第十六話
某所。都内の高級レストランで二人の人物が向き合っていた。首相補佐官のハーマンと傭兵団パトロンのデイモンである。
「事態はうまく進んでいるようだな。今のところは」
ハーマンの言葉に、デイモンは「はい」と応じる。
「今は懐疑的な有力者達も、世論の後押しがあれば風向きも変わりましょう。その辺りはお任せ下さい。ところで議会の方ですが」
デイモンの言うのに、ハーマンは頷いた。
「議会の説得は任せてもらおう。お前は世論を傭兵団の敵に回すのだ。そうすれば、エイブラハムを排除するのも容易くなる」
「世論操作はお任せを。買収工作で何とでもなりましょう」
「ああ。頼んだぞ。そっちの件は任せておくからな」
二人はそうして密談に及んでいた。
西の都の傭兵団支部ナイトクロウを訪れたアルフレッドらは、予想以上の騒ぎに呆気にとられた。傭兵たちはあちこちで大声を上げて酒を飲み交わし、笑い合っては殴り合って喧嘩に騒々しい。男も女も傭兵たちは享楽的な様で、新聞記事のことなどまるきり無関心な様子であった。
「ここがナイトクロウだ。サブリーナのもとへ行こう」
エイブラハムは歩き出す。アルフレッドらもその後に続く。
「おい! エイブラハムだぜ!」
傭兵たちがエイブラハムに気付くと、騒ぎは大きくなった。
「エイブラハム! 何で傭兵王を辞めちまうんだ!」
「俺たちを見捨てるのか!」
「いいや! どこかでいい女でも出来たんだろう! そうだろう!」
それからも傭兵たちは言いたい放題言って、破顔一笑してまた戻っていった。
「あんた、大した人気者だな」
アルフレッドの言葉にエイブラハムは肩をすくめた。
「どうだかな。さあ、向こうだ」
エイブラハムは奥へと歩いていく。
扉の前に立っていた強面の男は、エイブラハムを見て一礼し道を開けた。
エイブラハムらは中へと入る。それから静かな廊下を歩いて、一つの扉の前で止まった。エイブラハムはノックする。
「どうぞ。開いてるよ」
中から女の声がした。
「サブリーナだ」
エイブラハムはアルフレッドらを伴って彼女の執務室へ入っていった。顔を上げた女は、席から立ち上がった。
「エイブラハム! この畜生め! 久しぶりだな!」
「ああ」
エイブラハムとサブリーナはハグした。
「それで、そっちの子らは?」
サブリーナはアルフレッドらに目を向ける。
「前に言っていた神光の戦士たちだ。みな魔剣使いでな」
「そうなのか? 世界を救う英雄様か。にしちゃ若いな。だけど、あんたらの戦いはテレビで見たよ。とんでもないパワーを使うんだな」
「サブリーナ、俺は彼らと行かねばならない。神託の件は前に見せただろう」
「あれか。残念だけど、仕方ないね。ただ一つ、確かめさせてくれ。神光の戦士の力をね。確かにテレビで凄い映像は見たけれど。どうだい、仕事を一つしていかないか。報酬は弾むよ」
サブリーナの言葉に、アルフレッドが応じる。
「仕事って、傭兵団の仕事か? それなら俺たちの出る幕じゃないのでは?」
「いや、あたしらも少し頭を悩ませている魔物がいてね。闇オーガのギガースが出たんだよ。それも四体。レルドアとの街道を塞いでしまってね。こっちも一度は討伐部隊を送り込んだんだが、撃退されてしまってね。死人が出なかったのが幸いさ」
「ギガースって何なの?」アリシアが問う。
「巨大モンスターの呼称さ。オーガだからって侮るんじゃないよ。体格は十メートル近くでパワーもスピードもガードもタフさもけた外れになっている。片づけてくれたら百万クレジット出すよ」
「そいつは凄いな」
アルフレッドらは軽く話し合って仕事を受けることにする。
「俺も一緒に行こう」エイブラハムが言う。「これから旅を共にする相手のパワーをこの目で見ておきたいからな」
こうして、アルフレッドらは仕事を引き受けることになり、ギガース討伐に向かうのだった。
五人は魔弾鉄道で移動してから馬に乗ってギガースがいるという街道へ。
「あれか……」見えてくる闇オーガの巨人たちに、エリオットは思案顔。「どんなものかな」
そしてクラリスが全員にバリアを張り、攻撃力と防御力上昇の魔術をかけておく。
「とりあえず巨人相手ならバリアは必須でしょ」
「よし、行くぞ」
アルフレッドらは馬を降りると、超人化の高速で闇オーガに突撃した。
神光の戦士たちに気付いた闇オーガたちは、咆哮を上げて加速突進してくる。その突進は予想以上に猛烈な勢いだった。
