第十二話
王都メラヴィンデルの処刑広場の熱気は凄まじいものだった。呪われた王子と王女だけでなく、他に二人の魔剣使いが処刑されるとあって、群衆の熱気は高まっていた。大勢の人々が携帯端末でその様子を撮影していて、またマスコミのカメラも入っていて、その映像は全国に中継されていた。
そうして、アルフレッド、アリシア、エリオット、クラリスらを乗せた檻が広場に入ってくると、群衆から怒号と罵声が飛んだ。聞くに堪えないその残酷な様子に、同席している王妃ドロシーは国王デリックに嘆願する。
「あなた、なぜこんなことをするの。目を覚まして。あなたは操られているのよ。実の子を殺すなんて、酷すぎるわ」
「ドロシー、これも平和のためだ。彼らは魔剣の呪いに取りつかれている。お前にしたことは謝ろう。だが、これは必要なことなのだ」
「信じられない……」
そうして、アルフレッドらが処刑台に連れていかれ、四人の屈強な処刑人の手によって首切り台に固定される。
殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!
群衆から熱狂的な声が飛ぶ。みな拳を突き上げ、雄たけびを上げている。
そこで、貴賓席の壇上から立ち上がったデリックは、民衆に向かって口を開いた。
「諸君! とうとう悪の根が滅びる時が来た! 呪われし魔剣は破壊され、そして呪われた悪の根源である魔剣使いは今ここに死ぬだろう! これで魔物たちは勢いを失い、必ずや我らが祖国は光を取り戻すことであろう! 諸君らの心もそれに等しいと思う! さあ! 首切り役人よ! この儀式を完成させるのだ!」
デリックの演説が終わると、民衆たちはまた叫んだ。
国王万歳! 魔剣使いに死を! 祖国に光を!
壇上ではアルフレッドらが囁いていた。
「クラリス、君の魔法はどうしたんだ」
「またあの宮廷魔術師に封印されてるの」
「どうにかして脱出しないと。もう時間がないぞ」
「畜生……こんなことになるなんて……今こそ神々の力が必要なのに」
そこで処刑人が怒号を発す。
「おい罪人! 黙ってろ!」
エリオットは処刑人に頭を殴られた。
そしてついにその時がやってくる。斧の準備を整えた処刑役人らが、それを持ち上げて、四人の傍に立った。
「呪うんなら自分を呪いな。王子様王女様、それに不審者ども」
処刑役人は斧を振りかぶった。
その時だった。四つの光の弾丸が飛来して、処刑役人らを貫いた。処刑人は血を噴き出して倒れる。それぞれの光の弾丸は変化して、人型になると、アルフレッドらの拘束を破壊した。
四人の神光の戦士たちは、素早く起き上がった。クラリスは魔法封印の呪符を破り捨てた。そこで、四つの輝く人の姿をした何かを見やる。
「何だ一体?」
すると、光は姿を変え、それぞれ魔剣へと変貌した。エクスカリバー、ミスティルテイン、クラウ・ソラスが、ジョワユーズである。アルフレッドらは魔剣を手に取った。
「死んだんじゃなかったのか魔剣は」
アルフレッドの言葉にアリシアがミスティルテインを手に取って応じる。
「いいタイミングで来たわね。冷や冷やものよ」
「全くだ」エリオットは頷く。「こんな真似が出来るとはね」
「でも助かったわ。ありがとう」
クラリスの言葉に魔剣は明滅して光り輝く。
魔剣を手に入れた四人は、貴賓席に侍従長のバルベルがいることを確認して、剣を抜いた。
「バルベル! 姿を現せ! 貴様らの企みもこれまでだ!」
そこでバルベルは宮廷魔術師バルナルドに意見を伺う。
「構わん。こうなった以上ここで連中を殺せ。それが最大の我々の使命だ」
「カメラが回っていますが」
「構わん。クライマックスだ。茶番劇は終わりにしよう」
「ははっ……では……」
バルベルとバルナルドは、空中に浮かび上がると、処刑台の前に降り立った。恐れをなした群衆は逃げ惑う。
そうして、バルベルは変化し始める。
「バルベル、今度は決着をつけてやるぞ」
「威勢はいいなガキども。だが、これで終わりだ」
すると、バルベルはまた肉体がぼこぼこと盛り上がり、第二形態に変化する。
「くくく……神光の戦士たちよ、更なる地獄を味わうがいい」
