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第十五話

 魔弾鉄道はガレイリア大陸へと渡り、共和国の西の都ウィリアレルトに入った。車窓から見える景色に魔物が映ったこともあるが、この国にはどの程度までグラッドストンの被害が及んでいるのか、それはまだ分からなかった。


 列車から降りると、四人は駅を見渡す。予想以上に大勢の人々で混雑しており、クラリスは「故郷よりは人が多いわね」と言っている。


「とりあえず新聞でも買ってみるか」


 エリオットが言って、一同は駅のコンビニに入って新聞の異なる全国紙を四冊購入した。


「さて……どんなものかな」


 アルフレッドらはそれぞれに新聞に目を通していく。


 魔物との戦は同様に発生しており、新聞から読み取る限りドルシアム王国よりは被害は軽微であるようだが、戦は各地で起こっている。各地の戦線でラオンメルド共和国軍は優勢であることが報じられており、防衛線で魔物の侵入を食い止めていることが記述されている。マスコミの偏向報道といった風もなく、記事を見る限り各地における共和国軍の戦いは緊迫した情勢であることが伝えられている。死者も出ており、辺境の町や村は魔物に襲われており、人々は都会へと避難しているようだった。共和国首相であるレナルドが魔物との徹底抗戦を訴えている。


 またドルシアム王国で起こった国王デリックがグラッドストンに操られていたことは大々的に特集が組まれており、魔剣使いと神光の戦士の一件は大きく報道されている。


 そしてもう一つ特集が組まれているのは、この国にある傭兵団の一件であった。この国には傭兵王エイブラハムを長に頂く四つの傭兵団が存在する。ナイトクロウ、モーニングスター、ティアズオブレイン、ドラゴンブレス、の四つである。彼らは自由意志で魔物との戦いに身を投じており、国から莫大な報酬を得ている。その戦力は無視できないものであり、元々国内には聖鷹騎士団があるだけであった共和国において、魔物との戦いに傭兵団の力は無くてはならない存在になっていた。


 だが、今傭兵団は混乱の中にある。傭兵王であるエイブラハムが王位からの退任を宣言し、次の王を選ぶための議論が沸き起こっているのである。その突然の退任に伴って傭兵団の王を決める総選挙が行われることが大々的に取り上げられている。だが、普段から酒と恋愛と戦いで生き延びている傭兵たちにまともな選挙戦が出来るのか疑問視する識者の声が掲載されている。


 だが、それ以前に、傭兵団についてはまた大きな議論を呼ぶ事態が発生している。現政権が国内の傭兵団を騎士団に組み込むために傭兵団を解体すべきであるとの審議がなされており、傭兵たちからの反発を招いているのだ。自由を愛する傭兵たちにしてみれば、公僕になることなど考えられないことであり、傭兵団長たちからの反発の声が掲載されている。


 ナイトクロウの団長サブリーナは、「私たちは自由意志で戦う。政府の番犬はご免だ」と。またモーニングスターの団長トラヴィスは、「はっきり言って気に食わない。俺たちは設立以来いつだってこの国のために戦ってきた。それを今更鎖に繋ごうなんて馬鹿げている」と。そしてティアズオブレインの団長ロミーは、「悪いけどこの政府のやり方には支持できないね。こんなことをわざわざ言いたくはないが、私らは政府に仕えるために働いているわけじゃないってこと。言ってみれば正義の味方ってやつさ」と。最後にドラゴンブレスのマイルズは、「いつまでも俺たちが力を付けておとなしくしているわけがない、いずれ政府に牙をむく、なんてのは勝手な妄想だ。俺たちがクーデターでも起こすってのか? 馬鹿げているね。俺たちは自由を愛する傭兵団さ」と。


 こうした動きに関して識者からは「自由でいることの代償」として、「これに関しては政府のいらぬ横槍」という意見で一致しており、「どれほど傭兵たちの日常が一般人と違って享楽的であろうと、傭兵団は民間企業と同類であり、契約に見合った働きをしている彼らを公僕として縛り付けるのはお門違いだ。これまでうまくいっていたものを変える理由がない」とのコメントが寄せられている。また、「この法案が議会を通過すれば、恐らく傭兵たちがこの国から去ってしまう可能性もある」として、魔物たちとの戦いがある以上傭兵団の解体は現実的ではないといったコメントが寄せられている。


