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第二十話

 首都テレンスマージスに到着した一行は、エイブラハムの希望で国防省へ向かうことになる。まずは防衛大臣と話し合うつもりであった。


 ところが、馬車を下りたところで、街頭スクリーンに首相のレナルドが現れ、「全国民の皆さんへ。テレビやラジオの前に集まって下さい。これから重大な発表があります」と、何やら演説を始めた。アルフレッドらは立ち止まってスクリーンを見上げる。周囲の人々も立ち止まって何事かとスクリーンに目をやる。


「つい先ほど、閣議決定により、昨今世間を騒がせている傭兵団の問題について、結論が出ました。情報によれば、各傭兵団は政府に不満を抱き、反乱寸前のところまで事態は悪化していることが確認されました。これにより、政府としては傭兵団の解体をここに宣言するものであります。傭兵たちは共和国の正規軍に入隊し、これに従わない者は反逆罪を適応することになります。すでに議会の方でもこの決定を満場一致で通過する見通しであり、これは法的根拠によるものであります。また、傭兵団長を束ねてきたエイブラハムには直ちに首相府への出頭を命じます。今、共和国は危機にあります。傭兵団には冷静な対応を求めるところであります。この件については国民の皆様も懸念されていたことと思います。重ねて申し上げるところでありますが、傭兵団には冷静な対応を求めるところであります。以上です」


 アルフレッドらはしばし言葉を失っていた。


「エイブラハム、どうする気だ」


 アルフレッドの問いに、エイブラハムは小さく吐息した。


「分からん」


「出頭するのはやめた方がいいと思う」アリシアが言った。「みすみす殺されに行くようなものよ。危険すぎるわ」


「そうだな」エリオットも応じる。「連中はそれくらいやりかねない」


「とりあえずここを出ましょう」


 クラリスが言った時、エイブラハムの携帯端末が鳴った。


「エイブラハムだ」


 通話の向こうは北の都ノイザラファルトの傭兵団モーニングスター団長のトラヴィスであった。


「よおエイブラハム、今のを見たか」


「ああ、もちろんだ」


「それなら話早い。すぐにモーニングスターに来てくれ。傭兵団はノイザラファルトに集結することになった。まだ決まっちゃいないが、幹部クラスで今後の対応を話し合うことになった。あんたも来てくれ」


「分かった。すぐに向かう。早まった真似をするんじゃないぞ」


「とにかく、急いでくれ」


 そうして通話は切れた。


「誰だって?」アルフレッドは問うた。


「モーニングスターのトラヴィスからだ。すぐに北の都へ向かうことなった。お前たちも来てくれ」


「分かった」


 アルフレッドらはエイブラハムに同意する。みなフードにマスクを深くかぶり、人目を避けている。


 事態は急転し、一行は魔弾鉄道に乗り込み北の都へ向かった。



 国内の緊張が高まる中、アルフレッドらはノイザラファルトに到着する。彼らは急ぎモーニングスターへと向かう。


 彼らが着いた時、すでに多くの傭兵団員が集結しており、いつ爆発してもおかしくない空気であった。多くの者が携帯端末でレナルドの演説を見ており、憤りを隠せないでいた。


「何が議会の採決だ!」


「てめえら世論操作したからだろうが!」


「ふざけやがって! こんな政府はぶっ潰してやる!」


 エイブラハムらはフードとマスクを脱いだ。傭兵たちは元傭兵王の顔を見て驚き、そして怒りを爆発させた。


「エイブラハム! 来てくれたんだな!」


「あんたも勿論この決定には反対だろう!?」


「政府に目にもの見せてやろうぜ!」


「首都に進軍だ!」


 エイブラハムは手を上げて、仲間たちに呼びかけた。


「みんな、ひとまず落ち着くんだ。このままお前たちが激発すればその場でこっちは国賊になる。ことを急くな。あるいはそれが政府の狙いかも知れんのだ。とにかく、今は待て。団長たちとまずは話す。いいな」


