第三十四話
ミルエルシフに魔弾鉄道が入った。アルフレッドらは構内の大型パネルにニールが映っているのを見つけて立ち止まる。映像はニールがここへ到着した時のものであり、アナウンサーが状況を説明していた。
この件に関して、国内では早くも意見が分かれていた。魔物との休戦協定などあり得ないという者、戦争が終わるならそれもやむ無しという意見である。二大公爵のロドニーとハワードはノーコメントとし、二人からの正式な発表はなかった。しかし、国王モーリスは声明を出し、闇の軍勢との休戦協定はあり得ないとの立場をとった。
そこで画面にニールが現れる。ライブではない。ニールのコメントの一部を抜粋したものだ。
「もはやこの国の限界はそこまで来ている。戦争を止め、改革を断行し、元老院を復活させて選挙を行うべきだ。それには今の国王では不可能に近い。近日中に私は改革を断行するための具体的な行動に踏み切るつもりだ」
ニールは今都内のホテル、リュッテンスターに入っており、緩衝地帯へ向けての出発準備をしているところだろうと報じられた。
「ホテルリュッテンスターか、急ごう」
アルフレッドは言って、仲間たちと構内から出ると、馬車を調達する。彼らはリュッテンスターに急ぐ。
ホテルに到着した一同は、フロントに身分を明かし、ニールが最上階にいることを確認すると、エレベーターで最上階へ上がった。
到着してフロアに出ると、衛兵にニールとの面会を申し込んだが、止められる。
「俺たちは神光の戦士たちだ。ニール殿下に至急取り次いでもらいたい」
アルフレッドは言った。
「神光の戦士……? まさかあの?」
「そうだ」
アルフレッドは白いオーラを放つエクスカリバーを抜いて見せる。
「わ、分かりました。どうぞこちらへ」
衛兵は彼らをニールの下へ案内した。
王弟は奥の部屋でコーヒーを飲んで資料に目を通していたが、アルフレッドらを見て、「誰だ? 面会はキャンセルしろと言っただろう」そう衛兵をしかりつける。
「申し訳ありません殿下、こちらの方々が……」
衛兵がニールに耳元で囁く。
「何? 神光の戦士たち?」
ニールはアルフレッドらを見やり、資料を置いた。
「君たちが噂の神光の戦士たちか。これまた若いな。エルフを除いては」
「王弟殿下。申し上げたき義が御座います。どうかお話しする時間を割いては頂けないでしょうか」
アルフレッドは言った。
「ふむ……」ニールは数瞬考えて、「いいだろう。まあ掛けたまえ」そう言って、従卒にコーヒーを六人分持ってこさせる。
「それで、用件は何かね。何と言っても神光の戦士たちだ。貴重なアドバイスを期待してもいいのだろうね」
ニールは品定めするようにアルフレッドらを見やる。
「殿下」最初に口を開いたのはアリシアだった。「闇の軍勢との休戦協定などまやかしです。あのモンスターたちはこの世界の命を奪うことに何のためらいも見せない悪鬼です。どうか殿下、思いとどまって下さい。それに、万が一ということもあり得ます。捕虜として捕らえるつもりかも知れません」
その言葉を聞くと、ニールは立ち上がり、窓から外をみた。
「がっかりだな。神光の戦士たちであれば、何か切り札でも持っているのかと思ったが。もう用はないぞ。出て行ってもらおう」
「殿下」エスメラルダが進み出た。「ご無礼をお許し下さい。ですが、この者の言う通りです。私は先の戦で部下を失いました。闇の軍勢はあなたを殺すことに何の躊躇も見せないのです。これは恫喝ではありません。敵にとって人間の政治など無関心、眼中にないのです。休戦協定など何の保証にもなりません」
するとニールは語気を荒げて言った。
「いいかね。これは私が入念にゴルツ=アレムとの連絡を取り合って成立させた機会だ。戦争が終われば財政は健全化する。苦しむ民を救うことが出来るのだ。兄はこの国を私物化し、自らは贅を尽くしてやりたい放題だ。このままでは民衆は激発する。そのような事態は避けねばならん。とにかく、戦争を終わらせなくてはならないのだ。今はそれに尽きる」
「ニール殿下」
エリオットであった。
「そなたは……エリオットか。見違えたな。以前あった時は子供であったな。しかし、そう言えばそなたも神光の戦士であったな」
「恐れ入ります。殿下、多くの声が魔物との休戦に否定的であることもまた事実。国内は分断してしまいます。それこそゴルツ=アレムの思うつぼ。国内の混乱が静まらぬうちに攻め込んでくることも考えられましょう。殿下、ここは慎重に行動されるべきかと存じます」
「言うじゃないかエリオット。君も大人になったな。それにしても、神光の戦士たちから見放されるとは思わなかったぞ。お前達ならば、私の切り札として控えてくれるものだとばかりと思ったが」
「ニール殿下」アルフレッドが言った。「どうしても緩衝地帯へと出向かれるというなら、俺たちも同行させて下さい。それしか殿下をお守りする方法が見つかりません」
「それは思い切って大胆な提案だな。魅力的でもある。だが、神光の戦士を目の前にしたゴルツ=アレムが、激発しないとも限らん。奴らは神光の戦士を前にすると、他の何をおいても君たちの抹殺を最優先するのだろう? 私は戦いに行くわけではないのだ」
