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第三十七話

 闇の軍勢が後退したとの報を受けた帝都ベルサリアーナでは、勝利の歓喜に沸き上がっていた。ハワードらと共に帝都へ帰還したアルフレッドらは、彼らと同行して皇帝ロドニーとの謁見を許された。


「ハワードか。ご苦労だったな」


 ロドニーは言った。ここ最近の急転で、立場は完全に変わってしまった。いまやロドニーは皇帝なのだ。


 ハワードは内心の揺らぎを抑えて応じた。


「は、陛下。それにつきましては、こちらの神光の戦士たちの功績が大であります。彼らがゴルツ=アレムを退け、ひいては闇の軍勢に後退につながる一連の勝利をもたらしました」


「ほう、そうか。そなたらが噂の神光の戦士たちか。その伝説はすでに広まっているぞ。三つの国を闇の手勢から解放したその偉業は」


「恐れ入ります」


 アルフレッドが膝をついたまま頭を下げる。


「そしてそなたらは我が国をも救ってくれた。これに報いるに、報奨金と勲章を授与したいと思が、どうか」


「それは……」アルフレッドは数瞬考えて口を開いた。「では、陛下のご厚意に感謝して、受けたいと存じます」


「うむ。報奨金と勲章をこれへ」


 ロドニーは近衛に言ってそれらを持ってこさせた。ロドニーは玉座から立ち上がると、自らの手で報奨金を下賜し、勲章を神光の戦士たちに授与した。


 その時、アルフレッドは口を開いた。


「陛下、お願いしたき義が御座います」


「何か」


「監獄に投獄された前王朝の人々にどうか寛大な処遇をお願い申し上げます。今となっては陛下に対して無力でありましょう。なにとぞ、寛大な処置を願うものであります」


 ロドニーはしばし口を閉ざしていたが、出てきた言葉は厳しいものだった。


「そなた、前王朝の者たちに寛容な意見を述べるのは意外だが、残念だがそれは叶わぬ。彼らは私が打倒した体制の象徴だ。公開裁判の後、それに相応しい処断を下すであろう」


「……そこまで仰るなら、もはや何も申し上げることはございません。お耳汚し失礼しました」


 そうして、彼らは謁見の間を後にする。


 そこでライオネルが言った。


「どうだみんな。これからまた新たな旅に出るのだろうが、俺の領地に戻ってくれんか。妻や子供たちの顔も見ておきたい。食事も出すよ」


「それは断れないな」


 アルフレッドは言った。


「そなた、結婚しておったのか」


 エスメラルダが意外そうに言った。


「何だそれ。心外だなあ。男爵と言っても叔父上の親族なんだ。それなりに有力な家門なんだぜ」


 エリオットとクラリスは肩をすくめて口許を緩めた。


「じゃあ、ライオネルの家でご相伴にあずかりましょう」


 アリシアが言って、エイブラハムも同意した。


「戦勝祝いだ。たまには役得も無いとな」


「それは神光の戦士としては聞き捨てならないわよ」


 アリシアが冗談めかして言う。


「それは手厳しいな」


「やだ、冗談だってば」


 そうして、アルフレッドらは、魔弾鉄道でライオネルの領地に向かった。



 駅に到着後は馬車でライオネルの城ライトキャニングにへ。


 豊かな田園風景が広がっている。


 程なくして、一行はライトキャニングに到着した。


「男爵の城にしては豪華だな」


 エリオットが言った。


「元々叔父上の別荘替わりみたいなもんだったんだ。それを俺が引き継いでね」


 ライオネルは答えて、中に入っていく。


 衛兵たちは敬礼する。


 侍従長の男性はライオネルの帰還を聞いて飛んできた。


「ライオネル様! イザベル様も大層心配しておいででした。閣下がしばらく留守にしている間にいろんなことがあり過ぎましたからな」


「それは知ってる。当事者だからな。こちらは神光の戦士たち。これから俺と旅に出る仲間だ。今夜は彼らと夕食を取りたい。料理長に伝えてくれ」


「かしこまりました」


 そこで、ライオネルの妻イザベルが幼子を抱いてやってきた。


「ライオネル。無事だったのね。良かった、どれほど心配したことか」


「イザベル、すまんな。ちょっと色々あり過ぎてな。俺も旅に出ないといけなくなった。まあとにかく中へ入ろう。みんなもどうぞ」


 それからライオネルは侍従長に客人をそれぞれ部屋に案内するように言って、「また夕食で会おう。積もる話もあるだろうしな」そう言って妻と子供と城内へ入っていった。


