第二話
祭りが終わって、翌日、イズの村にいつもと変わらぬ太陽の明かりが差し込んだ。
アルフレッドはベッドでまどろみの中にいた。昨日のことを思い出す。アリシア……クリストファー……俺たち、どうなってしまうのかな。
と、扉をノックする音がする。母のルビーだ。
「アルフレッド、もう朝よ。ご飯にするわ。起きなさい。聞こえたわね」
「はいはい今行くよ」
アルフレッドは背伸びをするとベッドから降りた。着替えを済ませると、部屋を出る。
「おはよう母さん。父さんは?」
「酔いつぶれて寝込んでいるわ。ほっときなさい。全く大して飲めやしないのに馬鹿な人だよ」
テーブルの上にはパンとスープ、ベーコンエッグがあった。アルフレッドは料理を見た途端おなかがすいていることに気が付いた。
「いただきます」
アルフレッドは食欲に任せて朝食に取り掛かる。
「そうそう」ルビーがキッチンから振り向いて口を開いた「ラモーナ様がお前に話があるそうよ。食事が終わったら行ってきなさい」
「ラモーナ婆さんが? 俺に何の用?」
「さあ、スージーから言づけられただけだから。何だろうねえ」
「ふーん……」
アルフレッドは朝食を終えると、村長の屋敷に向かうことにする。何か怒られるようなことをした覚えもないし、何があるのだろうか。
そうする間にラモーナの邸宅に到着。ドアをノックする。
「ラモーナ婆さん、アルフレッドです」
扉が開いて、スージーが顔を見せる。
「ああアルフレッドね。来たのね。入りなさい。婆様がお待ちよ」
「どうも」
アルフレッドはスージーの後をついて屋敷の中を歩いていく。そして、
「ここよ、さあお入りなさい」
スージーは扉を開けた。
「はい。失礼します」
アルフレッドはざわつく胸の不安を抑えながら中に入った。
「あれ?」
そこにはアリシアとクリストファーの姿があった。
「何でお前たちも呼ばれたの」
「ああ」
「おはようアレックス」
クリストファーとアリシアもどこかぎこちない雰囲気だ。
奥の椅子に座ってたラモーナが杖をついて腰を上げる。
「さあ、三人とも揃ったね。さて……何から話したものか」
ラモーナは眉間にしわを寄せて、深く考えるのだった。
「十八年前の一月一日、わしは神託を受けたのだ。この年に村に三人の子供が生まれる。その子供たちこそ、闇の帝王ザカリー・グラッドストンを倒す使命を帯びた神光の戦士であると。わしはあの時の衝撃をはっきりと覚えている。わしは光の神々のもとに召され、その圧倒的な神霊力をはっきりと感じたのだ。そして、子供たちが十八歳になったならば、証の祠にその三人を遣わすべしと、な。つまり、お前たちのことじゃ。アルフレッド、クリストファー、アリシア。わしは十八年間待った。この日が来るのを。お前たちに神託を告げる日をな」
アルフレッドらは呆気にとられてラモーナを見返すのだった。
「何言ってんだよ婆さん。神託って……俺たちが神光の戦士? 何を言い出すかと思えば」
クリストファーは呆れた様子だった。だがそこでスージーがぴしゃりと言った。
「婆様の言葉は真実ですよ。あなた方も知っているでしょう。婆様がその昔、神殿の大神官として神託を受ける役を果たしてきたことを」
「それは……」
クリストファーは押し黙ってしまった。そこでアルフレッドが言った。
「その話が本当だとして、証の祠で何が待っているんだ。なぜ俺たちはそこへ行くんだ」
「光の神々がお前たちと交信されると聞いた。ファーストコンタクトだ。証の祠は、闇の力が及ばぬ世界に数少ない神聖なる場所なのだ。あの闇の帝王すら手出しはできまい」
次いでアリシアが口を開く。
「でもラモーナ様、私たちただの十八歳の子供で、ましてやあの闇の帝王を倒す使命って……闇の魔物たちと戦う術も知らない私たちに何が出来るのでしょうか」
「それは証の祠で神々から何らかの判断が下されるはず。確かに、今のお前たちでは、グラッドストンどころか、闇の勢力からも身を守ることが出来んじゃろう」
「…………」
三人の若者たちは押し黙ってしまった。やがてクリストファーが言った。
「なあ、このこと、里のみんなは知っているのか? 知っていて俺達には黙っていたのか」
「村の者たちには知らせておらぬ。このことを知っているのはわしとスージーのみ。不用意にお前たちのことがばれては拙かろう。だからわしはお前たちの親にも隠し通してきた」
アルフレッドらは動揺していた。無理もないことである。いきなり闇の帝王を打倒する使命を帯びていると言われて、受け入れることが出来るはずもない。
ラモーナは言った。
「今日、村人全員を集めてこのことを公表する。それからお前たちは出立の準備に取り掛かれ。証の祠にて神々と交信し、戻ってくるのだ。お前たちが受けた神託を、わしが確認してやろう。本格的な旅立ちはその後だ。村を出るのだ。世界がお前たちを待っているぞ」
時間は砂時計のようだった。ラモーナのもたらした神託は、アルフレッドらを未知の世界へといざなうものだ。三人の若者たちは、待ち受ける運命をいまだ知る由もないのだ。
そうして、ラモーナは村に触れを出し、神託の言葉を全ての民に伝えた。村人たちは少なからず衝撃を受けたが、アルフレッドらを激励するのだった。世界の命運を担うことなど、それは神々に選ばれた者の使命。この時、当事者よりも村人たちの方がよほど楽観的であった。神光の戦士。世界の希望である。闇の帝王を倒して光を取り戻すことが出来るのは彼ら三人の双肩に掛かっているのだ。村人たちは希望に湧いた。イズの里の若者が世界を救う選ばれし者。誉あれ。みな、アルフレッドらを祝福するのであった。