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第二十五話

 魔弾鉄道がティラネシア大陸へ入って、車窓から見える風景に、みな違和感を覚える。巨大な黒い水晶が至る所でまるで植物のように群生しているのである。


「何だあの水晶は」


「不気味ね」


 アルフレッドとアリシアは言った。


「バトロティア帝国に来たことは何度かあるが、こんな風景ではなかったな」


 エイブラハムは応じる。


「闇の手勢が関係しているのかしら」


 クラリスが疑問を投げかける。


「闇の魔術によるものか何か……分からないな」


 エリオットは思案顔。


「皇帝に謁見すれば疑問も解けるだろう」


 エイブラハムが言って、みな水晶の群生を目で追う。


 そうして、一行は帝都ヴィスレスティアへと入った。



 驚いたことに、黒水晶は都の中でも群生している。エルフたちは気にする風もなく行き交っているが。


 アルフレッドらは水晶に近付いてみた。


「これは……」


 禍々しい気配を察して、アルフレッドらは後退した。


 それから馬車に乗って皇城へと向かうのだが。帝都のあちらこちらに黒水晶が見える。帝都の民は水晶と共生していて、それなりの活気があった。


 城の近くで下車したアルフレッドらはその姿に驚いた。天に向かって光輝くとてつもなく巨大な大樹が城の上方から伸びているのだ。その根は城の外壁を伝い、大地へ根を下ろしている。


 城に到着したアルフレッドらは、衛兵に用向きを伝える。


「残念だが、皇帝陛下は皇妃様と共に黒水晶に封印されてしまった。謁見は叶わない」


 絶句するアルフレッドら。


「我々は神光の戦士としてこの国の闇を払う使命も帯びている。今国を動かしているのは誰か」


 エリオットが言った。


「帝国宰相チェスター様が、皇子ウォルト殿下と皇女パトリシア殿下を支えておられます」


「では宰相閣下と皇子殿下、皇女殿下とお会いしたい」


「どうぞお通り下さい。謁見の間は正面主城の二階の最奥です」


「ありがとう」


 エリオットが礼を言って、一同謁見の間に向かう。



 謁見の間は込み合っていて、陳情に訪れるエルフの臣民でごった返していた。宮廷人がお喋りをしていて、二つの玉座には皇子と皇女が座っており、傍には帝国宰相が控えている。


「諸君らは今日何用かね」


 案内人のエルフの侍従がやってきて、アルフレッドらに問う。


「俺たちは神光の戦士だ。神々の神託に従い、この国へやってきた」


「神光の戦士……」侍従はアルフレッドらを見て、テレビで見た顔を思い出した。「これは……まさかそのような方々とは存ぜず。すぐに取り計らいます」


 侍従はアルフレッドらの前を辞すると、宰相の下へと向かって行った。


 程なくして、謁見は打ち切られ、臣民たちの不満の声が上がる中、アルフレッドらは中に通された。残っているのは宮廷人と壇上の皇子と皇女、宰相、それから帝国騎士団長エスメラルダ、帝国魔法兵団長ノーマンを始めとする将軍ら政府首脳であった。


