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第三十三話

 セシーナブレッド号は順調に進んでいる。アルフレッドらは甲板に出ている。


 彼らはそれぞれに携帯端末でグルトレミア大陸の情報を調べていた。チェスターが言ったことはその目で見てみないことには分からないが、確かにいい話は出てこなかった。カレードシアン王国では軍備増強と称して度重なる増税が異常なほどに行われており、民衆の不満が高まっている。そして一方で王都や宮廷では連日夜会が開かれており、特権階級を自称する上級貴族や宮廷人は贅沢三昧である。軍備増強は本当に必要なのか、記事には上流階級への批判であふれていた。そんな中、王弟ニールが闇の軍勢の総司令官ゴルツ=アレムとの休戦協定に向けて動いているとの情報もあり、それについては貴族たちの間で意見が真っ二つに分かれていた。すなわち、賛成か反対かである。


「馬鹿な……」


 アルフレッドは休戦協定の記事を読んで零した。


「休戦なんてあり得ないだろ。これまで闇の手勢が何をしてきたのか、分からないのか」


「どうも、何か国内がごたごたしているようね」


 アリシアは言って海に目を向ける。


「俺たちは政治に介入はしないが、魔物が絡んでいるとなれば話は別だ。このニールとかいう王弟には忠告しないといけないだろう」


 そこへエリオットとクラリスがやってきた。


「ニール大公殿下がどうかしたアルフレッド」


 クラリスの問いにアルフレッドは応じる。


「例の記事読んだろ。王弟ニールがゴルツ=アレムと休戦協定を結ぼうとしているって。こなこと信じちゃ駄目だ。敵は何か企みがあるに違いないんだよ」


「まあそう熱くなるなよアルフレッド」エリオットが言った。「殿下にも何か考えあってのことだろう」


「二人とも王弟と顔馴染みか?」


「まあ、お会いしたのは何年も前だけどね。決して考えも無しに事を起こすような方ではないのだが」


 またエイブラハムとエスメラルダが合流する。


「何だ。盛り上がっているのか」


「私にも聞かせろよ」


 そこでアルフレッドはニールの件について話した。


「成程な。王弟の件か」


 エイブラハムは思案顔。


「魔物との休戦協定などあってなきがごとしだとは思うが。何か勝算でもあるのかどうか」


「それにしてもその件については貴族たちが関心を寄せているようだが、民衆は関心が薄いようだな。無理もないか」


 エスメラルダは言って肩をすくめた。


 幸い海は穏やかで、優しい風が吹き抜けていく。甲板から陸地は見えるが、目的地まではまだ遠い。


「ところで」エスメラルダが言った。「気になっているのだが、アルフレッド、アリシア。お前たちとともに神託を受けたクリストファーという者だが、闇のテリトリーに連れていかれて、音信不通なんだろう。それは重大だぞ。グラッドストンを封印するためには十二本の魔剣が必要なのだから」


「魔剣使いとな」エイブラハムが補足する。


「クリストファーは……」


 アルフレッドは言葉を詰まらせる。


「この旅のどこかで道が開けるんじゃないかって、私は勝手に思ってるんだけど」


 アリシアは答えた。


「そうだな。どこかで生きていてくれることを祈るしかないが……」


 エリオットは応じると、クラリスはアリシアの腕に手を置いた。


「軽くは言えないけど、彼だって魔剣を持っているんだし、どうにか逃げ延びているわ。きっと……」


「うん。私も信じるしかないのは分かってる」


「あいつ、こんなにみんなを心配させやがって、戻ったら一発殴ってやるからな」


 アルフレッドの言葉に、みな頷いて口許を緩めた。


 クリストファー……どこにいる。アルフレッドは水平線の空に視線を向けるのだった。



 それからしばらく航海が続き、セシーナブレッド号はグルトレミア大陸の東、カレードシアン王国の港町ポートレダに到着する。


「生きて帰ってくれよ。死体を運びたくはないからな」


 ベネディクトのジョークにアルフレッドらは肩をすくめた。


「そのジョーク、あまり笑えないぞ」


 エスメラルダは釘を刺した。


「そいつはすまねえな。ついいつもの癖で毒を吐いちまった」


「しばらく留守にする、船を頼むぞ」


「任せておきな。それより、あんたらこそ、まじで生きて帰って来いよ」


「ああ。もちろんだ」


 そうして神光の戦士の一行は町へ入った。


 宿で一泊すると、彼らは行先をどうするか話し合った。


「これからどうする」とエスメラルダ。


「とりあえず王弟ニールの件が気がかりだ。とりあえず、その御人に会って休戦協定の席に行かせないようにしないと」


 アルフレッドの言葉に、特に反対意見もなく、彼らは魔弾鉄道で王都ベルサリアーナへ向かうことにする。



 ……その頃、闇の軍勢本陣にて。


 鎧をまとった総司令官の異形巨漢戦士ゴルツ=アレムは、愛刀の蛮刀を傍に刺し、黒い液体闇ビールが入ったジョッキをあおった。その席の前にはもう一人、女性が腰かけていた。甲冑を身に着けている。闇の七騎士の一人、フィオ=アリアである。暗黒剣オーレア=クィンを帯びている。フィオ=アリアはカップに入った黒い液体闇コーヒーに口を付ける。


