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第十八話

 イスカルティアに到着した一行であったが、駅のコンビニで週刊誌を購入してその内容に目を通していた。それは、これから訪ねる傭兵団ティアズオブレインの団長ロミーの政権批判のコメントだった。昨今ネットに出回っている傭兵団への批判コメントに反する内容であった。だが悪いことにその言葉にを逆手にとってロミーを危険人物であるかのように仕立て上げる記事内容が掲載されている。


「ロミーの奴め、挑発に乗ったな」


 エイブラハムは吐息した。


「これじゃ政府に喧嘩を売っているようなものだな」


 エリオットの指摘にエイブラハムは頷く。


「まあ、喧嘩するなとは言わないが、このタイミングではな。世論の支持を得にくいのは確かだな。しかし……最近の動きと言い、メディアは政府の味方についているな。こちらにとって都合のいいことは何も取り上げていない」


「何か、背後の事情があるのかもな。無責任なことは言えないが」


 アルフレッドは言った。エイブラハムは思案顔。


「いや、メディアが政府の側に立っているのは確かだろう。こうもロミーをこき下ろす内容の記事が出回っている以上、それは間違いないだろうな。思っている以上に事態は深刻かも知れん」


 エイブラハムはまた吐息した。


「まあ、とりあえず、傭兵団支部へ行こう」


 そうして、エイブラハムらは馬車に乗ってティアズオブレイン本部へと向かう。



 例によってティアズオブレインではアルフレッド達は傭兵たちから騒々しい歓待を受ける。傭兵らはみな酔っていて、明るいうちから酒が入っている。


 アルフレッドらは彼らの相手をしてからロミーの下へと向かう。


 執務室で仕事をしていたロミーはエイブラハムの顔を見て立ち上がった。


「ようエイブラハム。よく来てくれたね。ノイザラファルトでの活躍は見たよ。そっちの英雄たちのこともね」


 この女団長は白い歯を見せて笑った。


「ロミー、週刊誌は見たか」


 エイブラハムは雑誌を取り出した。ロミーは吐き捨てるように吐息して肩をすくめた。


「全く、週刊誌は信用ならないね。でっち上げもいいことさ。私が言ってないことまで書いて歪曲して記事にしている。政府批判に反論する私を一方的に叩く記事を載せるなんてさ」


「そうか……」


 みな閉口してしまった。


「まあいいさ。ここで私がうだうだ言っても仕方ないからね。ところで、あんた達がここへ来ることを知っていて、デイモンから伝言があるんだよ」


「デイモン? あのデイモンか?」


「ああ。魔剣使いが来たら、闘技場への参加を要請するように、とね」


「どういうことなんだ?」


 アルフレッドが問う。


「デイモンは次の闘技場大会で魔剣使いと魔物の戦いを仕切っていてね。顧客から大金をかき集めているんだよ」


「何だそれは。俺たちはサーカスの見世物じゃないぞ」


「そう言うなって。デイモンは金儲けがしたいんだろうけど。もう賭けは始まっているし、今から中止にはできないんだよ。それに、知っての通りあいつは私たちの最大の支援者だからね。断るに断れなくてさ」


