第二十六話
「……それにしても、この魔剣という奴は凄まじい霊力を有しているな。神通力とでも言うべきか」
車中でエスメラルダが言った。彼らはこれまでの成り行きをエスメラルダ話していた。アルフレッドとアリシアの故郷が滅ぼされたこと。エリオットとクラリスの故郷で起こった異変。そしてエイブラハムの謀殺を図った一連の事件。闇の手勢が国内で暗躍していたことを告げると、エスメラルダも他人事とは思えぬ様子であった。
「我が国でも闇の手勢が潜んでいるかも知れん。しかし、巧妙だな。人間に成り済ますとは」
「だが、この国では最初から黒呪の魔女とやらが正体を現している。これまでとは成り行きが違う気もするな」
アルフレッドが言うと、アリシアも思案顔。
「そうね。宮廷魔術師として入り込んだそうだけど、ワドエルティナは自分がガンダンパレスにいることを明かしているわけでしょう?」
「ああ」エスメラルダは頷く。「無論討伐隊は差し向けたが、入口にはとてつもなく巨大な岩石巨人がいて、迂闊に近づけんのだ。それ故、ワドエルティナも余裕で自身の居城で安泰というわけだ」
「何れにしても事態は深刻だな。北、東、南の都まで敵の侵入を許すとは」
エイブラハムの言葉に、エスメラルダは頷く。
「お前たちの到着で事態が好転すると良いのだが。少なくとも神託ではそのように言っていたな」
「神託では指揮官を倒せと言っていたが、俺たちがなすべきはそれだろう。敵の士気を打ち砕き、後退させる」
エリオットが言うとクラリスも口を開く。
「確かに、私たちがなすべきことなのでしょう。敵将を過小評価するわではありませんが、私たちのレベルはパワーストーンの加護で確実に上がっていますし」
「それはその通りかも知れん」エスメラルダは応じた。「このレーヴァテインを手にした瞬間に、パワーストーンのことが理解できた。そして、私自身のパワーアップも感じることが出来る。それが神光の戦士とうことの証でもあるのだろうが……」
そうする間に、魔弾鉄道はドーガンドファリスに到着する。一行は駅から出ると司令部に向かうべく馬車に乗り込む。
エスメラルダの到着を見て、司令部のエルフの戦士たちは敬礼で迎える。
「ご苦労だ。間もなく増援が来る。魔法兵団一軍団、騎士団が二軍団だ。それから、こちらが事前に連絡を入れておいた神光の戦士たちだ。私も含めてな」
司令部の戦士たちは事前に動画を見ていてそのことは知っていた。
「神光の戦士たちですな。ドルシアム王国とラオンメルド共和国の闇の手勢を打ち破ったことはニュースで知っています」
「ああ。尤も、ここでは事情がやや異なるがな。戦場で敵将を討伐し、闇の軍勢を後退に追い込むことだ。そして、最終的にはガンダンパレスのワドエルティナを討つ」
エスメラルダは言って、諸将を見渡す。
そうして、それからしばらくの時が流れ、ダイアン将軍、バーニー将軍、デニス将軍らが到着した。
「私たち神光の戦士が狙うのはドルガルモスの首だ。我々は敵の本陣を突く。前線は卿らに一任する。ドルガルモスが倒れれば、敵の戦線は一挙に崩壊するだろう」
エスメラルダが言うと、ダイアンが異を唱えた。
「たった六人で敵の本陣を突くと言われるのですか」
「そうだ。ドルガルモスにとっても、我々は美味い獲物だろうからな。必ず自ら出てくる」
「それはあまりに危険ではありませんか。せめて、我々と共に敵の戦線を突破してからでも遅くはありませんか」
「気遣いは無用だ。神光の戦士の強さは卿らも見ているであろう」
そこでバーニーが言った。
「ですがあれは戦場での戦いではありません。他に敵兵がいるわけでもありませんし……」
「案ずるな。お前たちにはこの魔剣のパワー説明してやるのは難しいが。何とかなる」