 エイブラハムの言葉に、ひとまずトーンダウンする傭兵たち。


「行こう」


 エイブラハムはアルフレッドらと共にモーニングスターに入った。この傭兵団支部の中でも傭兵たちが酒を飲みながら騒いでいた。


「おおエイブラハムだ!」


「俺たちの傭兵王!」


「エイブラハム! あんたの命令一つで俺たちは命を預けるぜ!」


 ここでもエイブラハムは元部下たちを落ち着かせる。


「馬鹿を言うんじゃない。政府に乗せられるんじゃない。まずは酒をさませ。落ち着くんだ。いいな」


 尤も傭兵たちは簡単には冷静さを取り戻しそうになかった。


 エイブラハムらは奥の部屋に入った。すでにトラヴィスの他、サブリーナ、ロミー、マイルズ他、幹部たちが集結していた。


「来たねエイブラハム」サブリーナが口を開いた。「これからどうするかだけど、もう答えは出ている」


「ああ」マイルズが応じた。「ここまで政府になめられて黙っていられない。首都へ進軍するぞ」


「そうさ」ロミーも続く。「これは政府に私たちの本気を見せるための圧力さ。一戦交えることも辞さないってね」


「あんたはどう思うんだエイブラハム」トラヴィスが問う。「無論反対なんて言わないだろうな」


「…………」


 エイブラハムは沈思の後に言った。


「ことを起こせば、世論は完全に政府に傾くだろう。政府としてもお前たちを討伐する大義名分を手に入れることが出来る。それでもやるというのか。内戦だぞ」


「じゃああんたは、政府の要求を飲めってのかい」


 サブリーナが言う。ロミーも語調を荒げる。


「こんな馬鹿な話はないだろう。あっちは一度もこちらと話し合う機会を与えなかったんだよ。一方的だと思わないのかい」


「それでもだ。今からでも遅くはない。政府と話し合う機会を要請するんだ。このままでは国内が滅茶苦茶になってしまう。人間同士で争っている場合じゃないだろう」


 エイブラハムは言った。


「しかし」トラヴィスが言う。「そのテーブルに乗せるための軍事行動でもあるんだ。今のままじゃ政府は、首相のレナルドは俺たちを歯牙にもかけないだろう」


「その通りだ」マイルズも言う。「軍事力を行使するのは政府に譲歩させるためのものだ。俺達だって聖鷹騎士団と戦うなんて考えたくない」


「やろうエイブラハム」


「そうさエイブラハム」


「エイブラハム」


 幹部たちはエイブラハムに迫った。エイブラハムは吐息して口を開いた。


「レナルドは俺に出頭命令を下している。俺が首相と話す。お前たちは待機していろ。万が一、俺が謀殺されたのなら、その時は逃げろ。反乱軍のレッテルを張られたら、これから誰もお前たちを雇ってくれないぞ」


「馬鹿なこと言うんじゃないぞ」


「あんたが殺されたりしたら、それこそ政府に対して反旗を翻す時だろう。こんな国は潰してやる」


「やめるんだ!」


 エイブラハムは語気を荒げた。


「いいか、俺が首相府に出頭する。馬鹿な真似はするんじゃないぞ」


「…………」


 思い沈黙の帳が下りた。


 そこで、扉が開いて、傭兵の一人が駆け込んできた。


「テレビを! 早く!」


 アルフレッドがリモコンでテレビをつけると、進軍を開始する傭兵たちの姿が映し出された。


「どこだここは」


「ノイザラファルトです、ここです。部下たちの一部が収まり切らずに進軍を開始しました。その人数は徐々に増えています」


「くそっ」エイブラハムは悪態をついた。「みんな、行くぞ。すぐにやめさせるんだ」


「…………」


 しかし幹部たちは思案顔だった。


「お前たち……」


「俺たちは行くぞ。首都へ向かって進軍だ」


「そうだ。部下たちだけを死なせてたまるか」


「私もさ。進軍だ!」


「行こうみんな! 政府に思い知らせてやろう!」


 幹部たちは「おお!」と声を上げて部屋から出て行った。


 取り残されたエイブラハムとアルフレッドらは、しばらく言葉が出なかった。


「エイブラハム……」


 アルフレッドが声をかける。


「これからどうする」


「どうしたものか。俺にも分からん」


「万事休すか」


 そこで、エイブラハムの携帯が鳴った。デイモンからだった。


「デイモン?」


「ああ、エイブラハム。テレビは見たよ。大変なことになったな」


「ああ。それで? 今更何の用だ」


「少し話せるか。私としてもこのまま事態を静観することは出来ん。ここまで育てた傭兵団だ。傭兵たちは我が子も同然だ。政府に掛け合ってもい。時間稼ぎに手を貸そう。お前は何としても傭兵たちを止めろ。とにかくだ、今すぐ会おう。都内外れのマテール公園に来い」


「分かった」


 エイブラハムはその旨をアルフレッドらに告げた。


「デイモンが? 何か妙案があるのか」


「しかし今更どうする気だ」


「私たちも後ろをついてくわ」


「そうね。何が起こってもおかしくないわ」


 そうして、一行はマテール公園に向かった。



 公園にはデイモンが待っていて、ベンチに座っていた。エイブラハムは一人でそこへ歩み寄った。アルフレッドらはその様子を公園近くの木立に身を隠して伺っていた。クラリスが携帯端末で撮影している。


「デイモン」


 エイブラハムが声をかけた。


「エイブラハム、来たか」


「それで? 話ってのは? こちらも手詰まりで時間が無い」


「いい知らせがある」


「と言うと?」


「元傭兵王のエイブラハムは、この悲劇を食い止めようと奔走したが、過激派の手によって殺されてしまった。どうだ。中々に涙を誘うシナリオではないかね」


「あんた一体何を言ってるんだ」


「神光の戦士には、死んでもらわねばならん。残念だよエイブラハム」


 そうして、デイモンは立ち上がり、エイブラハムの方を向いた。そして何と、デイモンの肉体は巨大化していき、その姿は漆黒の異形闘士へと変貌した。


「デイモン……貴様、闇の手勢だと」


「俺はドレ=プラクス。尤も、今更俺の正体を知っても仕方あるまい。お前はここで死ぬのだからな」


「では……今まで傭兵団を育ててきたのはなぜだ」


「お前だよエイブラハム。お前が神光の戦士である可能性を無視できなかったのだ。そこで一計を案じ、いざことが起こったのであれば、お前を排除できるように下準備を整えていたというわけだ」