 アルフレッドは吐息した。


「どうするみんな?」


 すると、ロミーは言った。


「ああ、ご免。言わなきゃならないことがある。今回出場するのはアルフレッド一人で、だ。デイモンのご指名だ」


「なんで俺が?」


「あんたら全員なら魔物に勝ち目はないだろう。とにかく出場はアルフレッド、あんた一人でとのことだ」


「エイブラハム、何とかならないのか」


「デイモンの顔は潰したくないからな。すまんが出てくれないか」


「あんたまでそんなことを言うなんて思わなかった」


「いざとなったら私たちが助けに入るわ。賭けなんて知ったことじゃないわ」


 アリシアは言った。


「ああ、その時は任せておけ」


「大丈夫よアルフレッド」


 エリオットにクラリスも同じく言った。


 そうして、アルフレッドはとんでもない事態に巻き込まれることになってしまった。



 闘技場大会当日。客席は満場で、熱気に満ちていた。オッズは約百に達しており、ほとんど誰もがアルフレッドの勝利を予想していない。


 闘技場に入場しているアルフレッドは客席の仲間たちを見て、それから戦闘服の具合を確かめる。エクスカリバーを抜くと、アルフレッドは呼吸を整えた。


 そこで、場内スピーカーからアナウンスが流れる。


「さあいよいよ魔剣使いが魔物に挑戦するよ! この無謀な挑戦者は……魔剣エクスカリバーを使うアルフレーッド!」


 勝手に挑戦者になっていることにアルフレッドは呆れ果てていたが、客席の熱気は更に高まった。


「それじゃあ早速始めよう! 第一回戦は、オーク百人だ! さあ魔剣使いは百人のオークに勝てるのか! ゲートオープン!」


 闘技場の四方にあるゲートが開いて、オークたちがなだれ込んできた。オークたちは人間に痛めつけられて殺気立っており、目の前のアルフレッドに向かって突撃した。


 アルフレッドはエクスカリバーに炎をまとわせると、剣技・無刃で加速した。炎の軌跡が流れる。凄まじい速度でオークの群れを貫通し、闘技場の壁を蹴って反転し、高速突進する。エクスカリバーがオークを瞬く間に真っ二つにしていく。血風の中に立つアルフレッドは、怯えるオークの残党を殲滅する。十分と経たないうちにオークの群れは全滅した。


 場内アナウンスがアルフレッドの勝利を告げる。


「何とこいつは凄い! オーク百人切りだ! 誰がこんな圧倒的な展開を予想しただろうか! ここで破産した人は御愁傷さまだね!」


 会場にはブーイングが吹き荒れる。そしてお構いなしにアナウンスは次の戦いを告知する。


「さあ挑戦者の次の相手は獰猛な獣たちだ! 今度も圧倒的な展開になるのか! それともアルフレッドは息絶えるのか! さあ出でよ三つ首の魔狼たち!」


 すると、今度は四方のゲートから、三つの頭を持った巨大な魔狼がそれぞれ一頭ずつ姿を見せる。


 アルフレッドは囲まれる前に動き出した。超人化で加速すると、剣技・激烈乱舞に乗せて剣技・聖天衝撃を連射した。光の衝撃が魔狼をばらばらにした。


「まずは一匹」


 そして次なる魔狼に向けて突進加速すると、同じく激烈乱舞に聖天衝撃でこの魔獣をばらばらにしてしまう。


「二匹目」


 そこで、接近する魔狼達が三つの口から火炎と氷、風刃のブレスを吐き出した。アルフレッドはブレスの直撃を受けて退避する。ポーションでダメージを回復する。


「剣技・無刃」


 アルフレッドは加速すると、魔狼を一体凄絶な連撃で切り刻みに切り刻んだ。


「あと一匹」


 そしてアルフレッドはここで魔狼の三つ首に火球を連射する。爆発と火炎が魔狼を焼く。超人化で飛び上がったアルフレッドは空を蹴って加速し、「剣技・切滅八連」によるクリティカルヒットの八連攻撃で魔狼を破壊した。


「おしまい」


 アルフレッドはエクスカリバーに着いた血を払った。


 またしてもブーイングの嵐が吹き荒れる。


 場内アナウンスも熱気を帯びる。


「さあ何と! この獰猛な獣たちもアルフレッドの敵じゃなかった! ここで破産した人は何人だー! さあさあ、いよいよ最終決戦だ! こいつを倒せばアルフレッドは闘技場の勇者だ! 伝説を残すのは挑戦者か! さあ行ってみよー! 出でよ最後の魔物! 悪魔の使者! ジャイアントヘル!」


 すると、しばらくして震動がして、闘技場の床が開いて、何かがリフトで持ち上げられてきた。その巨体が徐々に明らかになる。巨人だ。身長十メートルを越える、ぼろをまとった鎌を持った巨人が姿を現した。


「ふう……ついに俺様の出番か。久しぶりだな、人の肉を食らうのは」


 ジャイアントヘルは喋った。


 アルフレッドはエクスカリバーを構える。


「お前が最後か。魔物のくせに人間に使われているというわけか」


 ジャイアントヘルは笑った。


「利害の一致という奴よ。俺は人間と戦うつもりはないが、その代わりにこの都では大罪を犯した者を俺の好きにしていいことになっている。そうやって時々頂く人間と引き換えに、闘技場での最終ステージを任されているのだ」