 アルフレッドらは進み出ると、膝をついた。


「謁見を許可して頂き、ありがたく存じます。我々は光の神々の神託によりここへ参りました。力になれるはずです。帝国の状況を教えて頂けますか」


 アルフレッドが言うと、皇子ウォルトがまず言った。


「膝をつくことはない。立ちなさい神光の戦士たちよ」


「は……では」


 アルフレッドらは立ち上がった。


「自己紹介からしよう。私は皇子ウォルト、そちらが皇女パトリシア」


「お初にお目にかかります」


 パトリシアは軽くお辞儀した。


「そしてこっちが帝国宰相チェスター」


「初めまして神光の戦士たち」


 チェスターは会釈をする。


「それからそっちの武官が、帝国騎士団長エスメラルダ、帝国魔法兵団長ノーマンだ」


「初めまして。勇名は聞き及んでおります」エスメラルダは言った。


「同じくです。どうぞよろしく」ノーマンは簡潔に言ってお辞儀する。


 そうして、アルフレッドらも自己紹介をしておく。


「失礼ながら、お尋ねしますが、皇帝陛下と皇妃陛下は水晶に封印されたという話を聞いたのですが、どういうことでしょう」


 アルフレッドが問うた。


「それは……」ウォルトが視線を後ろに投げた。「あれを御覧なさい」


 玉座の後ろには二本の巨大な黒水晶柱が立っていて、中に人が見える。


「あれが私たちの父と母です」


 パトリシアが言って、顔を曇らせる。


「一体何者がそんなことを」


 アリシアが問う。


 するとチェスターが説明してくれた。


「事の始まりはある宮廷魔術師の女だ。その者の名はワドエルティナ。黒呪の魔女、またの名を闇の公爵夫人。我が国を攻撃する闇の軍勢の総司令官だ。国を蝕む黒水晶の対策のために陛下がかの魔女を招集なさったのだ。最初はアドバイザーとして陛下にお仕えしていたのだが、ある日正体を現し、兵を引かねば皇子殿下と皇女殿下を黒水晶に封印すると脅してきた。だが、ワドエルティナは条件を持ち出してきた。皇帝陛下と皇妃陛下が身代わりになるのであれば、兵の進軍を止めても良いとな。そこで、陛下方は我が子の身代わりとなって、あの呪いの黒水晶に封印されてしまったのだ。黒水晶の呪いを解く方法は二つ。皇子殿下と皇女殿下がワドエルティナに身を差し出すか、あるいは、あの魔女の居城ガンダンパレスにある『真なる黒水晶』を破壊するかだ」


 そこでエイブラハムが言った。


「ここへ来る途中、魔弾鉄道から国土を蝕む黒水晶が群生しているのを見てきた。あれも黒呪の魔女の仕業か」


「そうだ。あれは、我が国の生命線、聖樹リルデア=スーの力の流れを封じ込めているものだ」


「というと?」


「この城の上にそびえ立っている大樹は見たであろう。あれが我々エルフ族の生命の源、聖樹リルデア=スーだ。その根は大陸全土に伸びており、我々の活力を司っているのだ。さすがのワドエルティナも、この城の大樹を封じ込めることは出来なかったが、大陸全土に伸びる大樹の根を黒水晶によって封じ込めているのだ。その呪いは僅かではあるがここ城のリルデア=スーの大樹にも影響を及ぼしつつある。もしリルデア=スーが枯れ果てるようなことがあれば、我々は滅亡するだろう」


 チェスターは言って吐息した。


 そこでエリオットが口を開いた。


「そう言えば、国の南へと向かう魔弾鉄道は魔物に破壊されたとか」


「うむ。そうだ」チェスターは頷いた。「今は以南の他国との往来は船を用いて行われている」


 その時だった。上方から光が降ってきて、コーラスが鳴り響き始めた。光の神々だ。


 謁見の間はざわめく。


「これは……もしや例の光の神々、神託か」


 チェスターは言った。


「そうです」クラリスが応じた。「来てもおかしくないタイミングですわ」


 そうして、神々の声が謁見の間に響いた。


「エルフ族たちよ、希望はあります。ガンダンパレスの真なる黒水晶を破壊するために、神光の戦士たちが遣わされました。これは天命。そしてアルフレッド、アリシア、エリオット、クラリス、エイブラハム、あなた達は天命に従い動きなさい。このエルフの帝国を救うのです」


