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第二十一話

 傭兵たちを乗せた魔弾鉄道がノイザラファルトを次々と発ち、アルフレッドらはそれを追って同じく鉄道に乗り込んだ。


 同乗していた傭兵たちが歩み寄ってくる。


「エイブラハム、例のクラウドの映像を見たぞ。デイモンが魔物だってのは本当なのか」


 元傭兵王は頷いた。


「ああ、その通りだ。全て仕組まれていた。デイモンにとっては傭兵団はどうでも良かったんだ。神光の戦士である俺を抹殺するために傭兵団を作り上げ、俺を傭兵王に祭り上げた。最初から俺を殺すつもりだったんだ」


「じゃあ……俺たちが激発するのは、計算済みってことか」


「そうだろうな」


「だがそうすると、政府の主要人物も闇の手勢と関係があるんじゃないのか。そう考えるのが自然だろう? デイモン一人で全てを仕組んだとも思えない」


「ああ。だが、デイモンは自分は独自に行動していたと言っていた。それが嘘とも思えなくてな」


「とにかくそうなると、俺たちはとんだ間抜けな行動を起こしたことになるな。闇の手勢に乗せられて、事を成したとすると」


 そこでエイブラハムの携帯端末が鳴った。


「エイブラハムだ」


 通話先はサブリーナだった。


「エイブラハム、例のクラウドの映像を見たよ。あんた今どこにいるんだ」


「お前たちを追って魔弾鉄道に乗っている」


「そうか。こっちはこっちで大変なことになっている」


「どうした」


「闇の結界が無数に現れて、魔物の大群が線路を塞いで、戦闘状態に入っている」


「いいタイミングだな」


 そこで、アルフレッドらが乗る鉄道が急停車した。車内アナウンスが流れる。


「前方に別の車両が停車しており、先へ進むことが出来ません。状況が確認されるまで、お客様には車内にて待機して頂きますようお願い致します」


「そんなこと言ってられないだろう」


 エイブラハムが状況を説明し、仲間たちを促す。


「確かに絶妙のタイミングだな」アルフレッドは思案顔。「とにかく、魔物たちを駆逐するのが先だろう」


「それじゃあ、早く下りて行きましょう」


 アリシアが言って、クラリスが応じた。


「飛んでいきましょう。みんなに魔法かけるから」


 そうして、クラリスは全員に高速飛行の魔法をかけた。


「よし、行くぞ」エリオットが頷いた。「エイブラハム」


「ああ」


 五人は列車の扉をマニュアル操作で開けると、空に舞い上がって傭兵たちが戦っている最前線へと向かった。



 その頃、首都テレンスマージスにおいては異例の速さで件の法案が議会を通過しようとしている。


 首相レナルドのもとを、聖鷹騎士団の団長ラッセルが訪問してきたのはそんな時だった。レナルドは公邸の方にいて、これから議会に向かうところであった。


「レナルド首相、至急お願いしたき義が御座います」

「何かね。団長。君には間もなくこの国のごみを掃除してもらわねばならんのだがな」


「それは傭兵たちのことですか」


「そうだ。よく分かっているではないか」


「その件で、お話があります」


「何かね。もう今日中には投票があるのだ」


「レナルド首相、私も無論議会を軽視するわけではありません。ですが、傭兵団をこれ以上刺激するのは、騎士団を預かる者として、看過することは出来ません。このままでは国内は内戦に突入します。騎士団にも傭兵にも多大な傷が残りましょう。これまでうまくいっていたものをなぜ変える必要があるのですか? 首相には本心で傭兵たちと我が騎士団が相打つことをお望みですか」


「君、自分が誰に向かって言葉を聞いているか分かっているのかね」


 レナルドの声が鋭さが増す。


「は……それは……」


「君は軍人だ。政治に首を突っ込む暇があったら、聖鷹騎士団の兵士たちの士気を高めておくのだな」


 ラッセルはしかしここで退かなかった。


「あえて申し上げます。首相のなさりようは、火のないところに放火するのと同義です。この国の最高指導者として、どうか考え直して頂きたい。まだ間に合います。傭兵団に寛大な処遇を。エイブラハムと対話の席について下さい」