「どうやら、ことは順調に進んでいるようだな」


 フィオ=アリアの言葉にゴルツ=アレムは唸るように笑声を上げた。


「王弟ニールの件だな」


「そうだ」


「馬鹿な奴だ。捨て駒にされるとも知らずに、俺様と対等のテーブルに着く気でいやがる。かっこつけやがって、虫唾が走るぜ」


「だが、そこまで追い込んだのもお前だろう」


「はっ! 例のあの人間からの提案が無かったら、こんな王国三日で滅ぼしてやったものを」


「それは私へのあてつけか」


「フィオ=アリア、成程お前らしいやり方だが、俺は死体の山が築ければその方が楽しくていいんだがな」


「ザカリー卿の承認は頂いている」


「おい、よせよ。俺を恫喝する気か」


「そんなつもりはないが」


「まあ何にせよ、お前の策には乗ってやる。お前が七騎士でなかったら歯牙にもかけないところだがな」


「それはそうと、神光の戦士のことは聞いたか」


 フィオ=アリアの言葉にゴルツ=アレムはジョッキをあおってテーブルに叩きつけた。


「勿論聞いたさ。ワドエルティナが仕留められなかった小僧どもか。この国へ向かっていると聞いたが」


「すでに到着している」


 フィオ=アリアはそう言うと、手のひらにホログラムを投影して、ポートレダを歩くアルフレッドらを映し出した。


「ほう、来やがったのか」


「一戦交えることになるかも知れん。侮るなよ」


「はっ! 誰に言ってる。こっちも闇の四天王だ。神光の戦士に後れを取ると思うか」


「誰もがそう思っていたが、奴らは着実にパワーアップを果たし、三つの大陸を我々から取り戻した」


「では、その記録はここでお終いだな。俺が殺してやろう」


「言うじゃないか」


 そうして、フィオ=アリアは席を立った。


「私は少し出てくる。策を台無しにしてくれるなよ」


「分かった分かった。お前の顔に泥を塗るような真似はしないよ七騎士」


「いい心がけだ」


 そうして、飛び去ったフィオ=アリアを見送り、ゴルツ=アレムはジョッキの追加を部下にオーダーした。



 王都ベルサリアーナに到着したアルフレッドらは、コンビニで新聞や雑誌を購入してカフェに席を取った。


 戦費の補填のために重税を課す国王モーリスを批判する記事であふれかえっていた。そして王妃カーラは夜毎夜会を開いては上級貴族たちと享楽的な生活を送っており、そのことも批判のやり玉に挙げられている。宮廷貴族たちも激しく攻撃されており、自ら特権階級と公言する彼らを糾弾する声も多大。


 もはや国民の生活はぎりぎりであり、破産する人々が後を絶たない。影響は王国全土に及んでおり、ゴーストタウンと化した繁華街は数えきれないほどである。国民の怒りは爆発寸前で一触即発である。


 そんな世論の中で登場してくるのがロドニー公爵とハワード公爵である。ロドニー公爵は現体制に反発的であり、無秩序な軍事費の増加を早急に停止すべきと唱えている。ロドニー公爵は王弟ニールとともに改革派であり、軍事費の増税停止、そして一部民主主義を取り入れることも検討していると報じられている。


 そうして、アルフレッドらはひとしきり情報取集を終えると、次は実際に行動あるのみ。王弟ニールの下へ向かうつもりであった。


 と、そこで街頭テレビにニールの名が出てきたのでアルフレッドらは立ち止まった。王弟ニールは東部の都ミルエルシフに入ったところであり、魔弾鉄道から降りてきたところでボディーガードと記者に取り囲まれていた。


「たった今入った情報によりますと、王弟ニール殿下は、東の都ミルエルシフに入り、これから東部の緩衝地帯で闇の軍勢の司令官であるゴルツ=アレムと会談に赴き、停戦協定の会合に臨むようです。今回の会合は王弟ニール殿下からゴルツ=アレムに提案されたとのことで、三日間の予定でスケジュールが調整されており、その内容がどこまで踏み込んだものになるかが焦点になると思われます。また……」


 アルフレッドは仲間たちに言った。


「王弟は東の都だ。すれ違いになってしまったな。ミルエルシフに戻ろう」


「しかし動きが速いな。急転直下の勢いだな」


 エイブラハムが言った。


「とにかく、戻るしかあるまい」


 エスメラルダは言って肩をすくめた。


 かくして一同はまた駅に向かうべく超人化スキルで建築物の屋根から屋根を飛び、先を急ぐのだった。

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