四十五話 前準備
「かぁああぁああぁ」
「ぎぃいいああああああ」
「こぁああぁあああああ」
目的の中央の階段のところまで行けた私たち。でもその場所にはたくさんの『感染』者がいて、そのまま通り過ぎるのは無理な数だった。
私も壁越しから見たけど、上がる階段のところはいないけど、折り返して上る階段のところから『感染』者の顔が見える。声を聞いても複数体いるような声も聞こえるし、このまま上って何もいないという確証は………ない。
「うわー………ゾンビの声滅茶苦茶近くで聞こえるんですけどー………」
「うん。きっと上ってすぐの場所にいるのかも………」
「勘弁してくれよ。この状況誰も想像してないだろ」
一緒にその光景というか、声を聞いていたともちゃんと影野くん。影野くんに至ってはもううんざりと言わんばかりの顔をして呆れている。
何でこうなっているんだって顔をしているけど、現状は変わることはない。それを聞きながらともちゃんも『同文』と言って顔を引っ込めていく。
私と影野くんはそれを見ながら同じように顔を引っ込め、みんながいる背後を見ながら影野くんが一言。
「どうするんですか? これ」
全く想定していなかった。ううん。もっと想定しておけばよかったことなんだけど、起きてしまったことを悔やんでも仕方がない。そう思いながら私は金剛寺さんたちを見る。
金剛寺さんは階段の向こうを見ながら考えて、お兄ちゃんも考えているけど、ほかのみんなは困ったような顔をして、射鉄くんは青ざめながら階段を見つめ、肩を震わせている。
笹江さんと道仙くんは平静を装っていたけど、大量にいるであろう『感染』者を前に不安の顔を出しているし、壁家くんに至っては大きな体をがたがた震わせている。
「上がどうなっているのかわからない。目的の場所は三階の左側にある音楽室。そこまで行けるかどうかもわからない。『感染』者もどれだけなのかもわからない。
そんな状況で三階に行かないといけない。
しかもどれだけいるのかもわからないのだ。
崩壊した世界の外の世界を知った時よりも恐怖を感じるのは、見えない何かがいるからかもしれない。
全体の一部を見た時よりも、見えない何かに直面した時の方が怖く感じてしまう。
そう思いながら私はどうしようか頭を抱えると、ともちゃんが持ってきたバッグからとある薬品を取り出し――
「硫酸………かけとく? いっちょ爆弾投下みたいな感じで」
「やめなさい」
ともちゃんは最終手段として使おうと………いや絶対に使ってはいけないんだけど、それを使おうとバッグから取り出していた(ちゃんと個包装している)。
それを見て制止をかける金剛寺さん。
さすがにあれは使ってはいけないだろう。こんなところでみんなの心が一つになり、ともちゃんの案に対して金剛寺さんの言葉に同文と言わんばかりに頷く。
頷く私たち。そして制止の声を聞いて、ともちゃんは危ないそれをバッグの中にしまう。しまったところを見て道仙くんが何かに気づいたかのようにバッグを漁り、そして私たちにむけて言う。
「これを使えばいいんじゃないかな?」
そう言いながら道仙くんはバッグからあれを取り出し、それを私たちに見せる。見せられた私たちはそれを見て、あの時話していたことを思い出してお互いの顔を見て頷きあう。ともちゃんは不服そうだったけど、私は道仙くんに向けて言う。
「やって、みよう………。何かあったら私たち三人で何とかするから」
「雨森さん、俺たちも武器は持っている、できる限り何とか戦う」
道仙くんの目は本気だ。本気で、笹江さんや壁家くんも武器を手に持って戦う体制になっている。
武器と言っても理科室の椅子を分解して、足のところを釘とかで補強したものなんだけど。それでも多少武器になるはず。
それを手に持って戦おうとしている光景を見て、私は頷き、付け加えて――
「でも、無理しないで。嚙まれたら終わりなんだから」
と念を押すように言う。
その言葉を聞いたみんなは頷き、道仙くんは武器と片手にあれを持ち、笹江さんと壁家くん、影野くんとともちゃん。射鉄くんも角材を少しだけ強化した武器を手に持って立ち上がるそぶりをする。
お兄ちゃんもリンさんから受け継いだ釘バッドを手に持ち、金剛寺さんはグーサインを出して構えている。私もバールを手に持って立ち上がれるように前かがみになりながら階段を見つめる。
どれだけいるかわからないなら――少しでも遠くに誘導すればいい。
よくある方法だ。
よく映画とかでやる方法を使って、彼らを誘導する。
『感染』者は音に反応する。その習性を利用した。あれを使って――