「それはエイブラハムが決めることだ。それにしても、傭兵団に寛大な処遇と言っても、反乱を起こそうと企てたのは傭兵団だ。これを未然に防止するのは国のリーダーの務めだとは思わんのかね」


「聞くところによると、その情報は出どころが曖昧なものだと聞いております。どこから出た話ですか」


「団長、いい加減にしたまえ。これ以上越権行為に及ぶとあらば、君を解任するまでだ。議会で君への弾劾決議を図ってもいいのだぞ」


 ラッセルは背中を氷のようなものが駆け抜ける感覚だった。


「…………」


「さあどうするね団長。まだ私と話がしたいかね」


 レナルドは余裕の笑みを浮かべていた。


「申し訳御座いません。言葉が過ぎたようです。お耳汚しを失礼しました。任務に戻ります」


「それが懸命だな。最新の情報によれば、傭兵たちはこの首都に向かっているそうだ。直ちに迎撃に向かうのが君の仕事ではないかね」


 レナルドが言うと、「承知致しました……」とラッセルは敬礼して首相の前を辞した。



 アルフレッドらが到着した時、既に戦闘は激化していて、無数の闇の魔法陣から魔物たちが溢れ出していた。ゴブリン、オーク、オーガ、トロル、ジャイアントらである。アルフレッドらは前線に降り立つと、剣技と魔法で魔物たちを次々と、葬り去っていく。


「それにしてもこのタイミングで魔物が現れるのはタイミングが良すぎるだろう」


 アルフレッドはエイブラハムと背中を合わせて言った。


「何が言いたい?」


「これも仕組まれたことじゃないかってことだ。闇の手勢が手引きしたのだとしたら、これは単なる陽動ではないかもしれない」


「だが何れにしてもこの魔物たちを放置は出来んだろう。まずは片付けてからだ」


「その意見には賛成だ」


 二人は加速すると、魔物たちを蹴散らしていく。


 アリシアは戦場にあって、エリオットとクラリスと話していた。クラリスは魔力・極千パーセントで魔法を連射していた。エリオットはこの乱戦から妹を守っている。


「ねえ、クラリス」


「何アリシア」


「さっきの動画だけど、クラウドだけじゃなく、動画共有サイトにもアップしておいたら駄目かしら」


「成程、それは良い考えね。全世界に発信することになるものね」


「だが、すぐに削除されるんじゃないか。傭兵団のクラウドとはアクセスする人間も数が違い過ぎる。闇の手勢がすぐに手を回すだろう」


「でも兄上、一瞬でもこの真実を白日の下に晒したら、国民の見る目は変わるのではないかしら」


「ふうむ……ではやってみるか」


「待って、すぐにログインするから」


 クラリスは携帯端末を取り出すと手っ取り早く自身の王女として使っている動画チャンネルにアップロードした。


 投稿してすぐにコメントが付き始め、動画の再生回数は急激に伸び始める。


 デイモンの正体に衝撃を受けるラオンメルド共和国の国民のコメントが次々に付いていく。ドルシアム王国の件もある。動画は瞬く間に拡散していき、傭兵たちは一杯食わされたのではないかというコメントまで付き始める。