そう言うと、バルベルの体がさらに巨大化していく。
「何ですって……!」
何とバルベルはさらに二倍の十メートル近くの巨人に変化した。
「俺様の第三形態は、人間などに止めることは出来んぞ」
群衆はパニックだ。侍従長がモンスターに変化したことで、みな悲鳴を上げて離れていく。それでもカメラや携帯端末はこの衝撃展開を捉えており、誰もが何が起こっているのか理解出来なかった。
「死ね!」
信じがたい爆速で突撃してくるバルベル。
「激! 武盾!」
エリオットが神聖騎士のガード魔法を展開する。巨大な光の盾がバルベルの拳を受け止める。
「剣技・激烈乱舞!」
「剣技・風陣連弾!」
アルフレッドとアリシアの怒涛の剣撃がバルベルが切り裂く。
「蝿どもが!」
バルベルの腕の直撃を受けて二人は吹き飛ばされた。
「魔力・極! 五百パーセント! 魔弾の彗星メテオ!」
クラリスの周囲に多数の光輝く光弾が浮かび上がる。そして、メテオの弾丸がバルベルに襲い掛かる。
大魔法の直撃を受けたバルベルは半壊した。しかしすぐに再生する。
「いちいちうるさい魔術師だ!」
バルベルはクラリスに襲い掛かったが、その拳をエリオットが武盾で受け止める。
「おのれ! 坊ちゃんが!」
バルベルは武盾に拳の連弾を叩き込むが、エリオットは微動だにしない。
アルフレッドとアリシアは、超人化でパワーアップすると突撃。地水火風の属性を魔剣にまとわせ、剣技でバルベルを切り裂く。
バルベルは咆哮し、「闇の深淵より! 深き波動!」拳を地面に叩きつけた。高濃度の闇の波動が炸裂し、四人は吹っ飛び、大ダメージを受ける。
ポーションですぐさま回復するも、バルベルは波動を連打する。
「みんな! 俺の後ろに!」
エリオットは、「剣技・光剛破断!」と巨大な光の盾を構える。それはバルベルの波動を受け止めた。
「死ね死ね死ね死ね!」
バルベルはひたすら波動を連打する。果たして、だがエリオットは耐え続けた。
やがてバルベルは波動連打を止めると、再び格闘戦に移行してくる。
「アルフレッド、アリシア、魔剣を強化するわ」
クラリスは魔力・極四百パーセントで二人の魔剣の攻撃力を上げる。クラリスは魔力回復ポーションを飲んでおく。
「これなら! 剣技・竜神の吐息!」
「激烈乱舞!」
二人の圧倒的な剣技がバルベルを凄絶に破壊する。
「ぬん!」
バルベルはまたしても再生する。
「光烈槍! 聖破!」
エリオットの神聖魔法が巨大な槍となってバルベルを貫通する。
バルベルはまたしても雄たけびを上げると、爆速突撃してくる。エリオットはその拳で吹き飛ばされた。クラリスも直撃を受けて喀血する。
「まずは貴様だ魔術師!」
バルベルはクラリスを踏み潰そうとする。クラリスは転がって懸命に逃げる。
「こっちだバルベル!」
アルフレッドとアリシアの剣技が炸裂する。傷跡には光が残って、バルベルを焼く。怒りの巨人は二人に拳を連打する。アルフレッドにアリシアはアクロバットに回避する。その腕に乗ると、二人はバルベルの頭部に魔剣を突き立てた。
「これでも食らえ!」
二人は超人化でそのままバルベルの肉体を下方に駆けながら魔剣で切り裂いた。バルベルは真っ二つになった。
「二人とも! どいて!」
クラリスは手を突き出す。
「魔力・極千パーセント! 破壊の禁断、獄炎!」
バルベルの足元に魔法陣が展開し、黒い炎が凄まじい勢いで噴き出した。
「光あれ! 聖槍の無刃!」
エリオットの神聖魔法で光の槍が降り注ぎ、この巨人の肉体を滅殺していく。
「無駄だ!」
バルベルはまたしても瞬時に再生する。
「人間の力が俺様に及ぶか!」
この怪物巨人は、雄たけびと共に天に腕を突き出した。
「闇天、雷鳴双!」
天空から闇の雷が無数に降り注ぐ。周囲の民間人や建物を巻き込み、広場は壊滅する。アルフレッドらは雷の直撃を受けてまたしても大ダメージを受ける。ポーション回復するも、雷が次々と降り注ぐ。
エリオットの剣技・光剛破断が光の盾を形成し、仲間たちはそこへ避難する。雷の衝撃が盾を揺らす。
「終わりだ! 闇天、激雷閃!」
極大の雷がエリオットに降り注ぐ。闇の閃光が弾けて爆発する。
魔力のプラズマが晴れると、そこには耐えきった神光の戦士たちの姿があった。
