第三十五話
ロドニー公爵がテレビに現れ、王国中の人々がその様子を見守った。そしてロドニー公爵は語り出した。
「私はロドニー公爵。新しい世界を作り上げる者だ。民よ、国王モーリスの圧政の苦しみに耐える時は終わった。ここに宣言しよう。世界は生まれ変わるべきだということを。私ロドニー公爵は、現王朝の滅亡をここに宣言する。病み疲れたこの王国は、滅亡すべきなのだ。衰退した現王朝にグルトレミア大陸を統治する資格はない。今、歴史は塗り替えられようとしている。私ことロドニー公爵は、王朝を解体し、新生カレードシアン帝国の成立を宣言するものである。これより私は帝都ベルサリアーナへ赴き、現王モーリスを退位させ、正式に戴冠の儀を行ない、新たなる帝国の成立を宣言することになるだろう。民よ、ここに約束しよう。私は現王朝に寄生する諸悪の根源を一掃し、改革路線にかじを取り、世を改めることを。民よ、約束しよう。新たな帝国において、この苦しみの呪縛から諸君を開放すると。そして帝都ベルサリアーナの民よ、国王を監視して、宮廷から逃げようものなら問答無用で王を捉えて欲しい。諸君らの正義は私が保証する。聞いているかモーリスよ。今から大軍を以てベルサリアーナへ行く。お前に逃げ場はない。王国の最後と共にその命運は尽きるのだ。以上、これが私からの言葉だ」
そうして、テレビは中継から解説に移った。アナウンサーが解説者と今のロドニーの言葉について話し始めた。
ハワードはテレビを消した。
「大変なことになった。派閥の幹部と連絡を取らねば」
そこでハワードはグループチャットで幹部らと連絡を取り合った。
「殿下、この部屋に会議室がありましたね」
「ああ、好きに使ってくれて構わんぞ。事態が事態だ」
「殿下もご一緒されてはいかがですか」
「そうだな」
「すみません、俺たちも同席させてもらえませんか」
アルフレッドが言った。
「なぜだ」ハワード公爵は返した。
「この一件に闇の手勢が関わっているかも知れないからです。状況を把握しておきたいのです」
「何だと?」
「恐れながら閣下」エリオットが言った。「アルフレッドの申すことは無視できません。これまでにも度々闇の勢力は我々の陣中をかき回し、陰謀を巡らせてきました」
「ふむ……よかろう。来たまえ」
そうして、アルフレッドらはハワードとらとともに会議室に移動する。
会議室には円卓が配置されていて、コンソールが備え付けられていた。ハワードが装置を起動すると、円卓の他の席にホログラムの人物たちが次々と現れた。ハワード派の貴族たちである。
「諸君、先ほどの演説は見たと思う。殿下の停戦協定もうやむやになってしまった。最悪のタイミングだ」
ハワードの言葉に、貴族たちは口々に反発する意見を述べた。
「いかに王が暗愚であろうと、このようなクーデターを見過ごすわけにはいかん」
「然り。すぐ様兵を王都に向けねば」
「ロドニーめ、正気の沙汰ではない。自ら皇帝になろうなどと」
「そのような野望を抱いていたとはな。我々が鉄槌を下さねばなるまい」
貴族たちのやり取りを聞いていた神光の戦士たち。アルフレッドはエイブラハムに言った。
「どう思う?」
「さてな。確証はないが、もし闇の手勢がうごめいているとしたら、ロドニーの背後に何者か……」
「それはあり得るな」エリオットが応じた。「内戦状態を突いて攻め込んでくるかも知れない」
そうして、アルフレッドらはハワードたちがロドニーの暴挙を阻止することで一致して、兵を動かすことを決定したことを確認する。
そこでライオネルがアルフレッドらに言った。
「すまないが、俺は神光の戦士だが、叔父上の苦境に見てみぬふりは出来ない。ともに行かせてくれ」
「まあ仕方ないことだな。男爵の立場なら、今はそう選択するしかあるまい」
エスメラルダが言った。
「すまないな」
「なら私たちも同行するわ」
アリシアの言葉にクラリスも応じる。
「そうなるわよね。神光の戦士として、一人だけ行かせるわけにはいかないもの。でも、私たちは戦闘には参加しないわよ」
「ああ、それはそうだろうな」