「お客人、どうぞこちらへ。お部屋へご案内しますので」


 アルフレッドらはそれぞれ部屋に案内される。


 それから彼らは夕食まで自由行動となった。



 アルフレッドとアリシアは城の中庭に出て、ベンチに腰掛ける。


「ずいぶん遠くまで来たな、俺達」


「ええ。考えられなかった。外の世界がこんなに凄いなんて」


「だけどまだ旅は続く。まだ折り返しだ」


「そうね……。まだ先は長いわ」


「もう俺達には故郷も無い。グラッドストンを倒すしか残された道はない。後のことはそれからだな」


「そうだね。私も今は何も考えられない。グラッドストンを倒すための使命感で生きているようなものだよね」


「俺もそうだな。他のみんなには帰る場所があるからな」


「勿論みんなだって使命感は持ってるよ。もう十分すぎるほど一緒に戦って来たもの」


「その通りだな。俺達だけじゃ何も出来なかったからな」


「何かドリンクでも貰いに行こうよ。気分転換にね、城の中探検してみよう」


「そいつは楽しそうだ。お化けに出会えたりしてな」


「それ笑えないんですけどー?」


 そうしてアルフレッドとアリシアは中庭を出た。



 エスメラルダはエイブラハムの部屋にいた。このエルフの女は、傭兵時代の彼についてあれやこれやと聞いていた。


「何だって傭兵にそんな興味があるんだ」


 エイブラハムは武勇伝を控えめに聞かせて言った。自身の栄光を鼻高々に話すのは他人から見て決して心地よいものではないと心得ていたこの元傭兵王は、なぜエスメラルダがそんな話を聞きたがるのか不思議ではあった。


「何、お前の歩んできた道のりに興味があってな」


「そういうお前さんはどうなんだ。何世紀も生きてきて何も話題が無いことはないだろう」


「そうだな。では吸血鬼との戦いについて話をしてやろうか」


「吸血鬼? そう言えば吸血鬼なんて滅多に見なくなったな。その戦いと関係があるのか」


「ああ、そうとも。事の始まりは……」



 エリオットとクラリスは、城の中を散策していた。


「見た目は古い城だけど、内装はリフォームしてあるのね」


 クラリスは天井の照明を見上げて言った。


「そうみたいだな」


 エリオットは立ち止まって壁のテレビを見やった。


 ここのところロドニー皇帝の改革案でテレビのニュースは持ちきりだった。今もその話題が取り上げられていた。


「この皇帝は本当にやる気かしらね。民主主義を取り入れるなんて」


「さてな。他国の内政に干渉する気はないがね」


「私たちの国は王政だけど、革命の機運なんてないじゃない?」


「それは父上の尽力の賜物だな。それに先祖代々の。だが俺たちは国が滅びるところを目の当たりにしたわけだ。作り上げるのには長い時間、時には血も流れるが、滅びる時には呆気ないものだな」


「歴史の生き証人になるって不思議な気分ね。それにしたって、ロドニーは抜け目のない人物だったわ」


「ま、そうだな。俺達にもいい経験になったよ」


 二人はまた歩き出した。



 そうして夕食時、ライオネルと妻のイザベル、神光の戦士たちがテーブルを囲んだ。


「今日は特別だ。みんな、料理を堪能してくれ」


 彼らにとっては久方ぶりの豪奢な食事であった。尤も、アルフレッドとアリシアは貴族の食卓を囲うことなど初めての体験だったが。スープを飲んでいる間に従者たちが肉を切り分けて、用意してくれる。


「そりゃあ、王宮でこんな食事を毎日していたら革命も起きるだろうな」


 アルフレッドは素朴な感想を述べた。


「実際、食事だけでもなく、酷い有様だったんだ」ライオネルは言った。「知っての通り、民衆への重税は増すばかりで、王はそれでも民を顧みようとはしなかった。アルフレッドは皇帝に嘆願したが、恐らく王族も宮廷貴族たちも、永久に監獄暮らしになるんじゃないかな」


「ギロチン行きではないのか」


「ギロチンだって? そんな野蛮な方法は使わないと思うよ。それに、さすがに死罪はないと思うけどな。ま、それよりも、俺も聞きたいことはあるんだ。みんなの記憶は見たが、ザカリー・グラッドストンのことをね。君たちはその部下たちと戦ってきただろう。エリオットの国では宮廷魔術師が、エイブラハムの国では政府の要人が闇の手勢と入れ替わっていた。どうしてそんなことが可能だったのか」


「そのやり方に関しては私達にも全く分かっていないの。いつの間に入れ替わったのか。結局死体も上がったとは聞いていないし。とっくに処分されたのか、あるいは単に憑依していたのか」