と、そこで四人の魔剣が光り始める。凄まじい神霊力が渦を巻き、空に立ち上る。
「突撃だ! エリオット! 盾を頼む!」
「了解だ!」
四人はバルベル目掛けて加速した。バルベルは闇の炎弾を撃ちまくるも、エリオットの光盾を砕くには至らない。
そうして、クラリスが再びアルフレッドとアリシアのエクスカリバーとミスティルテインを魔力・極千パーセントで強化する。そして自身は魔力・極五百パーセントの攻勢魔術を放つ。
「爆竜! 双炎紅蓮!」
バルベルを挟むように魔法陣が展開し、吹き出した紅蓮の炎がこの巨人を焼き尽くす。そこへアルフレッドとアリシアが切り込む。裂ぱくの気合と共に超人パワーの魔剣をバルベルに突き立てる。ゴワッ! と、バルベルの肉体が崩壊した。そして爆発する白い閃光とともに、バルベルは消滅する。
魔剣の光はプラズマ化しており、大気を震動させていた。
「どうやら、バルベルを倒したようだな、神光の戦士たち。やるではないか」
そこで、宮廷魔術師バルナルドが前に出てくる。その体を暗黒の衣が覆っている。バルナルドは腕を軽く上げて、それから一振りした。宮廷魔術師の姿は消え去り、バルナルドは漆黒の甲冑を身に着けており、暗黒剣ザブルツ=グレを帯びている。
「お前は……父に暗示をかけた闇の剣士」
クラリスは記憶を辿っていた。エリオットも踏み出す。
「貴様がこの国を闇に陥れていた張本人だったとはな」
すると、バルナルドは軽く笑った。
「その通りだ。もっとも、見事に打ち破ってくれたものだ。神光の戦士たち。むろん宮廷魔術師は仮の姿。我が名はスレイファーヴ。闇の帝王に仕える闇の七騎士」
「何だと」
アルフレッドは魔剣を構える。
「ここで決着をつけるつもり? こっちから行くわ!」
アリシアとアルフレッドは超人パワーで加速した。
スレイファーヴはザブルツ=グレを軽く抜いた。すると、凄まじい闇のオーラが吹き出し、二人を切り刻んで吹き飛ばした。暗黒剣を抜刀したスレイファーヴは、赤く光る瞳の邪眼力を使った。しかし、今度はアルフレッドらの魔剣がその眼力を跳ね返した。
「魔力・極五百パーセント! 大地の怒号! 岩力圧殺!」
クラリスが放った魔法で、スレイファーヴの周囲の大地がめくれ上がり、この魔剣士を包み込み、圧力で押し潰そうとした。だが、スレイファーヴは暗黒の衣をまとっていて、魔法は跳ね返された。
「聖狼咆哮! 天の雷!」
エリオットの神聖魔術で空から光に包まれた狼が雷となって駆け下りてくる。しかし、その魔法も暗黒の衣の前にかき消された。
アルフレッドは「我が魔剣よ! エクスカリバー! 聖なる力を以て暗黒の衣を打ち破れ!」そう言って、エクスカリバーを突き出した。魔剣は輝き、閃光がスレイファーヴを襲った。光が晴れて、何とスレイファーヴの暗黒の衣は消失した。
「ほう……」
スレイファーヴはやや驚いていた。しかし。
「尤も今のお前たちでは私を倒すことは出来ん。だが、決着をつけるには早すぎる。お前たちを殺すのは、その機会が到来してからだ」
そう言い放つと、スレイファーヴは、空へ浮かび上がり撤退していった。
静寂が訪れる。
アルフレッドらは、周囲を見渡す。
エリオットが高らかに叫ぶ。
「民よ! 真実は明らかにされた! 全ては宮廷魔術師バルナルドと侍従長に扮した魔物バルベルの陰謀であった!」
エリオットはカメラ目線で呼びかけた。
「全国民よ! 全ては闇の帝王ザカリー・グラッドストンの陰謀である! それは今見た通りのことだ! 魔剣は闇を打ち破るために与えられし神器! 国民よ! 全ては偽りであった!」
そこで王妃ドロシーがやってきた。
「エリオット! クラリス! よく無事で……良かった」
カメラがその姿を捉える。と、そこで、
「陛下! 陛下!」
「陛下、お気を確かに!」
同席していた宮廷人らが騒ぎ始める。
国王デリックは意識を失って倒れたのだった。
いまだ広場はざわめく人民でただならぬ気配であった。
だがとにかくも、陰謀の根は絶たれ、その正体も明らかとなった。
そうして、憶測や情報が飛び交う中、日付は一日変わることになるのだった。




