第二十九話
ファイエルラッドの闇の軍勢指揮官レギスティナは、魔法使いであった。強力な魔法の連弾に手こずるも、神光の戦士たちは身にまとう神気の霊鎧によってかなり救われたと言える。ダメージを無視して力押しで神光の戦士たちはレギスティナに魔剣を突き立て、最後には爆発する光の前に消滅する。レギスティナを失った魔物たちは潰走していった。
中級指揮官だがパワーストーンは大量に落としていった。地水火風雷のランク四パワーストーンが大量にあるので強化が捗る。中にはランク五も混じっていて、こちらは合成に回した。そしてポーションの類も多く手に入った。
これで東西南北全ての都を奪還したことになる。バトロティア帝国軍は戦を優勢に進め、各方面の防衛線を押し上げることに成功する。
ひとまず戦いが一段落したアルフレッドらはファイエルラッドで休んでいた。
「残るはガンダンパレスだな」
アルフレッドが言うのに、アリシアが頷く。
「ワドエルティナ……だったかしら? どんなものかしらね。私たちも相当なパワーアップを果たしているけれど」
「奴は他の魔物とは一線を画する」
エスメラルダはコーヒーカップに口を付けて言った。
「ワドエルティナ……どんな力を持っているの」
クラリスの問いにエスメラルダは応じる。
「奴は闇の公爵夫人と言われるだけあって、いわば上級貴族、グラッドストンとも近しい存在らしい」
「グラッドストンが皇帝なら、それに次ぐ立ち位置ということか」
エリオットが言うと、エスメラルダは思案顔。
「さあな。闇の世界の序列までは知らんが、他にも上級貴族に近い連中はいそうだ」
「何れにしても」エイブラハムが口を開いた。「グラッドストンに近しいということならば、確かにこれまでの連中とは格が違うのかも知れん。油断は禁物だな」
それからファイエルラッドにおいて軍備を整えたエルフたちは、神光の戦士たちを加えてガンダンパレスに向かう……ところであった。
その知らせは、エスメラルダの下へ届けられた。
「閣下、ワドエルティナがここに現れました。今、兵士たちと戦闘に入っています」
「何だと」
エスメラルダはレーヴァテインを手に現場へ急行する。途中、アルフレッドらと合流を果たしたエスメラルダ。
「意外な展開だ。あの魔女は引きこもっているかと思ったが」
「とにかく急ごう」
アルフレッドらはクラリスのテレポートで、ワドエルティナが出没したという都の東部へと転移する。
黒呪の魔女は、確かにいた。エスメラルダが千里眼で確認する。
ワドエルティナは漆黒のローブを身にまとい、圧倒的な黒いオーラを放っていた。周囲にはエルフ兵の死体が転がっている。ワドエルティナはアルフレッドらに気付くと、転移してきた。
「神光の戦士たち、探したぞ。エルフ兵など物の数ではない。わらわが目的は神光の戦士たちよ」
エスメラルダは怒りを爆発させた。
「何という……我らの兵士を殺すとは。何百年と生きてきたエルフを……殺すとは」
「お前はエスメラルダだな。レーヴァテインの使い手」
「ワドエルティナ、許さんぞ」
エスメラルダは剣技・強衝撃波を放った。しかし、強烈な衝撃波はワドエルティナのバリアに防がれた。
「今のは何だ。まさか攻撃したのか」
ワドエルティナは嘲笑を浮かべる。
「だとしたらこれはどうだ」
アルフレッドが加速して剣技・無刃でアクロバットにワドエルティナに切りかかった。高速の剣撃は全てバリアに弾かれた。
アリシアの風陣連弾、エイブラハムの無双連撃も全て弾かれる。さらにエリオットが剣技・巨人籠手で霊体の拳を叩き込むも、それすらもバリアに通じない。
「さすがに、やるじゃないか」
アルフレッドは言って、呼吸を整える。
クラリスはエスメラルダに語り掛けた。
「エスメラルダ、魔法はどうなの。あの魔女に通用するの」
「恐らく魔法もバリアで防がれるとは思うが……」
「つまり、攻撃し続けるしかないってことね」
そこで、クラリスは多重詠唱に入り、仲間たちの攻撃防御速度などを底上げする。それから全員深紅の覚醒でバフをかけておくと、再び攻勢に転じる。
アルフレッドらは剣技で一気に畳みかける。ワドエルティナは浮遊状態で流れるようにそれらをバリアで受け止める。