 それからも戦闘は続き、闇の魔法陣から続々と魔物が現れるが、傭兵たちとアルフレッドらは退く構えを見せず、これらと徹底抗戦した。


 そうして、いつ終わるとも知れない戦いは、急速に終焉を迎える。魔物たちが退いていき、やがて完全に撤退していったのだ。


「どうしたのだろう敵は……」


 アルフレッドは憮然として、消滅していく闇の魔法陣を見やる。


 傭兵たちは歓声を上げて、勝鬨の声を上げた。



 戦闘が集結し、鉄道の運行再開を待つ傭兵たちの前に、新たな相手が姿を見せる。地平線に見えるのは騎兵隊である。ラッセル率いる聖鷹騎士団がついに戦場に到着したのだ。


 傭兵たちはざわめく。団長始め、幹部たちは部下を落ち着かせ、聖鷹騎士団の出方を見る。


 一方ラッセルは部下たちに戦闘隊形を維持するように命令すると、自身は副官や将軍を伴って傭兵団の方へ少数の兵でやってきた。


「何だ、何のつもりだ?」


 サブリーナの言葉に、エイブラハムは思案顔。


「戦いに来たわけではなさそうだな。幹部を集めろ。ラッセルを迎えるぞ」


 そうして、ラッセルは血気盛んな傭兵たちに向かって言った。


「私は聖鷹騎士団団長ラッセル! 政府の命令により諸君らを討伐せよとの命令を受けている!」


 そこまで言って、ラッセルはいったん言葉を切った。


「だが、私の独断で、この戦は無意味だと判断している! 傭兵団と戦うつもりはない! このような戦で死人を出せば、取り返しのつかない過ちを犯すことになる! まずは傭兵王エイブラハムとの会談を申し込みたい! エイブラハムはいるか!」


 そこで、エイブラハムは幹部たちを伴ってラッセルの下へ向かう。


「ラッセル、何かと忙しそうだな」


 エイブラハムが皮肉を言うのに、ラッセルは肩をすくめた。


「お前ほどではないがね」


「それで? あんたは何を求めてきたんだ」


「この戦を回避するためだ」


「何を望む」


「エイブラハム、お前が首都へ向かうのを支援したい。聖鷹騎士団が正式な客人してお前を首都に護送したとなれば、格好は付くのではないか」


「つまり、俺を連行するというわけか」


「形式的にはそうだ。お前は出頭命令を受けている。その護送役を我々が引き受けることにする。そうすればここでの戦は避けられる」


「中々良いアイデアだとは思うが……お前たち、どうだ」


 エイブラハムは元部下たちに問うた。


「私は政府を信用していない。首都に着くなり逮捕するつもりじゃないのか」


 サブリーナの言葉にロミーは頷く。


「その可能性は高いだろう? エイブラハム、危険だよ」


「だが、ラッセルの提案はここでの戦を回避できるものだ。時間稼ぎにはなる」


 マイルズの言葉にトラヴィスは思案顔。


「そうだな。時間稼ぎにはなる。だが、俺たちはどう動いたものか」


 そこでアルフレッドが口を挟んだ。


「ちょっといいか。ここでついさっきまで魔物たちが魔法陣で召喚されていた。そして聖鷹騎士団が現れるや撤退していった。偶然とは思えない」


「ああ」エリオットが言う。「俺もアルフレッドに同じくだ。デイモンの件がある。政府の中にまだ闇の手勢が巣食っていると考えるべきだろう。都合がよすぎる」


「だったらこうしたらどう」アリシアが言った。「闇の手勢が狙うのは神光の戦士よ。つまり標的はエイブラハムだったってこと。だから、エイブラハムに私たちも同行するの」


「それいい考えよ。私たちが一緒にエイブラハムと行動を共にすれば、敵にしてみれば願ったり叶ったりでしょう。何かリアクションがある可能性大よ」


 クラリスが言った。


「成程な……それに賭けてみるか。そもそも敵の狙いは政治的な思惑なんかじゃない。俺達神光の戦士の命だ」


 エイブラハムは言って、アルフレッドらを見やる。


「どうやらこの作戦で行くしかないようだな」


 アルフレッドは言った。エイブラハムは口許を緩める。


「すまん、付き合わせる。そういうわけだラッセル。政府に連絡を。俺を護送することになった件、そして、四人の神光の戦士も俺と行動を共にすることになったとな」


「分かった。お前たちに賭けてみよう」


 ラッセルは頷く。


 それからエイブラハムは、部下たちにひとまずそれぞれの地域に帰還するように告げる。


 かくして、五人の神光の戦士たちを伴って、聖鷹騎士団は首都テレンスマージスに帰還することになる。最悪の事態、流血は回避されたのである。

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