「何とでもほざけ。魔物は魔物。ここでお前の歴史も終わる。そんなおぞましい慣例もな」


 アルフレッドは言った。ジャイアントヘルは笑う。


「さあて……そううまくいくかな。来い、人間」


 そうして、アルフレッドは加速する。エクスカリバーを連撃で叩き込む。ジャイアントヘルはそれらを鎌の柄で受け止め、想像を超える加速で反撃の一撃を打ち込んでくる。アルフレッドはそれを回避し、上空に飛び上がると、「火炎陣、壊弾」と、魔法陣を展開し、無数の火炎弾をこの魔物に向かって放った。炎の弾丸はジャイアントヘルに命中し、凄まじい爆炎を上げた。


 刹那。立ち込める煙の中からジャイアントヘルが飛び上がってきて、口から闇の波動を放ってくる。アルフレッドはそれを「剣技・聖天衝撃」で真っ二つに切り、そのまま光の衝撃をジャイアントヘルに叩き込んだ。斬られた魔物は初めて感じる激痛に悲鳴を上げた。


 着地するアルフレッドとジャイアントヘル。


「痛え……痛えよ……畜生……血が……」


「せめて痛みを感じることなく冥府へ送ってやろう」


「ふざけるな! この俺様が死ぬわけがあるか!」


「どうかな」


「このガキが!」


 ジャイアントヘルは加速した。


 アルフレッドは、「大地の鍵、束縛せよ」と魔法を行使する。ジャイアントヘルの足下から岩の鎖がこの魔物の下半身に絡みつき、その動きを封じた。


「何だと! 馬鹿な!」


「剣技・無刃」


 超加速したアルフレッドが凄まじい連撃をジャイアントヘルに浴びせる。そして、「剣技・切滅八連」の最後の一撃がその胸板を貫通する。


 ずたずたに切り裂かれ、心臓を貫かれたジャイアントヘルは喀血した。


「俺が……俺が……死ぬってのか……こんなガキの剣で……」


「終わりだ魔物。逝け」


 アルフレッドは軽く跳躍すると、エクスカリバーでその首を斬り落とした。


 静寂が場内を支配した。だが、それはやがてさざ波のような歓声から大声援に変わっていった。場内アナウンスも興奮していた。


「何と何と驚きだー! あのジャイアントヘルを倒してしまったよー! 新しいチャンピオンの誕生だー! その名は……魔剣使いのアルフレーッド! みんなー! 新しいチャンピオンに惜しみない拍手をー!」


 アルフレッドは闘技場を後にした。



 ティアズオブレイン本部で、アルフレッドらは集合していた。ロミーは賞金の百万クレジットをアルフレッドに手渡した。


「魔剣使いか。やるじゃないかあんた。気に入ったよ」


 ロミーは言って、その肩を叩いた。


「全く……とんだことに巻き込んでくれたよ」


 アルフレッドの呟きに、アリシアは少し嬉しそうだった。


「心配はなかったわね」


「しかし……これはデイモンの大儲けじゃないのか」


 エリオットの言葉にクラリスが頷く。


「でしょうね。総取りじゃないのあの人」


「奴さんの笑みが浮かぶよ。まあそれにしても、一人で良く戦ったな」


 エイブラハムは言った。


「これからどうするんだい」


 ロミーの言葉にエイブラハムは応じる。


「あとは南の都サーレシアフットの『ドラゴンブレス』団長マイルズを訪問してこの大陸を発とうと思っている」


「そうか……じゃあ、いよいよいなくなるんだね、エイブラハム」


「後は託すよ。俺は行かねばならん」


「でも私は待ってるよ傭兵王。王座の椅子はやっぱりあんたのものだよ」


 かくして一同はイスカルティアを出立する。アルフレッドは闘技場に伝説を残し、それは一部メディアが大々的に取り上げ、人々の記憶に鮮明に残ることとなった。

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