「無駄なあがきだ神光の戦士たちよ。お前たちにわらわのバリアは破れん。仮に破ったところでまたバリアを張り直せばよいのだからな」
「諦めてたまるか」
アルフレッド、アリシア、エイブラハムらは並みの魔物なら既にばらばらになっているであろう攻撃を叩き込む。それでもワドエルティナのバリアは破れない。
そこでエリオットが神聖魔法を行使する。
「破壊の槍、神の怒りとなって降り注げ」
上空から燃え盛る無数の槍がワドエルティナに襲い掛かる。槍は怒涛となって命中する。
さらにクラリスとエスメラルダが合体魔法を行使する。魔力・極千パーセント。
「逆転魔法、全てを虚無に変えよ、バリア崩壊せし」
二人の合体魔法のビームがワドエルティナに襲い掛かる。
果たして。魔法のプラズマが晴れて、その姿が見えてくる。
ワドエルティナのバリアはプラズマに覆われていて、この魔女は無傷であった。
「やはりな」
エスメラルダが苦々しく呟く。
ワドエルティナは笑った。
「どうした神光の戦士たち。手詰まりか。もっと遊ばせろ。第一私のパワーはこんなものではないぞ」
そう言うと、ワドエルティナは自身の前方に闇のオーラを集中させ始める。
「見よ、わらわの力を」
次の瞬間、黒い閃光が爆発し、衝撃波がアルフレッドらを吹き飛ばした。大地に転がるアルフレッドら。
衝撃波の威力は凄まじく、神気の霊鎧がなければ死んでいたに違いない。
「ちっ、くそ、何て化け物だ」
アルフレッドは立ち上がった。
「みんな大丈夫?」
アリシアの声にエリオットにクラリス、エイブラハムにエスメラルダが答えた。
「黒呪の魔女か、やるな」
「でもこっちだって神気の霊鎧と深紅の覚醒、それに魔法でダメージはかなりカットされてる」
「ああ……これはそれにしたって手こずりそうだ」
「奴のバリアは強力に過ぎる。どうしたものか」
ワドエルティナは驚いた様子であった。
「何だと貴様ら。なぜ立てる。死んでもおかしくないはずだ」
アルフレッドがエクスカリバーを悠然と構える。
「人知を超えた領域にいるのはお互い様ってことだ」
「馬鹿な。あり得ん」
すると、それぞれの魔剣が光り始める。輝きは増していき、閃光が爆発した。
「何? 一体何なの?」
アリシアはゆっくりと目を開けた。魔剣がオーラを帯びてプラズマをまとっている。
他の魔剣も同じくであった。そして魔剣の変化はすぐに神光の戦士たちに伝わった。
「感じるぞ、あのバリアを破壊できる」
エリオットが言った。
「ほんとだ。これ凄い」
クラリスの言葉にエイブラハムもエスメラルダも同じくである。
「これは……魔剣の意思が伝わっているのか」
「そう言えば、ドルシアム王国でエリオットたちの処刑を救った時、魔剣は人の形をした光となっていたな」
「そう言えばそんなこともあったな」
そうしていると、ワドエルティナは口を開いた。
「何を言っている。作戦会議か。無駄なことだ。わらわの力はまだこんなものではない。今度こそ殺してやる」
そう言うと、ワドエルティナは構えた。
「今度は何をする気だ」神光の戦士たちは構えた。
ワドエルティナは頭上に闇のオーラを収束させていき、暗黒の極大ビームを放ってきた。
「死ね!」
しかし、神光の戦士たちは魔剣を構えた。黒呪の魔女の邪悪なビームは、輝く魔剣によって弾かれた。
「なぜだ。信じられん。人間が到達できるレベルではない。魔剣か、忌々しい」
「今度はこっちから行くぞ」
アルフレッド、アリシア、エイブラハム、エリオット、エスメラルダは超人化で空を蹴って浮かんでいるワドエルティナに立ち向かった。
何とバリアは一撃で破壊され、神光の戦士たちの連撃がワドエルティナを捉えた。更にクラリスの結界魔法の光がワドエルティナを貫く。
ワドエルティナは慌てて上空に転移した。
「おのれ……このわらわに傷をつけるとは……許さん……絶対に許さんぞ。人間ごときが」
「どうした。いきなり余裕がなくなってきたか」
「余裕? いい気になるなよ人間が。わらわの力がこの程度で打ち破れると思うか。例えバリアを失ってもな」
そう言うと、ワドエルティナは高速移動で攻勢に転じる。幾重にも残像を残し、ワドエルティナは闇の魔弾を放ってくる。
アルフレッドらは全方位から飛んでくる弾丸を魔剣で叩き落としていく。