「気を付けろよライオネル」アルフレッドが言った。「神光の戦士の力はこんな戦いで使うべきものじゃないんだ。正直俺としては後方で待機してもらいたい。戦場には出るな」
「……そうだな。分かるよ。ダーインスレイヴのパワーはとんでもない。ただ叔父上が行かれるからには俺も無視出来ない」
「とにかく、自重してくれ」
「分かった」
そうして、ハワードらが出兵で一致すると、会議も終わろうかという時だった。士官が駆け込んできた。
「ハワード公爵閣下! 緊急事態です。南の防衛線に魔物たちの大軍が攻勢に転じてきました。守備隊でどうにか防いでおりますが、各地で後退を余儀なくされております。至急本国へお戻り下さい」
すると、他のホログラムの貴族たちもこの緊急事態の知らせを次々と受けていた。
「一体どうなっているんだ。またこのタイミングで本国を狙ってくるとは」
ハワード公爵は罵った。貴族たちも動揺を隠せない。
「公爵、これではロドニーに構っている場合ではありませんぞ。まずは魔物たちを退けませんと」
「そうだな。みな南部戦線に戻ってくれ」
これが偶然とは考えられない。アルフレッドはライオネルに言った。
「どうやら、これは闇の手勢が関わっているのは間違いないぞ」
「確かか?」
「ああ間違いない。俺たちも行こう」
そうして、アルフレッドらは、公爵らに同行して王国南部へと向かうことになる。
南部戦線に続々と魔弾鉄道でやってきたハワード軍の軍勢が到着する。
「閣下!」
軍団長がハワードを出迎える。
「状況は?」
「良いとは言えませんな。どうにか攻勢を支えておりますが、敵中にゴルツ=アレムを確認しております」
「それなら俺たちの出番だな」
アルフレッドは言って、仲間たちを見やる。彼らは頷き、戦場に出ることを告げる。
「神光の戦士の助成が得られるとは心強い」
ハワード公爵が言った。
「俺も同行しよう。ゴルツ=アレムをこの手で討てるものなら討ちたい」
ライオネルは言って、アルフレッドらと行動を共にする。
戦場に現れたゴルツ=アレムは些か不機嫌ではあった。フィオ=アリアの回りくどい策略はこの巨人将軍の性格には合わなかった。人間のために陽動作戦を展開するとは。
だがそれも状況は一変する。神光の戦士が戦場に現れたとの報告が入り、ゴルツ=アレムは血がたぎるのを感じた。
傍にいたフィオ=アリアが笑みを零した。
「おや、面白くなってきたな」
「神光の戦士たちよ! 俺様はここだ。恐れ知らずの者なら俺の前に姿を見せろ」
ゴルツ=アレムは雄たけびを上げた。
そうして、アルフレッドらは戦場を駆け抜け、ゴルツ=アレムの前に立った。
「お前がゴルツ=アレムか。しかし、奇妙な真似をする。何を考えてる? ロドニーを皇帝にして、お前たちは何がしたいんだ」
問うたのはエイブラハムだった。
「俺に聞くな。そいつに聞け。七騎士のフィオ=アリアだ」
「何? 七騎士? 闇の七騎士か」
「だからそう言ってるだろうが」
「エイブラハム、よせ。奴らに耳を貸すな。こいつらを倒すことに集中だ」
アルフレッドが声をかける。
「こいつらを倒す? 随分大きく出たな」ゴルツ=アレムは言って笑った。「来い、神光の戦士。俺は闇の四天王。見せてみろその力を」
そうして戦いは幕を開けた。
最初に仕掛けたのはゴルツ=アレムであった。猛加速し、蛮刀で神光の戦士たちを薙ぎ払った。彼らは吹っ飛んだ。アルフレッドらは立ち上がる。
例によってクラリスがバフをかけ、全員深紅の覚醒を使用して能力を上昇させる。
ゴルツ=アレムの高速の一撃を全員回避する。蛮刀が大地を割る。
アルフレッドが反撃に出る。剣技・神霊斬を魔剣にまとわせ、剣技・無刃で加速する。アクロバットな動きでゴルツ=アレムを切り裂く。神霊斬によってその威力は破壊的に上昇している。
アリシアは烈風迅雷を使った。爆発的な加速でゴルツ=アレムに迫ると、これまたアクロバットにゴルツ=アレムを切り裂いた。
エリオットは突進すると剣技・神気剛烈断を叩き込んだ。神霊力の重厚な一撃だ。魔剣はゴルツ=アレムの装甲を貫通してその強靭な肉体に斬り込んだ。
