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第九話

 エリオットとクラリスは、追手を振り切ってムーアメルトに滞在していた。二人とも外に出る時はフード付きの外套にマスクをしている。今は金麗の鹿という宿に宿泊している。エリオットは二階の部屋から外の様子を伺う。人々が道を開ける中、王都からの兵が合流してはまた散っていく。


「外の様子は」


 クラリスの問いに、エリオットは肩をすくめる。


「なかなか厳しいな。何れ父上が差し向けた兵なのだろうけど、しつこく付きまとっている。外をうようよしているよ」


「先に魔弾鉄道に乗ってしまえば振り切れるでしょう」


「ああ、だが先に駅にも兵隊が張り込んでいるだろうな。気付かれずに鉄道に乗らないとな。どうしたものかな……」



 ムーアメルトに到着したアルフレッドとアリシアは、兵隊が行き交う町中を見て、不穏な気配を感じていた。


「何かあったのかな? 兵隊があちこちにいるけど」


 馬上のアルフレッドの問いにアリシアも頷く。


「ええ……何でしょうね。聞いてみましょうか?」


「大丈夫か?」


「兵隊さんが私たちを捕まえる理由なんてないでしょう?」


「魔剣を持っているからな」


 アルフレッドは布で覆われた魔剣に手をかける。


「うまくやるわ」


 そうして、アリシアは馬を降りると、魔剣をアルフレッドに預けて近くの兵隊に声をかける。


「あの……すいません」


 王都の兵は、アリシアをじろりと見やる。


「何だ? 我々は今忙しい」


「いえ、その、私は旅の途中なのですが、何だか町が物騒な雰囲気で……何かあったのかしらと思いまして」


「王子と王女を探しているのだ」


 すると、兵士は携帯端末を取り出して、エリオットとクラリスのホログラムを映し出した。


「この二人を見なかったか?」


「この方たちは?」


「エリオット王子とクラリス王女だ。旅の者と言ったが、見なかったか?」


「いいえ、存じ上げません。王子様と王女様の身に何か?」


「魔剣との関係が疑われているのだ。南へ向かったことが分かっているが……。お前ももし見かけたらすぐに知らせのだぞ」


「はい、ありがとうございました」


 アリシアは兵士が去っていくのを確認して、急いでアルフレッドの下へ戻った。アリシアは兵士の言葉を告げる。アルフレッドは思案顔だった。


「コースト様が言っていたのはこの事だったのか。だから南へ行けと」


「でも……それじゃあこの王子様と王女様が神光の戦士なのかしら」


「そう考えていいだろうな。それにしてもこの国で魔剣狩りが行われているのは本当らしいな」


 アルフレッドは「ふむ」と頷き、「ひとまずどこかで休もう。宿を探さないと」


 そうして、二人は金麗の鹿にチェックインした。



 アルフレッドとアリシアが宿泊する部屋はエリオットとクラリスの隣であった。


 日も落ちて、アルフレッドとアリシアは夕食のため町に出る。町の繁華街で空腹を満たした二人は、夜の街を散策する。


「何だか嘘みたいよね」


「何が?」


「私たちが神光の戦士で、グラッドストンを倒すんだってこと」


「ラモーナ様も言っていた天命ってやつかな」


「天命か……そんなものがあるのね。みんなに天命ってあるのかな」


「さあな。でも、仲間を見つけて、グラッドストンの封印を成功させないと。ラモーナ様の意思を無駄にしないためにも」


「うん……そうだね」


 適当に時間をつぶして、二人は宿に戻った。


 彼らが自分たちの部屋に向かっていた時、前からエリオットとクラリスが歩いてやってくる。王子と王女は顔を隠していて、アリシアも気付かなかった。二人はすれ違っていく。アルフレッドとアリシアは部屋に入るとシャワーを浴びて就寝した。



 

 エリオットとアリシアは駅に向かっていたのだった。巡回の兵士も日中に比べて数は少ない。遅くとも最終列車に間に合えば追跡を振り切れると思っていたのだ。


 しかし、二人が予想だにしない追手がいた。駅周辺に近付いたところで、背後から声を掛けられる。


「王子殿下、王女殿下、やはりここでしたか」


 二人は驚いて振り返った。そこにいたのは、侍従長のエルマーであった。


「陛下は御心配なさっておいでですぞ。さあ、鬼ごっこはやめにして、メラヴィンデルに帰りましょう」


「エルマー……なぜお前がこんなところに」


「私は勅命を受けて動いております。理由はお分かりでしょう」


「母上はどうした」


「ああ……あの気の毒な王妃は、バルナルド様の尋問に口を割りました。陛下の命令で強制魔術ギアスまで使ったのです。随分と意思の固いお方でしたが、あなた方の命を思えばこそですな。さあ、素直に我々に従えば、あなた方の命を頂かなくても済むのです」