「では我々はせめてもの援護として精鋭をお連れになってはいかがですか」
デニスの提案に、エスメラルダは首を振った。
「これは魔剣使いの戦いだ。精鋭を敵の本陣には連れていけん。彼らは前線にこそ必要な者たちだ。さあ、これ以上私を困らせないでくれよ。ドルガルモスの首級は我々が必ず上げる。お前たちは前線にて攻勢に出る準備を怠るな」
「そこまで仰るなら何も申し上げることはありません。ご武運をお祈りします」
「よろしく頼むぞ」
エスメラルダの言葉に、諸将は敬礼した。
そうして、六人の神光の戦士たちは、増援の三軍と共に前線へと向かい、兵士たちに別れを告げる。
アルフレッドらは高速飛行の魔術で戦場の上空を通過して、ドルガルモスがいる敵の本陣に向かった。途中、竜に騎乗した敵兵に遭遇するも、魔法による遠距離攻撃でそれらを粉砕していく。
「着いたぞ。敵の本陣だ。降りるぞ」
エスメラルダに伴って、アルフレッドらは地上に降り立つ。
魔物たちは驚愕したようだった。異形の漆黒戦士らはエスメラルダの顔を見て思い出すことがあった。
「貴様はエスメラルダ! 馬鹿な! 死にに来たか!」
アルフレッドらは魔剣を抜いた。
エスメラルダとクラリスが魔力・極千パーセントでファイアボールを連射する。圧倒的な火球が爆裂し、異形戦士らを焼き払った。
「これは凄いな。魔力を持っていかれるが」
エスメラルダは言って回復ポーションを飲んだ。
「な、何だお前たちは」
「俺たちは神光の戦士。ドルガルモスとやら、墓碑銘は彫ってやる。お前を棺桶に入れてやろう。臆病者でなければ出てこい」
アルフレッドは敵を挑発すると、エクスカリバーから電撃を放って異形戦士を数体焼き殺した。
すると、奥から飛び上がって着陸する者があった。荒々しい呼吸をしている、長身で漆黒の異形戦士だ。
「神光の戦士か。俺がドルガルモスだ。少しはやるようだが、すぐに後悔することになるぞ」
そう言うと、ドルガルモスは咆哮し、深紅のオーラをまとった。
次々とドルガルモスの背後から同じく深紅のオーラを身に着けた異形たちが現れて突撃してくる。
アルフレッド、エイブラハム、アリシアらは魔剣から魔法を放ち、エリオットは神聖魔法を、そしてエスメラルダとクラリスは魔力・極千パーセントで魔法を連射する。その攻撃の前に異形戦士らは消滅していく。
ドルガルモスはいら立ちを隠せない様子であった。拳を大地に叩きつけると、更に深紅のオーラが勢いを増す。そして、ドルガルモスは大地を蹴って爆ぜた。
咆哮とともに腕を一振りして衝撃波を放つ。クラリスとエスメラルダがバリアを展開する。衝撃波はバリアによって相殺された。並みの威力ではない。
アルフレッドは剣技・無刃で超加速すると、ドルガルモスを切り刻んだ。エイブラハムは剣技・無双連撃を叩き込む。アリシアは剣技・風陣連弾に乗せて豪壮氷帝でドルガルモスの最大生命力を削り取る。エリオットは剣技・衝撃斬を放ち、この漆黒戦士の肉体に打撃を与える。
ドルガルモスは竜巻のように回転して高速で突進してきた。アルフレッドにアリシア、エイブラハムらは切り裂かれて吹き飛ばされた。
エリオットがそのダメージを回復させ、クラリスとエスメラルダは魔力・極千パーセントで多重詠唱により味方にバフをかける。
ドルガルモスはエリオットに狙いを定めると、空を蹴って加速、体当たりをぶちかましてそのまま地面に激突。拳をエリオットの顔面に打ち込むべく振り上げた。
しかし、クラリスとエスメラルダが風魔法の爆裂風を叩き込み、ドルガルモスを吹き飛ばした。
アルフレッド、エイブラハム、アリシアは再び加速すると、剣技で連撃を浴びせかける。ドルガルモスの腕が飛ぶ。
「この程度」
ドルガルモスはこれまで受けたダメージと共に腕も再生した。