 また、今回この騒動を引き起こした現政権から政府高官のコメントとして、傭兵王を退任したエイブラハムの存在が危険視されている過激な記事も掲載されている。エイブラハムが復権すれば確実に傭兵団は団結し、国家への反逆に及ぶ可能性がある、と。そして、傭兵たちの最大の支援者であるデイモン氏のコメントも掲載されている。「傭兵たちと長年付き合ってきた私が言うのも心苦しいが、政府の決定には従うしかないだろう。こんな情勢であるからこそ、傭兵団は国に仕える道を心に決めるべきであろう」と。


「何だか内輪揉めで物騒な話になっているな。それどころじゃないだろうに」


 アルフレッドは新聞に目を通して言った。アリシアも頷く。


「このエイブラハムって人、ここにある内容だとどう読んだって危険人物に仕立て上げられているものね」


 エリオットは思案顔だった。


「新聞を読んだだけで実情が全部把握出来るわけじゃないが、俺とクラリスは王族だ。首相に顔を通しておくのも一計かもしれないな」


「そううまくいくかしら。何で非公式に訪問してきたか問われたら何て答えるの?」


「ま、それはそうか……。王族と言っても俺たちは外交訪問の理由もないからな……」


 さて、と。


「これからどうするかだな。天命の導きに従って、傭兵団か、このエイブラハムとやらに会いに行ってみるか」


 アルフレッドの言葉にエリオットは頷く。


「天命の導きとあれば、何らかのリアクションがあるだろう」


「何か嫌な予感がするけど……」


 アリシアが苦笑すると、クラリスは肩をすくめた。


「揉め事に介入するとこっちが厄介者になるかもね」


 そこで、「失礼ですが」と四人に声をかけてきた者がいる。軍服を着た女性だ。


「神光の戦士の四人とお見受けしましたが、違いますか?」


「あなたは?」


 アルフレッドが問い返す。


「私はサンドラ。元傭兵王エイブラハム様の副官を務めております、大佐です」


 これが天命というやつか。四人はサンドラの言葉を待った。


「エイブラハム様からの使者として参りました。閣下がお待ちです。ご案内いたしたく存じますが、よろしいでしょうか」


 それにエリオットが応じる。


「こちらとしては喜んでお受けしたいところです。身分証を見せて頂けますか」


「どうぞ」


 エリオットはサンドラから受け取った身分証に目を通し、それを返した。


「では、エイブラハム殿のところへ案内して頂けますか」


「馬車を待たせてあります。屋敷へご案内します。こちらへ」


 そうして、四人はサンドラと名乗る女性に導かれて、駅を発った。



 馬車の車窓から見える景色は、活気に満ちた西の都の姿だ。通りは馬車が行き交い、歩道には大勢の人々が見える。やがて馬車はメインストリートから外れて進み、一軒の屋敷の前に停車する。