「政権にこのことに関わっているのは誰だ。他に闇の手勢がいるのか」


「知らんな。知っていたとしても教えるはずがない。何れにしろ、この国では俺は独自に動いていた。全てはお前を排除するタイミングを待っていたのだ」


「その計算は当てが外れたぞ」


 そこでアルフレッドらが現れた。


「貴様ら! 神光の戦士?」


「そういうことだ。ドレ=プラクスとやら。今のはばっちり撮影させてもらったぞ」


「これはちょうどいい。お前らをまとめて抹殺すれば、これ以上の戦果はない」


 ドレ=プラクスは笑声を上げると、咆哮して全身から闇のオーラを放った。


 エリオットの光剛破断による光のシールドでそれを受け止める。


 クラリスの属性看破で、通常攻撃が効かないことを知る。弱点は風属性。クラリスはそのことをテレパシーで味方に告げる。


「了解した」


 すでにクラリスによってバフを得ているアルフレッドとクラリスが飛び出す。


「剣技・無刃、風斬り」


 アルフレッドはアクロバットに超加速し、ドレ=プラクスを風属性で切り刻んだ。大ダメージが入る。


 アリシアも「剣技・風陣連弾に乗せて竜神の吐息・風」を放つ。風のドラゴンブレスがミスティルテインから連撃でほとばしる。ドレ=プラクスの肉体を切り裂く。


 エイブラハムもまた超人化でアクロバットに空を蹴ると、「剣技・衝烈風牙」でこの闇の闘士を凄絶に斬る。


 ドレ=プラクスはざらついた笑声を上げる。


「どう見破ったのかは知らんが、この程度で俺様が死ぬと思うな、雑魚ども!」


 ドレ=プラクスは拳を突き上げると、「真・波動砲!」と全方位に衝撃波を放った。物凄い威力で、アルフレッドらは一挙にライフを削られた。全員回復魔法で治癒する。


 クラリスは多重詠唱に入り、魔力・極千パーセントで魔法範囲広域化し、全員にバリアを展開する。すぐにポーションで魔力を回復させる。


「貴様らに勝ち目はない!」


 ドレ=プラクスは続けて「真・波動砲」を撃ってくるが、その巨大な攻撃はバリアによって防がれた。


 アルフレッドは「剣技・切滅八連・風斬り」で、風のクリティカルヒットの八連攻撃を浴びせかける。ドレ=プラクスの肉体から血しぶきが飛ぶ。アリシアは「剣技・風陣連弾・風の魔天狼」でドレ=プラクスを貫く。クラリスは「暴風烈、嵐斬」と風斬りの魔法を叩き込む。さらにエイブラハムの衝烈風牙が続き、エリオットはクラリスの盾となって構えた。


 ドレ=プラクスは「真・波動砲・マックス」と咆哮して腕を突き上げた。バリアが砕け散る。アルフレッドらは吹き飛ばされた。


「くそ、何て奴なの。兄上、しっかり」


「大丈夫だ」


 クラリスはもう一度バリアを展開する。


 ドレ=プラクスは膝をついて肩で息をしている。


 アルフレッドらは一気に畳みかける。激烈乱舞・風の舞、風陣連弾・風の連撃、衝烈風牙、そして、エリオットは仲間たち全員に聖盾をかけ、自身は「神撃の盾」をまとい、最前に立った。全属性に対する巨大な光の盾である。


 クラリスはまたしても多重詠唱に入る。「魔力・極千パーセント。風雷精霊召喚、暴嵐竜巻刃」ほとばしる風雷精霊が渦巻く巨大竜巻がドレ=プラクスに襲い掛かる。


 ドレ=プラクスは絶叫して倒れた。竜巻が晴れて、ドレ=プラクスは地面に這いつくばっていた。


「馬鹿な……俺がエイブラハムごときに……人間に……」


 ドレ=プラクスの肉体が崩壊していく。この魔物はパワーストーンを落としていった。真・波動砲、肉体硬質化、そして諸々のポーションである。エリオットが真・波動砲と肉体硬質化を合成した。


「やったな。これを傭兵たちに見せればこれが闇の手勢による謀略だって証拠になる。時間は稼げるよ」


 アルフレッドの言葉に、エイブラハムは思案顔。


「これで終わりだといいんだが……」


 そう言いつつも、エイブラハムはクラリスに映像をクラウドにアップロードしてもらう。


「ひとまず前線に急ごう。まだ間に合う」


 エイブラハムらはその場を後にする。傭兵たちのもとへ急行するのであった。

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