そこで、クラリスとエスメラルダがドルガルモスにデバフ魔法をかける。全ての攻撃防御速度が一挙にダウンする。
アルフレッドらは剣技を連続で叩き込み、ドルガルモスをよろめかせた。
「力が入らぬ……忌々しい魔術め」
そうして、クラリスは再び多重詠唱。魔力・極千パーセント。
「消滅結界、断裂結界、竜撃閃光衝破、竜撃精神破壊」
ドルガルモスの周囲に魔法陣が出現し、強力な消滅断裂魔法の閃光がほとばしる。更にドラゴンマジックの竜撃がドルガルモスを包み込む。
魔法のプラズマが晴れて、ぼろぼろに朽ちたドルガルモスの姿があった。
エスメラルダが突進する。
「剣技・覇皇斬」
その神通力の一撃がドルガルモスを真っ二つに斬り裂いた。
そうして更に、神光の戦士たちは全員で魔法の炸裂弾を撃って撃って撃ちまくった。
煙が晴れて、ドルガルモスは粉々になっていた。
「さすがに再生も出来まい」
エイブラハムは言って、粉々になった破片を魔剣のビームで焼き払っていく。
果たして。飛び散った破片がうごめき出し、空中に集まっていく。
「そんな馬鹿な……」
エリオットは言葉を失う。
「絶対させない!」
クラリスはまたしても多重詠唱に入る。
「アルフレッド、光のパワーストーンを貸して」
「分かった」
アルフレッドはパワーストーンを分解で取り出し、クラリスに投げた。クラリスはそれをジョワユーズに合成すると、魔法を唱える。
「大いなる意思によって葬り給わん、英霊神気、光の波動、連撃」
強力な光が立て続けにフラッシュしてドルガルモスを包み込む。凄まじい轟音がして、光の奥でドルガルモスの悲鳴も混じっていた。そして熱気が噴き出すように激しい音が渦を巻いた。光は明滅して、最後に爆発した。
果たして、ドルガルモスは完全に全く消滅していた。
「やったか」
アルフレッドらは魔剣を構えたまましばらく待った。
果たして、彼らはついに今度こそドルガルモスを撃破したのだった。
それを見ていた魔物たちの幹部は悲鳴を上げて後退してく。
ドルガルモスはパワーストーンを大量に落としていった。その内の大半をランク四のパワーストーンが占めていたが、中にはランク五のパワーストーンもあった。そして剣技・強衝撃波をエスメラルダが、剣技・竜巻切りをエイブラハムが合成した。そして「深紅の覚醒」を六人全員が合成する。深紅の覚醒は攻撃防御速度など自身の能力にバフをかけるスキルである。
「よし、やったぞ。前線の将兵たちに知らせなくては」
神光の戦士たちは前線に戻る。エスメラルダが「ドルガルモスは討ち取った。残るは雑魚だけだ。一気に押し返せ」そう号令をかけると、帝国軍は勢いを得て前進した。逆にドルガルモスを失った魔物たちは潰走し始める。帝国軍はそれを追撃し、徹底的に魔物たちへのダメージを与えておいた。
「何とかなったな」
エスメラルダは地上に舞い降りて言った。他の神光の戦士たちは「そうだな」と頷く。
「閣下、ご無事でしたか」
ダイアン将軍、デニス将軍、バーニー将軍他、諸将がやって来る。
「ご苦労。魔物たちは壊滅だな」
「はい。ドルガルモスを失った敵は完全に総崩れです。追撃は完膚なきまでに情け容赦なく行います」
「よし、ここは警戒要員の守備隊を残して帝都へ帰還せよ。我々も一度帝都へ戻る」
「承知いたしました」
エスメラルダは部下たちに指示を出しておいて、仲間たちの下へ戻ってきた。
「待たせたな。部下たちに声はかけておいた。帝都へ戻るとしよう。しかしあのドルガルモスを倒すとはな……我がことながら信じられん……」
エスメラルダは呟く。とにかくも、神光の戦士は西の都を救い、帝国軍は西方戦線において優勢に立つことになる。
アルフレッドらは魔弾鉄道で帝都ヴィスレスティアへ帰還するのだった。