エイブラハムは剣技・豪速天武を繰り出す。爆速加速すると連撃を繰り出してゴルツ=アレムの装甲を切り裂いた。
ライオネルは剣技・烈風雷鳴斬で加速。こちらもアクロバットな動きでゴルツ=アレムの装甲を貫通して切った。
クラリスとエスメラルダは合体魔法。魔力・極千パーセント。
「氷よ凍結せよ、炎よ焼き払え」
ゴルツ=アレムの足下が氷で凍結して動きを封じ、炎がその巨体を焼き尽くした。
フィオ=アリアはゴルツ=アレムの凍結した足元の氷を魔法で融解する。
「見るがいい我が奥義の一端を」
ゴルツ=アレムは蛮刀を構え超速加速した。目にも止まらぬ速さで、アルフレッドらは切られた。しかも全員大ダメージを受ける。
「何だとっ」
アルフレッドは罵った。
ダメージはエリオットが全体回復する。
「この程度なのか。ワドエルティナとやった時はこんなものじゃなかったろ」
「余裕だな」アルフレッドは言った。「アリシア、合体剣技だ」
「了解したわ」
「行くぞ」
アルフレッドとアリシアは同時に加速し、それぞれ魔剣に炎と氷をまとわせ、そしてまた同時に剣技・無刃と剣技・烈風迅雷を叩き込んだ。炎が炸裂し、氷が爆切し、無刃と烈風迅雷の一撃一撃に凄まじいダメージが入った。
エイブラハムは剣技・爆裂炎牙と剣技・無双連撃をミックスし、無双の炎の連撃を繰り出す。炎が爆発してゴルツ=アレムに追加ダメージを与えていく。
ライオネルは魔剣に雷をまとわせると、魔弾爆裂衝で雷の衝撃波を放つ。これも凄まじい衝撃波で、ゴルツ=アレムの装甲を貫いた。
エスメラルダとクラリスはここで多重詠唱。合体魔法を行使する。
「土と風の旋風、疾風の土煙」
舞い上がった土が暴風で凶悪な刃と化し、風の刃と共にゴルツ=アレムを襲う。土と風の刃はこの巨人戦士を凄絶に斬り裂いた。
「中々やるが、俺を打ち倒すには至らんな」
「だが、割と削られたんじゃないか」フィオ=アリアは言って、笑みを浮かべていた。「手を貸してやろうか」
「冗談じゃない。だが、お楽しみは今少しお預けだな。陽動としては十分だろう」
ゴルツ=アレムはアルフレッドらに言った。
「よいか人間ども。この戦は陽動だ。俺は乗り気じゃなかったが、こっちのフィオ=アリアがロドニー公爵にこの話を持ち掛けた。ハワードを南部に引き付けておくためにな。ロドニーは皇帝になるだろう。誰にも止められん。だがこれでハワード派がおとなしく引き下がるとも思えん。この国はこれから内戦に突入するだろう。それが真相だ。さてどうする人間たちよ。反旗を翻してロドニーに対するか、それとも我々を相手にするか。そちらの出方次第で我々の出方も変わる」
「何だと……貴様」
ライオネルは怒り心頭であった。
「まあせいぜい思い悩むことだな。我々はいったん引き上げてやる。思った以上に面白くなりそうだ」
ゴルツ=アレムはそうして笑声を発すると、全軍に撤退の合図を出した。ゴルツ=アレムもフィオ=アリアも、その他魔物たちも、闇の魔法陣を描いてその中へ消えていった。
「……何てことだ。ロドニーは魔物と通じていた」
ライオネルは言って、すぐにハワードに真相を伝えに行った。アルフレッドらもそれを追った。
ハワードは驚愕する。
「では、ロドニーは最初から我々の動きを封じるためにゴルツ=アレムと手を結んでいたというのか」
「いかがしますか叔父上」
「即断は出来ん。我々もいったん本国へ帰還するとしよう。ロドニーを糾弾するにしても、世論がどうなるか見極めねば」
「はい……」
そこでライオネルは言った。
「みんな、すまないがこの件が一段落するまで俺は叔父上から離れるわけにはいかない。今しばらく付き合ってくれないか。ゴルツ=アレムの件もある」
アルフレッドらはそれに同意した。
「俺達もゴルツ=アレムとフィオ=アリアとの対決を放っておくわけにはいかない。付き合うよ」
「ありがとう、感謝する」
そうして、ハワード公爵は、軍をいったん引き上げることにする。アルフレッドたちも、この成り行きがどうなるか見届けるつもりであった。