 クラリスが応じた。するとエイブラハムが口を開いた。


「俺の方も似たようなものだ。どうやったのか全く見当もつかん。デイモンなどは豊富な資金も持っていたから、もしかすると最初から今クラリスが言ったように本人に憑依でもしたのかも知れない。首相や補佐官は言わずもがなだが」


「成程ね……」ライオネルは思案顔だった。「ワドエルティナやゴルツ=アレムは上級クラスのようだな。闇の公爵夫人とも決着がつかなかったのだろう」


「そうだな」エリオットが頷く。


「あのフィオ=アリアとか言う七騎士が言ったことが気になるのよね」アリシアが言った。「お前たちは既に負けている、て。もう確信していたみたいでしょ」


「何が奴にそう言わせるのか、確かに気がかりではあるな」


 エスメラルダが応じる。


「ところで」ライオネルが問うた。「この国まではどうやって来たんだ? もしかして船があるのか」


「ああ」またエスメラルダが応じる。「我がエルフ族の船セシーナブレッド号がポートレダに停泊している。我々の帰りを待っているはずだ」


 その時だった。上方から光が降り注いできて、コーラスが鳴り響き始めた。光の神々である。


「神光の戦士たちよ、よくやりましたね。ゴルツ=アレムを相手によく耐えしのぎました。この国で起こったことは起こるべくして発生したのです。政権交代は誰にも止めることは出来なかったでしょう。ですが、そんな言葉を伝えるために来たわけではありません。あなた達に新たなパワーストーンを授ける時が来ました。この強力な神霊力をまとうことであなた達の戦闘能力は劇的に向上します。四天王や七騎士クラスを相手に立ち回れるようになるでしょう」


 一同驚愕する。


「そんなパワーストーンがあるなら最初から欲しかったですね」


 アルフレッドは言った。


「残念ながら、これはそんな簡単なものではないのです。まずは強力なパワーストーンが魔剣にあって、それが無ければ、このパワーストーンを装着することは出来ないのです。これから授けるパワーストーンはこれまでのパワーストーンと違って、あなた達の力を劇的に向上させるもの。簡単なものではなかったのです」


 そうして、神々は言った。


「さあ、それでは受け取りなさい。そのパワーストーンは『神気覚醒』。パッシブ効果のパワーストーンです。合成してみれば分かるでしょう」


 神気覚醒のパワーストーンが降ってきた。それは強い白い光を放っていた。アルフレッドらはそれを受け取ると、早速「神気覚醒」を合成した。


「なっ! これは……」


 合成した瞬間、一同は驚愕する。とてつもないパワーが溢れてくるのを感じる。白い光がしばらく彼らの体を包み、やがて定着した。


「とても信じられないな」ライオネルは言った。「パワーストーンを貰ったばかりなのに、もうこんな新しい力を使えるなんて」


「確かにこいつは凄い」元傭兵王のエイブラハムも驚愕する。


「さて」そうして神々は言った。「次に向かうべきは世界地図の南東部、ここから南のフォルティクス大陸です。オラトリエクス神聖国で次なる天命が待ち受けているでしょう。気を付けて挑むのです。深い闇を感じることが出来ます。では、行くのです。子らよ」


 そうして、光とコーラスは消え去り、神々は去った。


「…………」


 一同しばし無言であった。だが、沸き上がるパワーを確実に彼らは感じていた。


「行先は決まったな。何とか神聖国だったな」


 アルフレッドは言った。


「オラトリエクス神聖国よ。神権政治が行われている少し変わった国よ」


 クラリスが補足する。


「行ったことがあるのか?」


「いいえ。法王を頂点に大神官他、下級神官に至るまでピラミッド型の支配層が民を導いているとか何とか。教科書知識だけど」


「神権政治か……俺達からしたら馬鹿げてるな。だって実際に神々と交信してるんだから」


「それ、向こうでは慎重に立ち回らないと。最初は正体を隠した方がいいかも。異教徒呼ばわりされたら動きにくくなるでしょ」


 アリシアが言った。


「なるほどね。それは面倒そうだ」


「そうと決まれば出立の準備だな」ライオネルは言った。「イザベル、そういうわけなんだ。今までの話を聞いていて分かったろう? 神々の声を聞いたろう。俺は旅に出ないといけないんだ」


「ええ……分かったわ。エヴァンが寂しがるでしょうけど、ちゃんと話しておく」


「家のことは頼んだよ。俺が帰るまで」


 そうして、その日はカレードシアン王国で最後の夕食を終えて、翌朝、神光の戦士たちはポートレダへと発つのだった。

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