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第四話

 やがて、三人は街道の分かれ道に差し掛かる。古びた看板が立っている。


「向こうが証の祠、か……」


 アルフレッドらは看板が指し示す方角を見やる。道は森へと続いている。


「行くしかなさそうだな」


「ええ……」


 三人は森へと続く道をたどって進み始める。



「これは……」


 森の中へ入った彼らは、今までと明らかに異なる空気に息を飲んだ。森の中には光の粒が浮かんでいて、神聖な空気が満ちていた。


「神様のおわす場所だな。魔物も入ってこれなさそうだというのは本当らしい」


 アルフレッドは駒を進めながら森を見渡す。


 それからどれだけの時間が流れたことだろう。道なりに進んでいた三人は、とてつもなく巨大な大木に到達した。大木の上はどれほどの高さがあるのか、確認することも出来ない。そして、目の前に視線を移すと、大木の根の間に、人が通れるだけの石造りの空間が広がっている。アルフレッドらは馬を降りた。


 その巨大な石のアーチには細工が施されていて、「証の祠」、と刻まれていた。恐らくもう何年も放置されてきたのだろう。アーチはすっかり苔むしている。


「行こうか」


 三人は祠に足を踏み入れた。



 その中は魔法の光で照らされている。通路には彫刻の壁画が刻み込まれている。戦の記録のようだ。人と魔物が争っている様子が刻まれている。


「おい、何か聞こえないか?」


 クリストファーが言う。アリシアとアルフレッドも耳を澄ませる。


「確かに」


「何の音かしら……それとも声?」


 それはコーラスだった。祠の奥の、光が差す方角から聞こえてくる。


「行ってみよう」


 アルフレッドの後をクリストファーとアリシアが続く。


「気を付けろよ」


「ああ」


 やがて、三人は光の間に踏み込んだ。


 そこは広間で、奥にある巨大な祭壇の周囲がまばゆいばかりの光を放っていて、上方からも光が降り注いでいる。高鳴るコーラスは広間の空間を圧倒している。


「ここだな、婆さんが言っていたのは」


 すると、どこからともなく声が降ってきた。重厚な、それでいて柔らかい、女性の声だ。


「よくぞ来ましたね、選ばれし者たち、神光の戦士よ。待っていましたよ」


 三人ともびっくりして身震いした。その圧倒的な神霊力は若者たちに凄いプレッシャーを与えた。


「あなたは……光の神なのですか」


 アリシアが問うた。


「正確を期すならば、私たち、と補足するべきでしょうね。今、この声は一人の声ではありません。私たち神々の声なのです」


「それは分かりました」クリストファーが言った。「俺たちは村長からここへ来るように言われたんです」


「もちろんご存じですよね?」アルフレッドも問う。「十八年前のこと、俺たちはラモーナ様から聞かされているんです」


「アルフレッド、クリストファー、そしてアリシア。あなた方は紛れもなく神光の戦士。ザカリー・グラッドストンを打ち倒し、光を取り戻す天命を背負って生まれた者たち。ですが、あなた達だけでは闇の帝王を倒すことは出来ません。この世界には十二人の神光の戦士がいます。あなた達は彼らと出会い、共にグラッドストンに立ち向かう天命を背負っています。神光の戦士はそれぞれ運命を共にする魔剣を以て、十二本の魔剣による神霊封印によってグラッドストンを永遠に封じなければなりません。魔剣は神霊封印の触媒であると同時に、その持ち主を守護する役割を果たす存在。かつて魔剣を振るった英霊たちの意思と記憶が宿っています。魔剣があなた方を救う手助けとなるでしょう。そして、もう一つ、魔剣には束と束頭の二か所にパワーストーンという魔石を装着することが出来ます。それによって地水火風などの属性魔法や属性攻撃、回復魔法を行使することが可能になり、また、肉体を超人化させたり、念力やテレパシーなどの超能力のようなものが使えたり、特定の魔物に有効な魔石があれば、特殊な結界などを破壊する魔石などがあります。パワーストーンは世界中に散らばっています。旅の道中、手に入れることもあるでしょう。何れにしても、この困難な旅路を生き抜くために必要なものです」


 神々の声がそこまで言うと、


「さあ、これを受け取りなさい。その時が来たのです」


 そうして、光が更に濃くなり、コーラスは歓喜の旋律を震わせる。


 アルフレッドらが目を開けた時、上方から三本の魔剣がゆっくりと舞い降りてきた。


「アルフレッド、あなたはエクスカリバーを手に取りなさい」


 そうして、アルフレッドはエクスカリバーを手にした。


「これが……」


 エクスカリバーから流れ込んでくる神霊力に、アルフレッドの鼓動は速くなった。英霊のパワーは凄まじいものである。


「凄い……これが魔剣」


「エクスカリバーには炎の魔石と回復の魔石がセットされています。魔石は使い込むほどにレベルが上がっていきます。上級魔術は強力なものがありますからね。さて」


 次いで神の声はクリストファーを指名した。


「クリストファー、あなたの魔剣はデュランダル」


「……はい」


 クリストファーはデュランダルを手にした。


「デュランダルには風の魔石と回復の魔石がセットされています」


「さて、アリシア」


「はい」


「あなたにはミスティルテインを」


 そうして、アリシアはミスティルテインを手にした。


「ミスティルテインには水の魔石と回復の魔石をセットしておきました」


 三人の神光の戦士たちは、それぞれに魔剣を軽く振ってみる。重厚な外見と見まごうまるで重さを感じない。


「それでは、神光の若人たちよ、戦士たちよ、旅立つのです」


 アルフレッド、クリストファー、アリシアたちは、神々に一礼した。


 だが、果たして、その時である。


 突如として光が明滅し、空間が裂け、そこから闇が溢れ出てきた。


「何だ!?」


 アルフレッドらは魔剣を構える。


 神々も狼狽した声を上げる。


「馬鹿な!? なぜここに闇のパワーが……まさかグラッドストン!?」


 すると、光が陰っていき、広間に邪悪な声が響き渡る。


「ふっふっふ……神々よ、全て聞かせてもらったぞ。俺が光の神の血を引いていること忘れたか。これ程の神霊力を感知されないとでも? 神光の戦士たちか。面白い。たかだか人間が、この私に相対するなど。神紀大戦の再来で地上が消滅すると思ったか。愚かなり。だが、それも良い。せいぜい抗う姿を見せてもらおうか」


 広間が闇に覆われていく。そうして、闇の中から大きな黒い手が伸びてきて、アルフレッドらに襲い掛かってきた。


「ここはもう駄目だ! 逃げるぞ!」


 アルフレッドは叫んだが、手遅れだった。クリストファーが捕縛され、闇の中へ引きずり込まれようとしていく。


「クリストファー!」


「アルフレッド! アリシア! 俺はもういい! 逃げろ! 逃げ……るん…!」


 黒い手はクリストファーを闇の空間へ連れ去った。


「そんな!」


 神々の声が飛ぶ。


「アルフレッド! アリシア! 早く逃げなさい!」


 白い閃光が爆発して、闇を押し返す。


 二人は走り出した。背後から黒い手が追ってくる。だが強力な光の神霊力が黒い手を切り裂いた。


 アルフレッドとアリシアは全力で走った。振り返ることはなかった。


 祠から飛び出した二人は、騎乗する。


「イズの村へ急ごう。ラモーナ様に何があったか伝えないと」


「そうね……クリストファー……」


「行くぞアリシア!」


 二人は馬を走らせた。最悪の展開であった。ザカリー・グラッドストンは、全てを見ていたのだ。

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