第三十六話
翌日のメディアはロドニー公爵の宣言で持ちきりだった。そして、どのメディアもロドニー公爵が皇帝になることを支持した。民の間でもロドニー公爵の支持が高まり、新帝国の成立は時間の問題と思われた。ロドニーは麾下のロドニー派の貴族たちからなる大部隊を率いて王都ベルサリアーナへ進軍した。国王直属部隊が立ちはだかったが、ロドニーから説得されて彼らも現王に反対することになる。もはやロドニーを阻むものはなく、彼は無血開城でベルサリアーナへ入った。
民衆たちの大歓呼がロドニーを出迎える。ロドニーが手を上げると、民衆は快哉を以て応じ、「新帝国万歳!」と合唱した。
そうして、ロドニーは民衆によって包囲された宮廷に入り、国王モーリスと王妃カーラを捉えたのを始めに、王族と宮廷人を全て捕縛した。彼らは監獄に幽閉された。
「ロドニー、その野望が自らを滅ぼすぞ」
モーリスの捨て台詞を、ロドニーは涼し気に受け流した。
「敗北した者は惨めですな。滅びるのはあなたの方ですよ。全国が私の味方に付いたのです。あなた方が滅びるのは歴史の必然」
そうして、ロドニーはメディアも入れて、荘厳な戴冠式を執り行った。
ロドニーはまず民衆への増税を停止した。それだけではなく、国庫を開いて一時金を民衆に配布した。これによって民の生活水準は劇的に回復した。それだけではなく、ロドニーは言論の自由を保証し、有識者に憲法の制定と議会の開設について議論をさせ、近くその二つを復活させると告知した。
これについても識者たちから歓迎の声が上がり、ロドニーは新しい帝国の枠組みを作ろうとしていると評価した。
こうして民衆は有言実行のロドニー皇帝に期待を寄せ、彼は民の信頼を勝ち取ることに成功したのであった。
ハワード公爵は記者会見を開き、ロドニー皇帝が魔物と通じていることを暴露した。自身が皇帝になる間に対立するハワード派の貴族に手出しが出来ないようにさせるためにゴルツ=アレムと通じて南部を魔物に攻撃させたのだと。
これについては少しのロドニー批判を生んだが、大多数のロドニー支持にかき消された。ロドニーも声明を出した。
「余が魔物を利用したことは認める。だが、それは確実に帝国を築くためにゴルツ=アレムを利用したのだ。余は強力な帝国を作り上げるためにハワード派の反抗を封じ込める必要があった。今更になってことを振り返っても意味はない。それどころか、余は改めてゴルツ=アレムに宣戦布告するものである。そして、ハワード公爵に魔物の撃退を命じる。幸いなことに神光の戦士たちが彼らの下におり、ゴルツ=アレムを討伐する千載一遇の好機でもある。重ねて命じる。のちに正式な文書を送るが、ハワード公爵はゴルツ=アレム討伐の任に当たるべし」
ハワードの起死回生はならず、それどころか帝国の成立はもはや既成事実であり、逆に勅命を受ける身となってしまったのだ。世論の支持もますます新帝国において高まり、ハワード公爵が魔物討伐の任に当たることを支持するとの声が大多数を占めた。
それから数日後に、ハワードのもとに皇帝からの勅命が記された文書が届いた。
それを見たニールは「完全に我々の敗北であったな」と呟いた。ニールは家族とともにハワードの元へ身を寄せていた。王都にいたら投獄されていたであろう。
「もはや世論もロドニーを支持しています。もはや皇帝に反逆する機会は失われたと言っても過言ではありますまい」
ハワードは吐息した。
その場に居合わせる有力貴族たちからも、諦めの声が出ていた。
「もはや仕方あるまい。勅命が下った以上、我々は南部戦線において闇の軍勢を撃退してゴルツ=アレムを討伐しなくては」