しかし、無数の弾丸全てを防ぐことは出来ず、直撃も受ける。
そうして、気付いた時、無数の闇弾丸が空中で静止して、アルフレッドらを取り囲んでいた。残像での高速移動はこれが目的であった。
「終わりだ」
ワドエルティナは指をパチンと鳴らした。全方位から闇の弾丸が神光の戦士たちに襲い掛かる。
「駄目よ、防ぎ切れない」
アリシアは焦りの声を上げる。そうして、神光の戦士たちはワドエルティナの闇弾丸の直撃を連続で受けることになる。
ワドエルティナは笑声を上げた。
「どうじゃ、ただではすむまい。我が闇のパワー、受けてみるがいい」
そうして、全ての弾丸がアルフレッドらを襲い、爆発の煙が晴れてきた。
アルフレッドらは攻撃に耐えきった。だが、神気の霊鎧を越えるダメージは壮絶なものである。ともあれ、彼らにはエリオットがいる。エリオットはすぐさま魔法でダメージを全回復させる。
ワドエルティナは舌打ちした。
「ヒーラーがいるのか。これでは埒があかん。……ガンダンパレスで迎撃するか」
そうして、ワドエルティナは言った。
「神光の戦士たちよ、お前たちの力はとくと見せてもらった。決着は我が居城ガンダンパレスだ。わらわは逃げはせぬ。来るがいいガンダンパレスへな。何れにしても、わらわがいる限りバトロティア帝国への攻撃は止むことは無い。そして、大樹リルデア=スーと皇帝と皇妃を救うためにも、お前たちは我が居城の『真なる黒水晶』を破壊しなければならないのだろう。決着はガンダンパレスだ。待っているぞ神光の戦士たち」
ワドエルティナはそう言うと、黒い霞を残して消えた。
「消えたか……」
エスメラルダはその方向を見上げていた。
「第一ラウンドは引き分けってところだな」
エイブラハムは言って、魔剣を収めた。
「ということで、結局ガンダンパレスへ行くことになったわけだ。尤も、ワドエルティナの力を把握するのに、いい肩慣らしが出来たな」
「でも、魔剣が覚醒しなかったら危なかったわ」
エリオットの言葉にクラリスが応じた。
「ガンダンパレスか。何を仕掛けてくるやら。勝算でもあるのだろか」
「何とも言えないわね……」
アルフレッドの呟きにアリシアが反応する。
「しかし、あの魔女、確かにこれまで戦ってきた奴とはレベルが違うな。エスメラルダ、あの魔女と戦うのは今のが初めてなんだよな」
アルフレッドの問いにエスメラルダは頷いた。
「ああそうだな。宮廷魔術師として潜んでいた時にはすぐに姿をくらませたからな」
「正直ここまでとは思わなかったな。力は拮抗しているんじゃないか」
「そのようだな。尤も、私としてはあの黒呪の魔女と互角に戦ったことの方が驚きなんだが」
するとエイブラハムが言った。
「何れにしても、真なる黒水晶を破壊するためにはあの魔女を倒すか撃退せねばならん。戦いはこれからが本番と言っていいだろう。各地の都は奪還したのだから」
「ワドエルティナにとっては誤算であったのだろうか。俺たちを殺すつもりで来たんだろう」
エリオットの問いにエスメラルダは応じる。
「そうかも知れんな。ガンダンパレスに何か仕掛けて待ち受けているか。奴とてむざむざ撤退はするまい。我が国の攻略方面の司令官だからな」
「そりゃあ、罠を張っているのは間違いないわよね。どんな罠か、想像もできないけど……」
クラリスの言葉にアリシアが頷く。
「何か勝算があるのかも。どんな勝算でも、打ち砕いてやるけどね。でしょ? 今度こそ終わりにしてやるわ」
「まあとにかく、我々もいったん休息しよう。まさかワドエルティナが現れるとは思わなかったからな。被害も出ているようだし。そのあたりの報告も確認しておきたい」
「では、また明日というところか」アルフレッドが言った。
「そうだな。とりあえず再出発は明日ということにしよう。こんなはずではなかったのだが……」
エスメラルダは兵を失ったことに心を痛めていたのだった。エルフ族は闇の軍勢に対して押されてはいたものの、死人はほとんど出していない。エルフの戦闘能力の高さもあったが、無理に攻め込んだりはしなかったからだ。少数で長命の種族ゆえに、戦いで命を落としたとはいえ、死というものには敏感なのだった。
何れにしても、神光の戦士たちは休息し、ガンダンパレスへの行軍は一日延期されることになった。