 謁見の間は静まり返っている。誰もが神々の言葉に聞き入っている。


「ウォルト、パトリシア」


「はい、神々よ」


「あなた達の両親は必ず戻ってきます。希望を失わぬよう。真なる黒水晶を破壊すれば、この大陸の全ての黒水晶は消滅します。リルデア=スーは力を取り戻すでしょう」


 さて、と神々は本題に入った。


「神光の戦士たちよ、新しい仲間を紹介しましょう。帝国騎士団長エスメラルダ」


 エスメラルダは、最初自分が呼ばれたことに気付かなかった。


「エスメラルダ、君だよ」


 ウォルトが言った。


「私が?」


「そうですエスメラルダ。あなたには天命があります。神光の戦士としての天命が」


「まさか……この者達と共に行けと?」


「そうです。それこそ天命。世界にはあなたが必要なのです」


「しかし私は帝国騎士団を預かる身。旅に出る余裕などないかと存じますが」


「それは問題ありません。将軍達は優秀です。あなた無しでもやっていけるでしょう。それに何より、神霊封印に必要な魔剣を使えるのはあなただけなのです」


 そこで、将軍たちがエスメラルダを後押しした。


「閣下。大丈夫です。ノーマン様もおられる」


「それに、神光の戦士には重要な役割がありましょう」


「閣下にしか成せぬことです。それまで、必ず帝国は守ります」


 そうして、エスメラルダは吐息した。


「では、いいでしょう、引き受けましょう。その大役が私に務まるのでしょうか」


「魔剣レーヴァテインとパワーストーンを授けましょう。さあ、受け取るのです」


 すると、光とコーラスと共にパワーストーンが合成された魔剣がゆっくりと降ってきた。


 エスメラルダはレーヴァテインを手に取った。


「これは……何という軽さ……それにこの力は……」


 神々はそれからパワーストーンについてエスメラルダに説明をした。


 レーヴァテインには神気の霊鎧、超人化、地水火風雷ランク五、各種回復魔法ランク五、各属性耐性ランク五、剣技・覇皇斬、剣技・精霊皇牙、魔力・極が合成されていた。


「神光の戦士たちよ、まずは侵略されたエルフの都市を奪還するのです。戦線を押し上げ、闇の軍勢を後退させることです。そして、最終目標は、ガンダンパレスにいる魔女ワドエルティナを倒すことです。簡単ではないでしょうが、この国を救わねばなりません」


「いつものことです、やるしかないでしょう」


 アルフレッドは言って、エスメラルダに向かった。


「新たな仲間というわけだ。よろしくエスメラルダ」


「ああ。まだ何とも実感がわかないが」


 ところで、とエイブラハムが切り出した。


「戦況はどうなっているんだ」


 エスメラルダは厳しい表情を見せる。


「正直劣勢だ。北、東、南の都は敵の侵入を許して市街戦になっている。西の都はまだ持ちこたえているが。それも危険な状態には変わりない」


 そこで神々の声が響いた。


「神光の戦士たちよ、やることは明らかです。まずは各方面軍の指揮官を倒すことです。指揮官を倒せば魔物たちの士気は崩壊します。一挙に押し返すことも可能でしょう。エスメラルダ、祖国を救うのです。さあ行きなさい。我々は次のコンタクトに備えて天命を見定めましょう……」


 そうして、光とコーラスは去っていった。


 エルフたちは今のやり取りを携帯端末で撮影していて、早速動画共有サイトやクラウドにアップしていた。


「いやはやたまげたな」


 チェスターは言って、撮影した動画を見ていた。


「あんな凄い神霊力を感じたのは初めてだ」


「本当だな」


「正直鳥肌が立ちました」


 ウォルトとパトリシアも動画を見ている。


「それで」と、エイブラハムが言った。「どこから攻勢に転じるんだ。騎士団長の意見は」


「まずはまだ持ちこたえている西の都ドーガンドファリス方面だな。敵将はドルガルモスという奴だ。異形の漆黒戦士で、再生能力を持っている異様にタフなパワーファイターだ。その側近たちも似たような奴が集まっている。だがドルガルモス含め、一部魔法を使う奴もいる。その他の一般兵はオークやゴブリンやトロルなどだが、魔法戦士や魔術師たちもいる。竜に騎乗した強力な戦士もいる」


「こちらの編成は?」


「我らエルフは魔法も剣、弓も操るが、特に強力な魔術の才ある者が魔法兵団に、剣技に優れた者が帝国騎士団に属している」


「なるほど、それだけの戦力がいて、なお押されるか」


「闇の軍勢は多勢に無勢だ。エルフ族は元々少数民族だからな。本来なら他国に援軍を要請するところだが、今はどの国も自国を守るだけで限界だろう。仕方のないことだ」


「分かった、西の都ドーガンドファリス方面へ向かうとしよう」


 そこで、エスメラルダはノーマンや将軍に声をかけた。


「ノーマン、魔法兵団から一軍団を要請する。ダイアン将軍、バーニー将軍、卿らには我々と共にドーガンドファリスへ向かってもらう。出立の用意を整えよ」


「承知しました」


 両将軍は敬礼すると謁見の間を出て行った。


 ノーマンはデニス将軍に出立を命じる。彼もまた謁見の間を出ていく。


「では、我々は先に発つとしよう。まだ魔弾鉄道が使える」


 エスメラルダの言葉にアルフレッドらは頷く。


 そうして、エスメラルダを加えた六人の神光の戦士たちは、魔弾鉄道に乗り込み、ドーガンドファリスへと向かうのであった。

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