「やむを得んか。ロドニーは民衆の支持も取り付けている。そして皇帝になるや我々に魔物の討伐を命じるとは、実に抜け目のないやり方だ」
「新しい皇帝を支持せざるを得んようだ。この期に及んで皇帝と対立すれば我々が反逆者として処断される」
「しかし……うまく事を運んだな。何という狡猾な」
「だからこそ皇帝になり得たのだ。清濁併せ吞むというではないか」
かくして、勅命を受けたハワード派の貴族たちは魔物の討伐に向かうことになるのであった。
アルフレッドらはライオネルから出兵の知らせを受けて、支度にとりかかった。
「ゴルツ=アレムか。闇の四天王とか言っていたな。七騎士と言い、強力な敵というのは後を絶たないな」
アルフレッドは言った。
「ゴルツ=アレムとは互角だったわね。先のワドエルティナと言い、敵もレベルアップしてる」
アリシアの言葉にエリオットが応じる。
「全くだ。ゴルツ=アレムもスキル攻撃は凄い威力だったからな」
「魔法を受けてもまだまだ余裕な感じだったわ。どれだけタフなんだって」
クラリスが言うと、エスメラルダが言った。
「私は魔法に専念した方が良さそうだな。クラリスとともに魔法でのダメージの方が大きいからな」
「俺たちの狙いはゴルツ=アレムだが、それは向こうとて同じ。神光の戦士たちである俺たちを狙ってくるだろうが……」
エイブラハムの言葉にライオネルが応じる。
「魔剣の力はよく分かった。ともあれ、ゴルツ=アレムを倒すのは苦労しそうだ」
そうして、勅命を受けたハワードらは、敵の拠点である南部戦線に兵を送りこみむのだった。
闇の軍勢陣中にて。
「どうやらあのロドニーという奴は、順当に皇帝になったようだな。フィオ=アリア、お前の当てが外れたんじゃないのか。帝国の臣民はロドニーを大きく支持している。内戦が起こる気配もない」
「まあ、常に我々にとって有利に事が運ぶとも限るまい。あ奴はうまく立ち回ったというところか」
フィオ=アリアはゴルツ=アレムに答えて見せた。
またゴルツ=アレムは言った。
「それどころか、俺に宣戦布告して軍隊を送ってきたぞ。神光の戦士たちもやってくる。先の戦では奴らの力の一端を見たが、中々のパワーだ。あんな人間がいるとはな。人間のレベルを超越している」
「それが魔剣使いということだ」
「ちっ、気にいらんな。神々が手を貸しているとはいえ、あれほどのパワーを持っていたとはな。奴らは何か不思議な力を身にまとっている。俺の蛮刀攻撃をまともに受けて立ち上がってくるとはな」
「恐らく神通力のシールドか何かだろう。確かに厄介だが」
「まあいい、今度は決着をつけてやる。最初に神光の戦士を殺した者として、名を上げてやる」
ゴルツ=アレムが言うのに、フィオ=アリアは口許を緩める。
「まあ、油断は禁物だ」
そこへ、上級オークがハワード軍が南部戦線に軍を展開してきたとの知らせが入る。
「来たか。行くぞフィオ=アリア」
「ああ。尤も、私はしばらくは高みの見物をさせてもらうぞ」
「好きにしろ」
そうして、ゴルツ=アレムとフィオ=アリアは最前線に向かう。
ハワード軍と闇の軍勢は南部戦線において対峙する。まずハワード軍は投石機での攻撃を開始する。巨大な石が魔物の軍勢に降り注ぐ。直撃を受けた魔物は巨人であろうとぺしゃんこになる。
魔物の軍勢はそれでもダメージに怯むことなく前進してくる。
ハワード軍は弓での攻撃に切り替える。降り注ぐ無数の矢弾が魔物たちを打ち倒していく。
そうしていよいよ両軍は接近戦に突入する。
アルフレッドらは最前線に出て、魔法で魔軍の戦列を薙ぎ払う。彼らは突撃し、魔物たちを次々と魔剣で葬り去っていく。
