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第五話

 アルフレッドとアリシアは馬を休ませながらも出来る限りイズの村へ急いだ。村に近づくにつれて二人とも胸がざわめく。全てを見ていた闇の帝王が村を放置しておくものだろうか、と。二人は無言のうちにその不安を封印している。


「追手は来ないみたいだな」


 休憩していた時、アルフレッドはアリシアに言った。


「そうね。でも……」


 アリシアが何を言いたいかアルフレッドには分かっていた。


「俺たちの村のことだろう?」


「ええ。そうよ。分るでしょう? グラッドストンが先に手を回しているかも知れない」


「ああ。それは俺も感じている。くそっ。俺たちのせいでみんなが危険な目に……」


「急ぎましょうアルフレッド」


「ああ。行こう」


 二人は再び馬を走らせる。



「あれは……」


 アルフレッドは村の方角から煙が立ち上っているのを確認する。


「アルフレッド……」


「行くぞアリシア!」



 そうして、村に近づいたところで二人は馬を降りた。徒歩で接近する。


 悲鳴と邪悪な咆哮が聞こえてくる。


「そんな……」


 故郷の惨状が二人の若者の目に飛び込んでくる。


 家は燃やされ、あちらこちらに人々の無残な死体が散らかっている。


 と、村人が一人、逃げ出してきた。その上空から見たこともない翼を持つ漆黒の異形の魔物が追ってくる。


「くそっ!」


 走り出そうとするアルフレッドをアリシアが制する。


「駄目よ」


「でもっ」


「殺されるだけよ」


 果たして、魔物の手のひらから巨大な炎の弾丸が放たれ、村人を絶叫と共に焼き払った。


「どうしたらいいんだ。みんなを見捨てるのか? 俺たちには魔剣がある。戦えるさ」


「まだ無理よ。駄目よアルフレッド。今のを見たでしょう? ゴブリンやオークとはわけが違うわ」


 アルフレッドは拳を握りしめた。血が滲み出る。それから二人は茂みや木陰の間を移動して、その間にも恐るべき漆黒の異形が村人たちを殺していく姿を目にする。アルフレッドは爆発しそうだった。


「あれは……父さん母さん」


 ハロルドとルビーが魔物の目を逃れて離脱しようとしている。だが、上空から二体の魔物がやってきて、二人を取り囲む。


 一体自分は何をしているんだ? アリシアがいなければアルフレッドは飛び出していただろう。


 ハロルドとルビーは抱き合って、言葉を失っていた。魔物たちは手のひらから魔法の弾丸を放ち、爆発と共にハロルドとルビーは粉々になった。


 更に、魔物に追われ逃げ惑うブレットとスージーが姿を現す。異形の魔物が降り立つ。


「どこへ行くつもりだ人間よ。無駄なことだ。ザカリー様の命により村人を全滅させることになっているのでな。悪く思うな」


「なぜだ! なぜこんなことをする!」


 ブレットは勇敢にもスージーの盾になる。


「神光の戦士はまだあのガキども三人だ。悪い芽は早く摘み取るべきなのだ」


「アルフレッドたちのことか」


 返答の代わりに、異形はざらついた声で笑うと、かっ、と口を開いた。閃光が魔物の口からほとばしり、ブレットとスージーは消滅した。


「そんな……」


 邪悪な咆哮と笑声が村を圧倒している。まさに悪夢だ。


「アリシア、俺は行く。こいつら……父さん母さんの仇だ!」


「駄目よ! そんなの私だって同じ!」


「だけどさ!」


 そこでアリシアはアルフレッドをひっぱたいた。


「行っちゃ駄目。殺される。ラモーナ様のところへ行くのよ」


 アルフレッドは崩れ落ちて涙を流した。アリシアは彼を抱きしめて、ただ無言だった。


「ラモーナ様だけが頼みの綱よ。さあ、行くのよアルフレッド」


「ああ」


 そうして、二人は村長の屋敷の背後に回り、裏手の門から中へと入った。



 ラモーナはすぐにやってきた。


「二人とも、無事であったか」


「ラモーナ様、私たち……」


 アリシアは証の祠で起こったことをかいつまんで話した。


「そういうことか。ではお前たちは神光の戦士たちを探し出すのだ。天命が導いてくれるだろう」


「天命って……」


 アルフレッドが口を開くと、強い衝撃が屋敷を襲った。


「ここもおしまいか」


 ラモーナは天井を見上げる。


 さらに強い衝撃が来て、屋敷の天井を破壊した。異形が三体、アルフレッドらを発見して笑声を上げる。


「やはりまだここにいたか」


 すると、ラモーナはアルフレッドとアリシアの前に立ち塞がり、「二人とも、下がっておれ」そう言って腕を突き出した。


 魔物たちは笑った。


「何だこの老いぼれは。我々と戦う気か」


「そこのガキ共々殺してやろう」


「死ね!」


 魔物たちの手から発射された魔弾を、ラモーナが展開する白光の結界が受け止めていた。


「ほう……ただの人間ではないようだな」


 そう言うと、魔物たちは舞い降りてきた。


「魔法が効かなければ、この爪でお前を直接に引き裂いてやるわ!」


「そうはいかん」


「何?」


 直後、ラモーナの体から白い光が炸裂した。


「滅! 聖なる光によって邪悪よ滅びよ!」


「な!? 何だ!?」


 白い閃光が爆発し、魔物たちは消滅した。


「ラモーナ様、凄い。こんな魔法が使えるなんて……」


 アルフレッドは圧倒されていた。だがラモーナは深く息を吐き出した。


 果たして、多くの魔物たちの声がこちらへと接近してくる。


「魔物たちはまだやってくる。わしにあやつら全てを食い止めることは出来ん」


 ラモーナはそう言うと、アルフレッドとアリシアの方を向いた。


「お前たちをここから脱出させる。よいな、天命が必ず道を切り開いてくれる。お前たちは希望。他の神光の戦士たちと力を結束するのだ」


「脱出って……ラモーナ様はどうするんですか」


 アルフレッドの言葉に、ラモーナは笑みを浮かべた。


「案ずるな。わしとてそう易々とやられはせん。……さあもう時間がないぞ。行くぞアルフレッド、アリシア」


「ラモーナ様!」


 すると、ラモーナは二人向かって手を突き出す。魔法陣から溢れる白い光が二人を包み込む。


 直後、アルフレッドとアリシアはイズの村から転移した。


 ラモーナは吐息すると、歩き出し、屋敷を出る。


「さあてと、少しばかりゴミ掃除をしてやるとするか」


 ラモーナの前に十数体の異形が降り立つ。


「人間よ、どうやら仲間を殺してくれたようだな」


「…………」


「だが、どう足掻こうと貴様に勝ち目はない。所詮は人間よな」


 魔物たちは邪悪な笑声を上げる。


 ラモーナはしゃっきっと背中を伸ばすと、笑みを浮かべた。


「安心せい邪悪なる者ども。わしの命くれてやる。だが、お前たちもここで死ぬのだ。誰一人グラッドストンの下へと帰ることは出来ぬ」


「何だと?」


 ラモーナは念を込める。その体から白いオーラが立ち上る。


 アルフレッド……アリシア……行くのだ……。そしてクリストファー、お前も必ず戻ってくるのだぞ……。


 直後、ラモーナの体から白い閃光が爆発する。聖なる光に焼き殺される魔物たちは悲鳴を上げる。そして。


 ラモーナは自爆した。命を懸けて魔物たちを全て道連れにしたのであった。

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