 そこで、エリオットとクラリスは戦闘態勢をとった。


「俺たちは最前線で魔物相手に鍛えられている。そう簡単に侍従長ごときに捕まりはせんぞ」


「侍従長か……そうですな。そんな肩書もありましたな」


 エルマーは小さく笑うと、手を突き出した。


「出でよ! 爆炎の闇竜!」


 炎に包まれた闇竜が二人を襲う。火炎竜は王子と王女に命中し、炸裂した。


「何だと……!」


「エルマー……あなたがなぜ魔法を使えるの」


 二人は回復ポーションを飲んで瓶を投げ捨てた。


「色々と……殿下には知らない秘密がこの世界にはあるものですよ。さあ、これ以上私の手を煩わせないで頂きたい」


 エルマーは笑っていた。そこへ兵士たちが詰めかけてくる。囲まれるエリオットとクラリス。


「何事だ! と……これは、エルマー様」


 兵長は侍従長に敬礼した。


「王子と王女を連行しろ。待て、二人の魔法を封印する」


 すると、拘束されたエリオットとクラリスの胸に、エルマーは魔法封印の呪符を取り付けた。


「これで転移や飛行で逃げることは出来まい。よし、連れていけ!」



 アルフレッドとアリシアは外の騒ぎに目を覚ました。窓から外を見ると、通りに人が集まっている。


「何だ? 何かあったのか」


「外に出ましょう」


 二人は宿を出ると、近くの見物人に声をかけた。


「あの、何かあったですか?」


「ああ、魔剣の呪いに取りつかれていたエリオット王子とクラリス王女が捕まったらしい。何でも、王都を抜け出して魔物を率いて反乱を企てていたらしい。国王陛下の勅命だ。例え子供であっても、処刑は免れないだろうな」


 アルフレッドとアリシアは絶句したが、二人とも頷き合った。王子と王女を救い出さねば。



 アリシアは千里眼のパワーストーンをセットするとエリオットとクラリスの現在地を探った。メインストリートをこちらへ向かってくる。二人とも手枷を付けられて両脇を兵士に拘束されている。先頭にエルマーがいる。


「アルフレッド、どうする? ここじゃ助け出すにも人目も兵士も多すぎるわ」


「とりあえず様子をしばらく見よう。俺は超能力のパワーストーンを使うことにする」


 それから十分ほどして、エリオットとクラリスを連れた一団が道を通過していく。群衆から心ない言葉が飛ぶ。


「呪われた王子! 王女め!」


「災いをもたらす王家の逆賊めが!」


「処刑だ! 裏切り者に死を!」


「王家を穢した者に死を!」


 アルフレッドとアリシアは過ぎ行くエリオットとクラリスを見やりながら歩き出した。


 アルフレッドはテレパシーで王子と王女に呼びかける。


(王子様、王女様)


 エリオットとクラリスはやや驚いた様子を見せる。


(そのまま。あんたらを助けたい。俺は神託を受けた神光の戦士アルフレッド。仲間だ。もう一人連れがいる。アリシア。今、あんたらの右の道を歩いている)


 そこでアルフレッドらはエリオットとクラリスとアイコンタクトを取った。アルフレッドは頷く。


(そうだ、俺たちだ。諦めるなよ)


 そうして、エルマーを先頭にした一団は町の治安部隊が管理する牢獄に二人を閉じ込めた。


「明日の朝出発する。私が迎えに来るまで待っておれ。私は陛下にこのことを知らせておく」


「承知いたしました」


 エルマーの言葉に、兵長は頷き敬礼する。



 アルフレッドとアリシアは超人化のパワーストーンで屋根から屋根へ飛び移り、治安部隊の屯所の上までやってきた。既に千里眼でエリオットとクラリスの位置は確認している。


「よし、アリシア、幻術使いのパワーストーンがあったろう。兵士たちの注意を引くんだ。俺が中へ突入して王子と王女を救出する」


「了解。気を付けて」


「そっちもな」


 そうして、アリシアは別の建物の屋根に飛び移ると、兵士達に幻術を解き放った。猛烈な炎の幻影を映し出し、屯所に大火事を偽装したのだ。兵士たちはパニックになり、屯所の中からも兵士が飛び出してきた。


 アルフレッドは飛び降りると、駆け抜けた。


「誰だ貴様!?」


 二人の兵士が残っていたが、アルフレッドは加速して、手刀と蹴りで片づけた。それから、開錠のパワーストーンで牢屋の扉を開いて二人の手枷を外した。


「アルフレッドか。一体どうやって」


「話は後だ。外でアリシアが注意を引いている。行くぞ」


 三人は屯所を抜け出した。


(アリシア、そろそろいいぞ。合流してくれ)


(了解、最後にとっておきをお見舞いして足止めしておくわ)


(分かった)


 アリシアは屯所が炎で爆発した様子を幻術で展開し、兵士たちを足止めしておいた。それから彼女も合流する。


「お待たせ」


 そこでエリオットとクラリスは呪符を破り捨てる。


「助かった。アルフレッド、アリシア」


「兄上、早くしませんと。駅までは転移出来ます。まだ最終列車が残っているかも」


「ああそうだった。アルフレッド、アリシア、妹は魔術師なのだ。駅へテレポートする。捕まれ」


「分かった」


 そうして、四人は魔弾鉄道のムーアメルト駅へ瞬間移動した。



 乗車チケットを購入した四人は時刻表を確認する。


「いいぞ、まだ時間がある」


 エリオットは言って拳と手のひらを打ち合わせた。


「これから魔弾鉄道で南の都ウィンレスタへ向かう。俺たちは南方のグラーネルト大神殿跡へ来るようにと神託を受けたのだ。光の神々が魔剣を授けるとな」


「そういうことか。話は大体分かる。俺達も神託を受けて魔剣を授かった」


「その件については、詳しく聞かせてくれないか。列車の中で」


 程なくして、魔弾列車が駅に入ってきた。四人の神光の戦士たちは乗り込むと、ウィンレスタへ向けて発った。


 兵士たちは屯所の大火事の幻影に支配され、幻術を破ることも出来ず、誰も王子と王女が脱走したことに気付くことはなかった。

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