと、各国で暗躍していた闇の勢力。
それからエリオットとクラリスは二人で城の塔に上がってバルコニーから城下町を見下ろした。
「終わったんだ……本当に」
「そうね。長いようで短いような……何度も死にかけて」
「魔物がいなくなって、戦いは無くなりそうだな」
「平和ってことでしょ。私たちが求めていたものよ」
「そうだな」
二人に悔いはない。やり遂げたのだ。だが、二人の仲間を失ったことは確かだ。
アルフレッドは生まれ故郷であるイズの村の跡地に戻ってきていた。ここ以外に報告する帰る場所を彼は知らなかった。父と母、自分たちを送り出した婆様、そして殺された村の人々。破壊された村の家屋はまるで時が止まったかのような感覚を呼び起こした。そうなのか? 自分の時は止まっていたのだろうか……。アルフレッドは小さく息を吐き出した。
アルフレッドは村の墓所に小さな塚を作った。そして、どういうわけか力を失ったデュランダルとミスティルテインの二本の魔剣をそこに突き刺した。
「クリストファー、アリシア……。ごめんよ……救ってやれなくて……俺だけが生き残って……。畜生……」
その時だった。空から光が降ってきて、コーラスが鳴り響いてきた。
「アルフレッド」
その声はアルフレッドの感情を揺さぶった。光の神々の声だ。
「クリストファーとアリシアのことは残念でした。ですが、あなた達はやり遂げたのです。二人ともそれを祝福しているでしょう」
アルフレッドは拳を地面に叩きつけた。
「俺だけが生き残って……。この旅を始めたのは俺達なんだ。俺はこんな最後を見届けるために旅に出たのか?」
「嘆くばかりではあなたは進むことは出来ません。あなたには役割があります。英雄としての役割が」
「英雄だって? 二人を殺してしまって、俺は英雄なんかじゃない!」
「この世界でのあなたの役割は終わりました。そしてあなたは資格を得た。こちら側の世界に来る資格をです」
「何を言ってるんだ?」
「あなたを光の神々の一員として迎えることが出来る資格です。この世界は常に光と闇が争っている。世界、それは全ての時空において。これからあなたは英霊となってライトサイドに奉仕することになるのです。それが実存世界において英雄となった者の役割。あなたの旅はこれから始まるのです。永遠に続く旅の始まりです」
「何だって? 何言ってんだ?」
「こちらの世界へ来れば分かります」
すると、光は大きくまばゆく輝きを増し、アルフレッドを包み込んでいく。
そして白い閃光が爆発した。
アルフレッドの姿は消えてなくなっていた。
……地面にはエクスカリバーが突き刺さっている。アルフレッドはこの世界から消えた。彼はより高次の存在が戦いを繰り広げる世界へと召喚されたのだった。
かくして物語は終わり、伝説が残った。




