第零話
光の神々は新たに生まれた神の子を恐れた。神々はその子がやがて闇に堕ち、恐るべき存在になることを予知していた。そこで神々は彼を世界の深部、深い深い奈落の奥底に封じ込めた。そこには神々が邪悪であると断じた者たちが封印されており、決して奈落の封印は破ることが出来ないものだった。
彼は自分が神の子であることを知らず、生まれながらそうした邪悪なる者たちと奈落で生きていた。友と言えば邪竜や神々に追放された巨人族や諸々闇の眷属の王侯貴族たちであるが、彼はその者たちから真実を聞かされる。曰く、彼が元は光の神々の子孫であり、未来予知によって彼が世界を崩壊させるものであるとして恐れられ、神々によってこの奈落に封印されたのだと。
それを聞かされた彼の衝撃は大きかった。自分は光にも闇にもなれず、この奈落に追放されたのだと。己の正体を知った彼は、神々を憎んだ。そして復讐を誓った。彼は友であるとある闇の者たちから名を授かった。その名は、ザカリー・グラッドストン。かつて神々と戦い敗れた、だが高貴なる由緒正しい闇の帝王の名である。
名前にはパワーがあるのだ。名前を得たことによって、彼に闇の帝王の力が蘇り、グラッドストンは復活した。そのパワーは恐るべきものである。
ザカリーは奈落の封印を破壊すると、闇の軍勢を率いて光の神々の世界に通じる道、すなわち生きとし生ける者たちが平和を営む地上界に侵略を開始したのだった。
地上は闇の眷属率いる魔物たちの軍勢になす術なく蹂躙された。幾つもの城や町が魔物たちに破壊され、世界は混沌と深い闇の中に落ちた。人々の希望は途絶え、神に祈るばかりであった。
光の神々も恐れていた。あの神の子がザカリー・グラッドストンとして生まれ変わったことは神々にとっても衝撃であった。だが、神々にも希望はあった。闇深まる時、神光の戦士現る。それは古い予言であるが。闇の帝王に抗う者たちが現れることを示唆していた。神々はその者たちに地上界の命運を託すのであった。
そうして幾ばくかの時が流れる。