四十四話 第一関門
「そういえば………安全地帯って具体的にどこなんだい? 俺たち安全地帯のこと、大まかにしか知らないけど」
みんなでそろって安全地帯へと足を進めて、抜き足差し足の状態で歩きながら進んでいると、最後尾でお兄ちゃんが前にいる笹江さんに声をかけた。
笹江さんはそれを聞いて首をかしげるようなしぐさをしてから「あー、確かに話していませんね」と言いながら前にいる影野くんと射鉄くんにむけて声をかける。
「安全地帯は音楽室なんです。あそこって防音室で声も聞こえないし楽器とか思い物を運べば簡素なバリケードにもなるから、たしか………生き残っていた教頭先生がそれを指示したんだよね?」
「あーそうだったそうだった。そのは………じゃない。教頭もすぐにかまれてゾンビになったけど」
「んでそのあと陸津先生が先導して、保険の癒依先生を連れて家庭科室に入ったんだっけ」
「そうそう。そうだったね」
「陸津先生と医島先生がいなかったら、俺たちはどうなっていたか………考えられないな」
「ゆいちゃん先生とまじめなむつつ先生がいるだけでメンタル安定していたし、本当にあの二人が生き残っててよかったよ」
笹江さんたちの言葉を聞いて、壁家くんと道仙くん。ともちゃんが声を小さく出して言う中、私はみんなの会話の中で聞いた言葉を思い出す。
陸津先生と医島先生。
二人とも面識があるどころか、私は不登校になる前までずっとお世話になっていた先生たちだ。
医島先生は精神的に参っていた私のメンタルケアをして、保健室登校を推薦するほど私のことを気にかけてくれた先生。今思い出しても頭が上がらない先生だ。
そして、陸津先生は医島先生以上に印象的というか………、私の価値観を変えてくれた人。私の一時的な将来を変えてくれた人でもある。
そう………、私の価値観を変えてくれた人人でもあり、私が不登校になった原因の一つ。
恨んではいない。むしろこれは私のせいでもある。
私が思い上がらなければこうならなかった。
先生は何も悪くない。悪いのは………私なんだ。
そう思いながら抜き足差し足の状態を維持して進んでいると、先頭を歩いていた金剛寺さんが後ろにいる壁家くんと道仙くんに向けて小さく声をかけた。
「そういえば、その安全地帯になっている音楽室は、いったいどこなんだ? ここから遠いのか?」
周りには幸い『感染』者はいないけど、念には念を入れての小さな声。その声を聞いて答えたのは道仙くんだった。
「この学校は四階建てで、一階の理科室の上――三階の左側にあります。中央の階段と左右にある階段。その左側の階段のすぐ近くなんですけど、その場所はもうバリケードを張っていますので、上るとしたら中央階段しかありません。三階まで登れたらあとは進むだけです」
「よし。わかった。中央の階段だな」
道仙くんの言葉を聞いて金剛寺さんは頷きながら前を見る。
確かに、音楽室は防音で二重のドアにもなっている。あそこなら『感染』者もやすやすと壊すことはできない。何よりあの先には防火扉がある。あれを使えばバリケードも強固なものになるし、絶好の安全地帯だ。
「確かに、音楽室って今にして思うとすごい『感染』者にとって嫌な構造だね」
「なにゾンビ視点になってんの希?」
思わず口に出てしまった言葉を聞いてなのか、ともちゃんが私に声をかけて呆れて溜息を吐く。
吐いたそれを聞いた私はすぐに首を振って「ち、違う違う………! ただそう思っただけで」と弁解しようとしたけど、それをする前にともちゃんの「あいた」という小さな声が聞こえ、進行も止まった。
進行が止まったことを確認した私はすぐに背後にいる影野くんに静止の合図をかけ、後ろにいたみんなが足を止めて前にいる私たちを見る。私は首を振って『何が起きているのかわからない』というそれをジェスチャーで示した後、道仙くんたちの方を見る。
道仙くんと壁家くんは振り向きながら私たちに親指で前を指さす動作をする。
前を見ろ。そう動作で言いながら。
その動作を見て前を見ると………目の前には道仙くんと壁家くん。そして金剛寺さん………の前にある。階段の手すり。それが視界に入った瞬間私は理解した。
話している間に中央の階段につくことができたんだ。よかったと安堵のそれを吐きそうになったけど、金剛寺さんたち三人の顔色を見て、安堵のそれを吐くことなく私は聞く。
「道仙くん………、なんで先に進まないの? 何かあるの?」
私は道仙くんに聞く。
道仙くんは頷きつつも前を見て、小さく、震える声で言った。
前に進まない理由。階段についたのに、喜ばない理由を簡潔に。
「何かあるどころの話じゃない。階段にゾンビが数体。しかも首だけの奴も数体いるんだ。さらに最悪なことに………二階からもゾンビのうめき声が聞こえる」
きっと――二階もゾンビだらけで、三階四階も、無事かどうかわからない状況だ。
道仙くんの話を聞いている時に聞こえる『感染』者の雄たけび。
それが複数も聞こえて、この先――階段の先に何体もいることを知らせているような叫び。
『感染』者の叫びを聞きながら、私たちは最初に関門の前に立っていることを知り、同時に、この先に行かなければ安全地帯には行けないことを、嫌でも痛感してしまった。