そうして、そこへ蛮刀を手にしたゴルツ=アレムが姿を見せる。フィオ=アリアはその上方からアルフレッドらを見下ろしている。
「出たなゴルツ=アレム。今度はお前を倒す」
アルフレッドはエクスカリバーを構えて言った。
するとこの巨人戦士は笑声を上げた。
「倒すだと? ガキが調子に乗るなよ。少しばかりいい戦をしたからと言って、この俺様とまともに戦えると思うなよ」
「それはこっちもだ」ライオネルであった。「これ以上この国を魔物の好き勝手にはさせん」
すでにこの時、クラリスとエスメラルダは多重詠唱に入り、味方にバフ効果をかけている。そうして深紅の覚醒でさらに能力アップ。
「行くぞ!」
アルフレッドは神霊斬をまとわせた切滅八連で八連クリティカルヒットでゴルツ=アレムの装甲を貫通する。
続いてアリシアが豪壮氷帝と烈風迅雷の合体スキルでゴルツ=アレムの最大生命力を削るとともにこの闇の四天王を斬りまくった。
エリオットは神聖魔術、「邪悪を滅せし、聖なる天雷を」として巨大な雷を叩き込む。
ライオネルは剣技・破断連撃刃、ゴルツ=アレムの装甲を貫く連撃を連弾で打ち込んだ。
さらにエイブラハムの剣技・豪速天武。ゴルツ=アレムは凄まじい勢いで切り裂きに切り裂かれた。
クラリスとエスメラルダは合体魔法。魔力・極千パーセント。「深紅の雷」凄絶な雷撃に炎の渦が巻き付き、この巨人戦士を焼き尽くす。
ゴルツ=アレムは不死身の如くこれらの攻撃を受けても揺るぎもしなかった。
「まだまだ。こんなものでは効かんな」
するとゴルツ=アレムは瞬時に八人に分身し、それぞれの分身が神光の戦士たちを蛮刀で打ちのめした。すぐに分身は消えた。
アルフレッドらは地面に打ち付けられた。かなりのダメージが入っている。
「さらにこれで死んでもらおう」
ゴルツ=アレムは闇の魔法陣を描くと、そこから闇のパワーを引き出し、蛮刀にまとわせた。
「暗黒刀、炸裂せよ衝撃」
闇の巨大な刃がアルフレッドらに襲い掛かる。直撃を受けたアルフレッドらは闇の爆発を受けて吹っ飛んだ。
「何て奴だ」
エリオットはすぐさま全体回復魔法をかける。
アルフレッドらは立ち上がる。
ゴルツ=アレムは驚いたようであった。
「人間が、どこまでしぶとい」
「まだまだ終わらんよ」
エイブラハムは言って突撃した。剣技・無双連撃に炸裂氷牙を乗せて、切り裂いた後に凍結の追加ダメージが入る。
アリシアも突進、風陣連弾に乗せて豪壮氷帝、またしてもゴルツ=アレムの最大生命力を削り取る。
アルフレッドは剣技・無刃に神霊斬と炎の魔法を乗せる。神霊斬の大ダメージと炎の追加ダメージが入る。
ライオネルは剣技・烈風雷鳴斬で加速してアクロバットにゴルツ=アレムを切り裂いていく。
そしてクラリスとエスメラルダは再び多重詠唱からの合体魔法。
「破陣、烈断、出でよ光の竜神」
光の魔法陣から召喚された竜神がゴルツ=アレムをくわえると、ばきばきと噛み砕いた。
ゴルツ=アレムの巨体が大地に転がる。この巨人戦士は、それでも立ち上がると、不敵な笑みを浮かべる。
「成程な。ワドエルティナとの勝負がつかないわけだ」
そう言うと、ゴルツ=アレムは回復ポーションを飲んだ。
神光の戦士たちは再び攻勢に出る。怒涛のスキル連打。そしてクラリスとエスメラルダの合体魔法。
対するゴルツ=アレムは蛮刀を武器に危険なスキルを放ってくる。アルフレッドらは打ちのめされるもエリオットの回復魔法やポーションを飲んで立ち上がる。
「剣技・聖天衝撃」アルフレッド。
「剣技・魔天狼」アリシア。
「剣技・豪速天武」エイブラハム。
「剣技・魔弾爆裂衝」ライオネル。
「合体魔法、氷と炎の乱舞、魔陣」クラリスとエスメラルダ。