アルフレッドは闇オーガの拳を回避しながら剣技・切滅八連を叩き込む。八連クリティカルヒットは闇オーガの上体をずたずたに切り裂く。
高速飛行のパワーストーンを持つエリオットは上空から神聖魔術を打ち込む。
「神の刃を受けよ! 雷の天誅!」
激しい雷が魔物たちに降り注ぎ、その身を焼いた。
アリシアもまたアクロバットに闇オーガの拳を回避すると、風陣連弾と豪壮氷帝の連撃で敵の最大生命値を一挙に削り取った。傷跡に氷の結晶が舞い、闇オーガは悶絶する。
そうして、クラリスは上空に舞い上がると、巨大な火球を生み出す。魔力・極千パーセント。
「絶対爆炎、絶対獄炎、絶対烈炎、爆ぜよ」
クラリスが放った火玉は、爆裂して闇オーガたちを巻き込み焼き尽くした。
一方的に終わるかと思われた戦いであったが、魔物たちは変異し始める。四体の闇オーガたちは、一つ所へ集まっていき、合体していく。肉塊がうねうねとうねり、闇オーガは鎧に包まれた上級闇オーガに変化した。
この上級モンスターは咆哮して、闇の波動を全方位に向かって連射する。射程内にいたアルフレッド、アリシアは想定外のダメージを受けるがすぐさま回復する。
「やってくれるね」
アルフレッドは剣技・無刃で超加速すると、アクロバットに魔物の周囲を飛び、舞い、切り裂きに切り裂いた。
続いてアリシアが加速し、剣技・風陣連弾に竜神の吐息を乗せて、ミスティルテインからほとばしる吐息の連撃で魔物を焼き、凍らせ、切り裂き、打ち砕いた。
エリオットは上空から神聖魔術を行使し、光輝くマジックミサイルを放つ。怒涛の勢いで無数のミサイルが上級闇オーガを破壊する。
クラリスは再び魔力・極千パーセント。
「破壊の破弾、滅殺せよ、波動」
クラリスが放った破壊の波動がこの上級モンスターを貫通する。その肉体に穿たれた巨大な穴は、上級闇オーガにとっての致命傷でもあった。
そしてアリシアが光のパワーストーンを用いて一撃を放つ。
「来たれ光よ、我が魔剣に加護を。剣技・魔天狼」
ミスティルテインから放たれた輝く白き狼たちが闇オーガを貫く。爆発する閃光。
こうして、闇オーガは完全に消失した。
「終わったか。あれが光のパワーストーンか」
アルフレッドはアリシアを見やる。アリシアは軽く拳を突き上げて見せる。アルフレッドも拳を上げる。
ほとんど戦闘参加していなかったエイブラハムは歩み寄ってくる。
「さすがだな。撮影させてもらったぞ」
エイブラハムは携帯端末を見せた。
「仕事は終わったな。サブリーナへ報告へ戻るとしよう」
サブリーナは撮影された映像を見て、驚愕していた。
「驚いたね。魔剣使いってのはこんな戦闘力を持ってるのかい。ギガースを圧倒するなんてね」
約束通りサブリーナは百万クレジットを渡してくれた。
「その映像、クラウドにアップしておいてくれるかい。みんなに見せたいからさ」
「ああ。構わんだろうなアルフレッド」
「いいとも」
アルフレッドは肩をすくめる。
「ではなサブリーナ。俺はこれから他の団長にも彼らの顔を通しておくつもりだ。行くよ」
「分かったよ。あなたの本気もね。闇の帝王グラッドストンか……たどり着けるといいね」
それから部屋を出てまた傭兵たちがたむろする広間に出ると、早速クラウドの映像を見た傭兵がアルフレッドらに声をかけてくる。
若い神光の戦士たちは、しっかりと傭兵たちに言葉をかけ、その信頼を獲得する。
「では行くか。次は北の都ノイザラファルトだ」
「また臨時収入があるかな」
アルフレッドの素朴な呟きに、エイブラハムは笑った。
「あるかも知れんぞ。傭兵団の仕事はいくらでもあるからな」
「そいつは楽しみだな」
「アルフレッド、そんなにお金が欲しいの」
アリシアの問いに、アルフレッドは肩をすくめる。
「別に、何も悪いことじゃないだろ」
「アルフレッド、もう十分さ」エリオットが言った。「お金に困ることはないだろう」
「そうよ」クラリスも応じる。「若くして魔剣使いなんて、世間が放っておかないわ。スーパーヒーローよ」
「なるほどね……それは考えたこともなかったな」
「あまり金金言わない方がいいぞ。英雄のスキャンダルだ。尤も、この長い旅を生き残ったらの話か。さあ、それはさておき、行くとしようか」
エイブラハムが促す。
そして五人は北の都ノイザラファルトへ、魔弾鉄道に乗り込んだ。