 一口に屋敷と言っても、エイブラハムの屋敷はかなり大きい方だ。エリオットとクラリスは大貴族の邸宅と見まごうた。


 サンドラは門扉を開けると、中庭へと入っていく。


「どうぞ、お入り下さい」


 四人はサンドラの後を付いて進んだ。


 と、向かいから一人の男がやってくる。サンドラはその男にお辞儀した。


「これはデイモン様」


「サンドラか。君からも言ってれ。君の主にははっきりと立場を明確にし、傭兵たちが激発しないように、収める義務が残っているとね」


「申し訳ございません」


「君が謝ることはない。だが、事態が悪化するのを見てはおれんからな。……そちらは客人かね?」


「はい。エイブラハム様の個人的なお客様です」


「そうか。まあ何にしても、君からも説得してみてくれ」


 そう言って、デイモンは立ち去って行った。


「今のがデイモン氏ですか? 傭兵団のパトロンの」


「はいそうです」アリシアの問いにサンドラは頷く。「デイモン様には皆お世話になっているのです。まだ傭兵団が小さかった頃から支援して頂きました」


 そうして、またサンドラは歩き出し、四人も後に続く。


 屋敷の入り口に辿り着くと、サンドラはドアノッカーを鳴らした。ドアはすぐに開いて、使用人が待っていた。


「エイブラハム様に客人です。さあ、皆さま中へ」


 サンドラは屋敷の中へ歩き出す。広大な屋敷の中を行く。しばらく歩いて、サンドラは部屋の前に止まりノックした。


「サンドラです。お申しつけのお客様をお連れしました」


 ややあって、「入ってくれ」と室内から声がした。


 サンドラは扉を開け、アルフレッドらを室内へ招き入れる。


 正面のデスクに姿があったのは、エイブラハムその人である。二十八歳の元傭兵王。


「ようやく会えたな、アルフレッド、アリシア、エリオット、クラリス」


 エイブラハムは席を立ってやってくると、四人と握手を交わす。


「俺たちのことを監視していたのか」


 アルフレッドの素朴な疑問に、エイブラハムは思案顔。


「いや、そのことも含めて、お前たちに言っておくことがある」


 そう言って、エイブラハムは客人用のソファを勧めた。卓上のベルを鳴らして近侍を呼ぶとコーヒーを五つ持ってこさせる。エイブラハムはコーヒーカップに口を付けてから言った。


「実を言うと、俺は既に神託を受けているのだ。光の神々から魔剣グラムを授かり、お前たちが今日やってくることを聞いていたのだ。俺の話を信じられるか」


「もちろんだ」アルフレッドは言った「それなら話は早い。いつなら出立できる」


「まあ待ってくれ。俺の立場については些か面倒なことになっていてな」


「それなら新聞で読んだわ」アリシアが言う。「随分過激なことも書かれていたわね」


「ああ。全く馬鹿げている。だが、俺が王の座から退いたのも、グラッドストンのことがあるからだ。そしてお前たちがやってくることも告げられた。ただ……そのせいだけではないが、傭兵団は今トラブルに見舞われていてな。そのごたごたを放置しておくわけにはいかないのだ」


「一応新聞では読んだが」エリオットである。「政権とうまくいっていないようだな」


「そうだ。全く首相のレナルドは何を考えているのか。今までそんな気配は全くなかったのに。急にトラブルの種をまきやがって」


「どうしてそんなことになったの。心当たりはないの」


 クラリスの言葉にエイブラハムは首を振った。


「首相とはうまくいっていたんだ。それに防衛大臣や聖鷹騎士団ともな。俺や他の団長、それに幹部連中含め、魔物との国防については意見の相違は何らなかった。それが急に傭兵団を騎士団に吸収すると、レナルドが言い出したのが最初だ。防衛大臣も寝耳に水だったそうだ。まあ何はともあれ、それ以来、政府との関係はぎくしゃくし始めた。下の連中にはこれを政府の抑圧と快く思わない連中も多くいてな。激発しないとも限らない。そうなったらお終いだ。反乱となればこっちは賊軍だ。世論を考えるとそれはまず過ぎるだろう。一度でも流血沙汰にでもなれば、取り返しがつかない」


「…………」


 沈黙が室内にのしかかった。


「ところで」アルフレッドは問うた。「神託の件は部下には伝えたのか。他の団長とか」


「ああ。団長には伝えてある。それから、そこのサンドラは俺と一緒に神託の場面に遭遇している。サンドラが携帯端末で撮影して映像を残してくれたからな」


「見せてもらえるか」


「勿論。サンドラ」


「承知しました」


 サンドラは携帯端末を取り出すと、ホログラムで神託の映像を流した。魔剣グラムと、パワーストーンを授かる様子が映し出される。


「確かに」


 そうしてエイブラハムは言った。


「これからまた各傭兵団を視察するつもりだ。団長にも会う。一緒に来てくれないか。団長も他の神光の戦士を知らんのだ。ニュースでお前さんたちの顔写真を見たことはあるが、本人とは初対面だ。まあ、それと、傭兵団支部は実際政治とは無縁の馬鹿騒ぎをしているだけだがな。厄介ごとは俺達幹部クラスで全て請け負っているからな。失礼があるかもしれんが、そこは大目に見てくれ」


「これも天命と言えるのかもな」


 アルフレッドがこぼした。


「その言葉、神々も使っていたな。天命が導くと」


 そうして、数奇な運命に導かれ、アルフレッドらはエイブラハムとともに各地の傭兵団支部を回ることになるのだった。

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