「…………」
神光の戦士たちは沈黙した。ニールの決意は固いようだった。どうあってもゴルツ=アレムとの会談へ向かうつもりである。
と、そこへ衛兵が知らせを持ってきた。
「殿下、ハワード公爵閣下とライオネル男爵閣下が参られました」
「そうか。通してくれ」
「はっ」
そうして、ハワード公爵ともう一人、二十二歳のライオネル男爵が入ってきた。男爵はハワードの甥であった。
「殿下、我が軍は緩衝地帯の手前で待機させております。……殿下、こちらは?」
ハワードはアルフレッドらを見やる。
「神光の戦士たちだ。私が会談に出向くのを阻止しに来たのだ。危険だと言ってな」
そこでライオネルが口を開いた。
「卿ら本当に神光の戦士たちか?」
「そうですけど」
クラリスが応じた。
「魔剣とやらを見せてくれないか。テレビで遠目には見たが、実物を見せてくれ」
「構いませんが」
クラリスはジョワユーズをゆっくりと抜いた。白いオーラを放つ魔剣に、ニールもハワードも目が釘付けになった。
「それが魔剣か……いや、ありがとう」
ライオネルが礼を言うのに、クラリスは「いえ」と応じてジョワユーズを納める。
「凄いものを見せてくれて何だが、君たちにはもう用が無い。退室してくれないか。ハワードと打ち合わせがあるのでね」
ニールがそう言った時である。上方から光が降ってきて、コーラスが鳴り始めた。
「何だ!?」
ニールは天井の光を見て、狼狽した。
「魔術か」
ハワードも周囲に目を配る。
「ご安心を、これは光の神々の神託が下される時に起こること。神々が参られます。しかしここで一体何が……」
エスメラルダが冷静に打ち明ける。
「神々だと?」ニールは信じがたい思いである。
そうしてやがて、神々の声が降ってきた。
「どうやら今回は驚かせてしまったようですね。アルフレッド、アリシア、エリオット、クラリス、エイブラハム、エスメラルダ。今ここで、八人目の神光の戦士を紹介しましょう」
そうして神々の声が響いた。クラリスがこの様子を携帯端末で撮影している。
「ライオネル」
その声が響いて、神光の戦士たちは男爵を注視した。
「俺ですか」
「そうですライオネル。あなたこそ八人目の神光の戦士。さあ、魔剣を受け取りなさい。ここまでの記憶を共有するのです」
そうすると、光の中から魔剣ダーインスレイヴがゆっくりと降りてきた。ライオネルは導かれるようにその魔剣を手に取った。その瞬間、これまで他の戦士たちの記憶が流れ込んでくる。イズの村の惨劇からエルフの帝国まで。
「…………」
ライオネルはしばらく無言であった。
「そうか、俺が神光の戦士か」
「どうやら理解したようですね。これからの進むべき道がどこにあるのかも」
「はい。分ります神々よ。俺の最優先事項はザカリー・グラッドストン。他は二の次」
「そうです。その使命のためにあなたはこれからの戦いのために多くを犠牲にしなければなりません。理解できますね」
「はい神々よ。正直重くて悲しいことでもありますが、神光の戦士の使命を果たします」
「よろしい。では天命に従って進みなさい。道は必ず開けます」
神々の声はそこでいったん間を置いて、王弟に声をかけた。
「ニール」
「は、はい? 私ですか?」
「本来ならこのような忠告をするべきではないのですが、神光の戦士の子らがやってきたことでもあります。伝えておきましょう。ゴルツ=アレムとの会談よりも、まず身を守りなさい。王都ベルサリアーナに戻ってはいけません。凶兆が待ち受けています。いいですね」
「なぜですか」
「分かりません。ただ、王都に留まるのは危険が伴うでしょう。大事な人がいるなら呼び寄せておいた方がいいでしょう」
「ありがとうございます……」
「では神光の戦士たちよ、先へと進みなさい。天命が待ち受けています。すぐにでも道が開けるでしょう。闇が迫っています。注意なさい」
そうして光とコーラスは去っていった。
「ライオネル、だったか。どうやら意外な形で旅を共にすることになりそうだな」
アルフレッドが言った。
「ああ。アルフレッドだな。イズの村を生き延びた」
そうして、他の戦士たちもライオネルと言葉を交わす。
「さて、ニール殿下。これでもまだゴルツ=アレムとの会談に臨まれますか。何やら御身に危険が迫っているようですよ」
アルフレッドが言った。
「う、うむ……仕方ない。会談は取りやめよう。それより家族に連絡をしなければ」
ニールは携帯で家族に連絡を取って呼び寄せた。
そこへ衛兵が飛び込んできた。
「申し上げます! たった今テレビにロドニー公爵が現れました。大陸全土に向けて何やら演説を行うようです」
「ロドニーが?」
ハワード公爵はリモコンを手に取るとテレビのスイッチを入れた。テレビにロドニー公爵が映る。場所は王宮の前である。
「ロドニー、何をする気だ」
一同テレビに注視し、ロドニー公爵の演説から何が飛び出すのかを待つのだった。




