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第三話

 劇的な公表から日付が変わり、アルフレッドは荷造りを終えようとしていた。軽鎧と鋼の剣を身に着けている。そうしてバックパックを手に部屋を出る。ダイニングでは両親が待っていた。家族と朝食の時間を共にしする。


 父のハロルドと母のルビーは息子を見守る。


「大丈夫かアルフレッド」


 ハロルドの言葉に、アルフレッドは戸惑っている。


「正直言って大丈夫じゃないよ。あっという間の出来事だったから。昨日から疾風怒濤の展開だったしね」


「そうだな」


「アルフレッド、私たちにはラモーナ様の神託を受け止めることしかできないけど、しっかりやるんだよ。あなた達にしか出来ないことなのだから」


 ルビーは言って息子を励ます。


「でも……もしみんなの期待を裏切ったら、失敗したら、俺たちのせいで何もかもおしまいなんだろう? 正直荷が重いよ」


「疲れたら帰ってこい。家の扉はいつでも開けておくからな」ハロルドはアルフレッドの肩を叩いた。「だが今はやるべきことに集中するんだ。これはお前たちの天命だ。誰も運命からは逃れられない。立ち向かうしかないんだよ。まあ、確かに父さんから言えることは少ないがな。だが誰もお前たちの代わりはできないんだよ」


「ああ……そうだね」


 そうして、アルフレッドは朝食を終えると、家を出た。


 証の祠までは北の街道を進んで馬で三日ほど行ったところにあるという。


 村の入り口にはクリストファーとアリシアも既に馬に乗って待っていた。装備は村人たちが用意してくれたのだ。二人とも武装している。村人達も総出でアルフレッドらを見送りに来ている。


「俺が最後か」


「アルフレッド、準備はいい?」


 アリシアの言葉に、アルフレッドは頷く。


「じゃあ行こう。証の祠へ。光の神様とやらに会いに行こうぜ」


 クリストファーは恐れる風もなく言ってのける。内心は胸の高鳴りを抑えきれないクリストファーであったが。


「よし、じゃあみんな、行ってきます」


 アルフレッドは村人たちに手を振り、馬を進める。


 イズの村人たちは、若者たちが無事に生還することを願って手を振り歓声で見送るのだった。



 村を出て昼過ぎ、雨が降ってきた。三人は雨宿りの場所を求めて街道から外れた木々の下へ避難した。


「初日から雨か。嫌な天気だな」


 クリストファーは言って空を見上げる。


「まあちょうどいい時間だ。昼ごはんにしようぜ」


 アルフレッドの言葉に、アリシアが「待ってました」と、荷物から小さなバスケットを取り出した。中にはサンドイッチが入っていた。


「作ってきたの。すぐ傷んじゃうから初日に食べようと思って」


「そいつは御馳走だ」


 アルフレッドらはサンドイッチを頬張ってこれからのことを話し合った。


「それにしても……」アリシアが言った。「証の祠へ行って、それをラモーナ様にお伝えして、何が変わるのかしら」


「俺たちは神光の戦士なんだろ。神様が何かしてくれるんじゃないか」


 アルフレッドの言葉にクリストファーは肩をすくめた。


「いっそ神様がグラッドストンを討伐してくれたらいいのにな。何で俺達なんだろう」


「そいつは、何か事情があるんじゃないか。神様が戦えないわけでもあるんだろうさ。じゃなきゃわざわざ神光の戦士を召喚する意味がないだろう」


「色々と、その辺りは聞いてみたいことがあるわね」


 サンドイッチを食べ終わる頃には雨も上がっていた。三人は街道に戻って出発する。



 街道に戻ってすぐ、それらはやってきた。魔物だ。小柄な漆黒の亜人ゴブリンが四体、咆哮しながら接近してくる。


「魔物よ!」


 アリシアは弓を構える。アルフレッドとクリストファーは剣を抜いた。


「ゴブリンか、後れを取るなよアルフレッド!」


 クリストファーは馬を突進させる。


「気を付けろよクリストファー!」


 アリシアは二人を援護射撃する。放たれた矢弾は正確にゴブリンの胸を撃ち抜く。


 アルフレッドとクリストファーは馬の突撃でゴブリンを蹂躙する。そして反転して馬上から剣を薙ぎ払う。ゴブリンは頭部を破壊され、この魔物は絶息して倒れる。残る二体は後退するが、甲高い声で仲間たちを呼び集める。すると、木陰や茂みなどに潜んでいたゴブリンらが何十体と姿を見せる。


「こいつはやばい……逃げろ!」


 アルフレッドは騎首を反転させる。


「クリストファー! アリシア! 逃げるぞ!」


 そうして、三人はゴブリンの追撃を振り切った。



 翌日、街道を進んでいた三人は、次いで亜人モンスターであるオークの索敵網に引っかかってしまう。巨大な魔狼に騎乗した亜人オークが一体、邪悪な声を発して突撃してくる。


 アルフレッドらは戦闘態勢をとる。


 この漆黒の亜人は邪悪な笑声を上げて加速する。アリシアは魔狼の頭部を狙って矢を放つ。その矢弾は魔狼の目を貫いた。その巨躯が叫び声を上げてひっくり返り、オークは地面に投げ出された。


 アルフレッドとクリストファーは馬を降りて突撃する。オークは起き上がると巨大な斧を振り下ろしてくる。二人はそれを左右に分かれて回避すると、アルフレッドはオークの頸部を、クリストファーはその胸部を剣で貫いた。オークは血を噴き出して邪悪な呪詛の声を残して絶命する。


 起き上がる魔狼の頭部をアリシアが放った矢が貫通する。怯んだ様子を見せる魔狼にアルフレッドとクリストファーは剣を突き出す。二本の剣が魔狼の眉間に吸い込まれる。この魔物は痙攣して、息絶えて倒れた。


 二人は吐息した。


「行こう。またこいつの仲間がいるかも知れない」


「そうだな」


 三人は合流すると、道を急いだ。

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