「神聖魔法、光の波動砲」エリオット。
激しい攻撃がゴルツ=アレムをよろめかせるも、この巨人戦士はすぐに態勢を整える。
「破滅の吐息」
ゴルツ=アレムは口から焼け付くブレスを吐き出した。
アルフレッドらは生命力をぎりぎりまで削られた。すぐさまそれぞれに回復する。
神光の戦士たちとゴルツ=アレムの戦いはそれからしばらく続く。互いにスキルを打ち合い、大ダメージを受けては回復し、その様相は千日手を思わせた。
そこで、闇の七騎士フィオ=アリアが舞い降りてくる。
「どうだゴルツ=アレム、そろそろ潮時ではないか」
「何?」
「どうやら勝敗はつきそうにないからな。いったん兵を後退させては」
「撤退しろというのか。こいつらさえ倒せばこの国を滅ぼすのは造作もないことだぞ」
「どうかな。それに、人間たちを根絶やしにせよとはザカリー卿は言っておられぬ。滅ぼすのではなく、服従、従属させることが目的だ。そのための手段としての軍事力だぞ」
「随分ハト派的な意見だな。その言葉、ザカリー卿からじかに聞きたい」
「ではそうするがいい」
「ちっ、気にいらんな。俺はまだ戦える」
「大将がいつまでも手こずっている間に、戦況は膠着状態だ。これ以上無駄に兵力を消耗させることもあるまい」
「いちいちお前の言うことはもっともだ。全く」
「誉め言葉か」
「皮肉を言ってるんだ。仕方あるまい。兵を引き上げるとしよう」
そうして、ゴルツ=アレムはアルフレッドらに言った。
「命拾いしたな貴様ら。俺一人なら戦うところだが、俺も一軍を預かる身。兵を引き上げることにする」
「そうか」アルフレッドらは魔剣を構えたままゴルツ=アレムの動きを待った。
ゴルツ=アレムは天に向かって咆哮し、撤退の号令を出した。
やがて魔物たちは一斉に後退し始める。
ハワード公爵はそれを見て取って、全軍に待機命令を出した。
ゴルツ=アレムも神光の戦士たちに背を向けて戦場から離脱していく。
フィオ=アリアは最後にアルフレッドらに言った。
「神光の戦士たちよ、一つ教えておいてやろう。お前たちがどう足掻こうと勝敗は決している。お前たちはザカリー卿に勝てん。全ては無駄なことだ。お前たちは既に負けているのだ」
フィオ=アリアは言って、闇の魔法陣の中へと姿を消した。
戦場に静寂が訪れた。
ハワード公爵は魔物たちが撤退したことを受けて見渡す。斥候に出した兵から魔物たちが完全に消えたと報告が入ると、兵士達から歓呼の声が上がる。
「叔父上、ご無事でしたか」
ライオネルがやって来る。
「ライオネルか。ゴルツ=アレムはどうなった」
「それが……」
ライオネルはアルフレッドらに視線を移しながら、あの闇の四天王との戦いについて語った。
「そうか、あの化け物を討つことは出来なかったか。やむを得まい。神光の戦士たちに倒せなかった魔物を我々が倒せるとも思えんからな」
そうしてハワード公爵はアルフレッドらに言った。
「卿ら、よくやってくれた。この勝利はそなたらのおかげだ」
「恐縮ですが……今回はフィオ=アリアの言葉を受け入れたゴルツ=アレムが撤退したまで。魔物の脅威が去ったとは言い切れません」
アルフレッドは注意を喚起した。
「そうだな。だが、当面の危機は去ったと言えるのではないか」
「であればよいのですが」
神光の戦士たちには戦況以外にも気がかりがあった。フィオ=アリアが言い残した台詞だ。「お前たちは既に負けている」あれはどういうことなのか。
ハワードは全軍に帰還命令を出す。彼自身と、彼の派閥であった上級貴族たちは帝都に戻り、ロドニー皇帝に戦況報告をせねばならなかった。
とにかくも、グルトレミア大陸での戦いは一応の幕引きとなったのである。




